それは、とっても小さな原子力エンジンに直接つながっている発電の機械だった。
この原子力発電機は、服を温めるだけでなく、ほかにもいろんな仕事をこなすための大切なエネルギー源なのだ。
こうして、上陸用空気服の点検は無事に終わった。
乗組員たちは、いつでもこれを着て外に出られるバッチリの準備をととのえたのだった。
するとデニー博士は、すぐに三つ目の命令を出した。
それは、みんながそれぞれの「新しい持ち場」につくことだった。
新しい持ち場といっても、火星の上でこれからの生活や作業をするための役割分担のことだ。
河合は、マートン技師の下でエンジンの係をすることになり、ネッドは食堂の給仕係、張はコックさんを勤めることになって、みんな地球にいた時と同じ役目にもどったわけだ。
山木は、まわりを見張る「見張員」として大活躍することになり、正式に六つの方向が一度に見られるテレビジョン――通称「テレビ見張器」の前に席が用意された。
山木は普段からよく気がつくし、むしろ心配性ですこし神経が細かすぎるくらいのところがあるから、この見張り役にはまさにうってつけだった。
その山木は、博士の三つ目の命令が出てすぐ、テレビ見張器の画面に向かって、全神経を目に集中させ、四方の様子を見渡していた。
すると彼は、いったい何を見つけたのだろうか、突然、
「おやッ」
と声を漏らし、テレビ見張器の画面を大きくするための「拡大ハンドル」をつかむと、それを大急ぎでグルグルとまわしはじめた。
テレビの画面には、どこまでも広がる見渡す限りの沙漠と、その向こう側にある緑の密林がうつっていた。
山木が拡大ハンドルをまわすと、その密林は画面の上ですごいスピードでこちらへ近づいてきて、映像はどんどん大きくなっていった。
密林をつくっている木は、なんだか地球の「松」にちょっと似ている、とってもたくましい木のようだった。
それがぎっしりと生い茂っているのだ。
木の高さは十メートルぐらいはありそうだった。
なかなかに背の高い木だった。
だが、山木がびっくりしたのは、その木が背の高いことでもなければ、密林の景色がすごいことでもなかった。
その密林のどこかのすき間で、何かがモゾモゾと動いているのを見つけたからだった。
それは密林の木と木のかげに、見えたり隠れたりしていた。
(火星の生きものにちいない……!)
山木は、その姿をもっとハッキリ見きわめようとして、テレビ見張器のズームアップをさらに上げていった。
すると、木と木の間でうごめいていたものは、だんだんと大きくなり、ハッキリと画面にうかびあがってきた。
なるほど、それはまちがいなく生きもの――動物だった。
だけど、なんて奇妙な形をした動物だろう!
ひとことで言うなら、それは「タコ」と「虫」をかけ合わせたような姿をしていた。
大きな頭を持っていて、その頭を細くて頼りなさそうな体が、重そうにやっと支えているのだ。
頭の上には、ぎょろりとした大きな目が二つついていた。
鼻は見あたらないかわりに、絵本にかいてあるタコの口にそっくりな、とがったストローのようなものがアゴの上につき出ているのだった。
そのうえ、顔の両側にはロバの耳にそっくりな大きな耳がついていた。
それから、とっても不思議なことに、頭のてっぺんには、畑の作戦をじゃまするネキリムシが持っているような、長くてニョロニョロした触角らしきものが二本だか三本だか生えていた。
その触角はすごくやわらかそうで、頭の上でさかんにウネウネと動きまわり、まるで触角だけでダンスを踊っているようにも見えた。
その動物の首から下をみると、見ているほうがかわいそうになるくらいガリガリに痩せていた。
小さなコブのような胴体に、グニャグニャと曲がる三本の腕、そして同じようにグニャグニャした三本の脚――この脚は、やっぱりタコの足を思いださせるものだった。
いったい何なんだろう、この気味の悪い、正体のわからない生きものは……。
山木は、そのへんてこな動物のあまりの珍しさに心を奪われてしまい、それを発見したことを博士たちに報告するのさえ忘れてしまうほどだった。
その奇妙な動物は、木と木の間をぬうようにして、あっちへ行ったりこっちへ来たりと、いそがしそうに動きまわっていた。
そして、その中には、木の幹にピタリと体をくっつけて、大きな目をぐるぐるとまわしながら、触角をピンと立てて、こちらの宇宙艇の方をじーっと見つめているものもいた。
「……へ、へんな動物が見えます!」沙漠の向うの、正面の密林の中です」
山木はこのときやっと正気にもどり、火星の動物を発見したことについて、第一声の報告を叫んだのである。
「なに、へんな動物だって……」
デニー博士が、山木のうしろに近づいてきた。
山木は、テレビ見張器の画面の上を指さした。
「あ、これか。
いたな。
やっぱりそうだったか。
これはなかなか油断ができないぞ。
相手はわれわれよりも相当に発達した身体をしている……」
デニー博士は、すっかり感心した様子で、木の間にうごめく生物を見つめた。
「先生、あれは何という動物ですか。
タコみたいですが、タコなら林の中にいるのはおかしいですね」
山木は、そう言いながら博士の方をふりかえった。
「あれはタコではない。
あれは多分、火星人だろうと思う」
「ええっ、火星人。
あれが火星の人間なんですか」
「うん。
まずそれに間違いないだろうね。
こうして見たところ、体のつくりが、わしがこれまで研究し、想像していたところとよく一致しているからねえ」
「へえーっ。
あれが火星人だとすると、火星人って気持が悪いものですね。
僕はやっぱり地球の上と同じような人間が住んでいると思っていたんですが……」
「いや、そうはいかない。
なにしろ気候も違うし、火星のできかたや歴史も違うんだし、そのうえに何万年も火星独得の進化と生長をとげたんだから、地球人類と同じ形をしたものが、この火星の上に住んでいるとは考えられなかったのだ」
博士と山木が話をしているうちに、他の乗組員たちも、テレビ見張器の前へぞろぞろと集まってきた。
誰もみな、火星人が見えるというので、興味をわき立たせて集まってきたわけである。
「いやらしい格好をしているね」
「これじゃちょっとつきあいづらいね」
「どれが男で、どれが女かな」
「さあ……どれがどうなんだか、まったく見当がつかない。
とにかく“火星には美人が多い”なんていう話を聞いたことがあったが、あれは全然うそだとわかったわけだ」
「やれ、気の毒に……」
どっと笑い声が起きた。
「先生、林の中に、火星人がずいぶんたくさん集まっています。
なんだか気味が悪いですね。
こっちへ向かって来るんじゃないでしょうか」
山木が、密林の奥にひしめき合って目を光らせている火星人の大集団を見つけ出し、デニー博士へ報告した。
博士は、それにはもう気がついているようだった。
「……なんとか平和的に、火星人と交渉したいものだ。
だが、油断はできない。
こっちも十分に武装をして行かねばならぬ」
魚は、進んで火星人に近づくつもりだったらしい。
そして平和的に、事を決めたい考えであることがわかった。
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