初級翻訳・猫吉親方 第2話

楠山 正雄

猫吉は、じぶんのけいりゃくが、うまくあたったので、だいとくいで、馬車よりも先へあるいて行きました。
すこし行くと、まきばの草を刈っているお百姓たちに出あいました。
すると猫吉は、
「もうじき王様が馬車に乗ってお通りになるが、そのとき、このまきばはだれのものだ、といっておたずねになったら、これはカラバ侯爵のものだと、おこたえしなければいけないぞ。
もしそうしなかったら、それこそ植木鉢にはえたちいさな草を引っこ抜くように、おまえたちの首を、引っこ抜いてしまうぞ。
」といって、すっかりお百姓たちを、おどしつけました。
王様が、やがてそこを、お通りかかりになりますと、なるほど猫吉のおもったとおり、このまきばは、だれのものだ、とおたずねになりました。
けれどお百姓たちは、すっかり猫吉におどかされていましたから、
「わたしどものご主人、カラバ侯爵さまのものでございます。
」と、みんな声をそろえて、こたえました。
王様は、うまうまと、だまされておしまいになりました。
そして、侯爵にむかって、まじめにおよろこびをおっしゃいました。
「どうもたいした土地もちでおいでだな。
」
 そこで侯爵は、すかさず、そのあとについて、
「ごらんのとおり、このまきばからは、まい年、なかなかたくさんな取りいれがございますので。
」と申しました。
四

 まずこういうやり方で、猫吉親方は、いつも馬車の先に立ってあるいて行っては、麦刈り、草刈りをしている男とみると、おなじようなことをいって、おどしました。
「王様がお通りになったら、これはみんなカラバ侯爵の畠でございますというのだ。
そういわないと、おまえたちみんな、挽き肉にしてしまうぞ。
」
 そういってあるいたあとに、すぐ王様は通りかかって、麦畠も、牧場もみんなカラバ侯爵のものだときかされました。
そのたんびに、王様は、カラバ侯爵が、たいへんな広い領地をもっているのに、すっかりびっくりしておしまいになりました、そうしてそのたんびに侯爵にむかって、
「どうもたいしたご財産で。
」といいました。
このあいだに、猫吉親方は、ひとりさきに、どんどんあるいて行って、とうとう人くい鬼が住んでいる、りっぱなお城へ来ました。
この人くい鬼は、世にもすばらしい大金持で、王様が、みちみち通っておいでになった、カラバ侯爵のものだという広大な領地も、じつはみんな人くい鬼のものでした。猫吉は、この人くい鬼のことについてよく知っていました。そこで、ずんずんとお城の中へ入っていくと、
「ご近所を通りかかりましたので、あなた様にごあいさつをせずにお話しするわけにはまいりませんと思い、おじゃまいたしました」
と、心からうやまっているようなふりをして言いました。
それを聞いた人くい鬼は、すっかり気をよくして、人くい鬼なりのおもてなしで猫吉をむかえました。
さて、しばらくゆっくりと休ませてもらったところで、猫吉はおそるおそる、こうたずねました。
「あなた様は、ご自分でその気になれば、どんな動物の姿にもなれると伺っておりますが、それでは、ライオンやゾウといったような、あんなに大きな動物にもなれるのでしょうか?」
すると、人くい鬼はあわてて、
「なれるさ! ならないわけがあるまい。よし、うそではない証拠に、今すぐライオンになってみせよう!」
と言ったかと思うと、あっという間に大きなライオンに変身してしまいました。
猫吉は、自分のすぐ目の前に大きなししがふいに現れたので、びっくりしてしまい、長ぐつをはいたまま、危険も何も考えずに、軒下の雨どいへと駆け上がりました。
しばらくたって、人くい鬼をやっともとの姿に戻るのを待ってから、猫吉はそろそろと雨どいから降りてきました。
「いやあ、本当にびっくりいたしました! わたくしは、今にも一のみにされるかと思って、ブルブルとふるえていたのでございますよ。ところで、これまた人から聞いたお話で、あてにはならないのですが、あなた様はさらにずっと小さな動物、たとえばネズミ、ハツカネズミのような小動物にも、なろうと思えばなれるそうですね。まさかそんな、こればかりはとても信じられませんがねえ」
こう言って、猫はうたがい深そうな目を向けてみました。
「なに、信じないだと!」
と、人くい鬼はおこって大声を出しました。
「よし、すぐに小ねずみになってみせよう!」
人くい鬼は、そう言うと同時に一匹のハツカネズミに変身してしまいました。
そして、ちょろちょろと床の上を駆け回りました。
猫吉は「しめた!」と思うと同時に、すばやくとびかかり、頭からむしゃむしゃと食べてしまいました。

そのとき、お城の外のつり橋を王様の馬車が渡ってくる音が聞こえてきました。
猫吉はその音を聞きつけると、さっそくお城の門のところへ出ていき、王様にこう言いました。
「さあ、どうぞ王様、カラバ侯爵のお城へお入りくださいませ!」
王様は、さっきからこのお城のことに気がついていました。
そして、いったい誰のお城なのだろうと思いながらも、中はさぞ立派だろうから一度入ってみたいものだと思っていたところでした。
ですから、猫吉がそう言うのを聞いて、王様はますます驚いてしまいました。
「なに、ここも侯爵のお城なのか! いやはや、お庭といい建物といい、これほど立派なお城は見たことがないぞ。どれ、中を見せてもらおう。案内を頼むぞ!」
王様が馬車からおりると、猫吉はそのあとにつづきました。
カラバ侯爵はお姫様に手を貸して、そのあとを歩きました。
やがて大広間に入ると、きれいに飾られたテーブルの上に、とても豪華なごちそうがずらりと並んでいました。
じつは、このごちそうは、今日遊びに来るはずだった人くい鬼の友達のために、鬼が用意しておいたものだったのです。
しかし猫吉は、それがわざわざ王様やお姫様のために用意されていたかのように見せかけました。
人くい鬼の友達の方も、王様がいらっしゃったと聞いて遠慮し、帰ってしまっていたのです。
やがて、みんなはテーブルにつくと、ごちそうを楽しく食べました。
王様は、お姫さまと同じように、侯爵の立派な人柄にすっかりほれ込んでしまいました。
そのうえ、侯爵がこんなにも大金持ちであることを知り、なおさら素晴らしい若者だと思ったのです。
そこで、お酒を五、六杯ほどすすめたあと、王様は言いました。
「どうだろう、侯爵、もし嫌でなければ、うちの姫と結婚してくれないか? あなたは私たちにとって、文句なしの相手だ」
侯爵はそのとき、うやうやしくおじぎをしたあと、王様のありがたい申し出をよろこんで受けることにしました。
そしてその日のうちに、さっそくお姫さまと結婚式を挙げました。
さて、猫吉はその後、大貴族にとり立てられました。
それからはもう、やたらにネズミを追いかけたりせず、気楽にのんびりとした毎日を送ったということです。
親から譲り受けた財産に頼ってぬくぬくしているよりも、若いうちは、自分の知恵と腕を頼りに生きるのがいちばんなのです。

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