初級翻訳・眠りの精 第3話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

アヒルたちはあとずさりして、たがいに押しあいながら、「早く言いな。
早く言いな」と、ガアガアさわぎたてました。
そこで、コウノトリは、暖かいアフリカのこと、ピラミッドのこと、砂漠を野ウマのように走るダチョウのこと、などを話しました。
しかし、アヒルたちには、コウノトリの言うことがわかりません。
それで、たがいに押しあいながら、言いました。
「どうだい、みんな、こいつばかだと思うだろう!」
「うん、たしかに、こいつはばかだよ!」シチメンチョウはこう言って、のどをコロコロ鳴らしました。
コウノトリは何も言わずに、ただアフリカのことばかりを心に思っていました。
「おまえさんは、きれいな細い足をしているね」と、シチメンチョウは言いました。
「五十センチでいくらするんだい?」
 すると、アヒルたちは、「ガア、ガア、ガア!」と、ばかにしたように、笑いました。
けれども、コウノトリは、なんにも聞えないような顔をしていました。
「いっしょに笑ったらどうだい」と、シチメンチョウは言いました。
「ずいぶん、しゃれたつもりなんだからな。
それとも、おまえさんには低級すぎたかい。おや、おや! こいつはちっと足りないや! おれたちは、おれたちだけで、ゆかいにやろうぜ!」こう言って、クッ、クッと鳴きました。
すると、アヒルたちは、「ガア、ガア、ガア!」と大さわぎを始めました。
こうして、まわりのみんながおもしろがっている様子は、ちょっとゾッとするほどでした。
けれども、ヤルマールは鳥小屋へ行って、とびらをあけ、コウノトリを呼びました。
コウノトリは、ヤルマールのあとをついて、甲板にとび出てきました。
いまでは、からだも、すっかり十分に休まっていました。
コウノトリは、ヤルマールにお礼を言いたいみたいに、何度も大きくうなずいていました。
それから、大きなつばさをひろげて、暖かい国にむかって元気にとんでいきました。
ニワトリたちはクッ、クッと鳴き、アヒルたちはガアガアおしゃべりをし、シチメンチョウは顔をまっかにしました。
「あした、おまえたちをスープにしてやるからな!」と、ヤルマールは言いました。
けれども、やがて目がさめたときには、いつもの自分の小さなベッドの中に寝ていました。
それにしても、オーレ・ルゲイエがゆうべ連れていってくれた旅は、本当にふしぎでたまらない旅でした!

木曜日

「いいかい」と、オーレ・ルゲイエは言いました。
「こわがっちゃいけないよ。
ごらん。
ここに、小さなハツカネズミがいるね」こう言いながら、かわいい、ちっちゃなハツカネズミをのせた手を、ヤルマールのほうへさしだしました。
「このハツカネズミはね、きみを結婚式に招待しにきたんだよ。
ここで、二ひきのハツカネズミが、今夜、結婚することになっているのさ。
そのふたりは、きみのおかあさんの食料品室のゆかの下に住んでいるんだよ。
あそこは、とっても住みごこちのいいところなんだってさ!」
「でもね、あんなにちっちゃなネズミの穴から、どうしてゆか下へはいっていけるの?」と、ヤルマールは聞きました。
「ぼくにまかせておけば、大じょうぶさ!」と、オーレ・ルゲイエは言いました。
「いま、きみを小さくしてあげるからね」
それから、オーレ・ルゲイエがあの魔法のステッキでヤルマールのからだにさわると、ヤルマールのからだは、たちまちどんどん小さくなって、ついに指くらいの大きさになってしまいました。
「もう、すずの兵隊さんの服がぴったりだよ。
きっとよく似合うぞ! パーティーのときは、りっぱな軍服を着ていたほうが、かっこよく見えるからね」
「うん、そうだね」と、ヤルマールが言ったとたん、もう、この上なくかわいらしいすずの兵隊さんのように、すてきな軍服をきれいに着ていました。
「どうか、おかあさまの指ぬきの中に、おすわりくださいませ」と、小さなハツカネズミが言いました。
「そうしていただければ、わたくしがひっぱってまいりますから」
「おや、お嬢さんにそんなお手数をかけさせては、なんだか申しわけないなあ」と、ヤルマールは言いました。
こうして、みんなはハツカネズミの結婚式へ出発しました。
はじめに、みんなはゆか下の長ーい廊下にはいりました。
そこは、指ぬきに乗ったままでやっと通れるくらいの高さでした。
くさった木の切れはしからポッとあかりが出ているので、廊下じゅうがほんのりと明るくなっていました。
「ここは、とってもいいにおいがしませんこと?」と、ヤルマールを引っぱっているハツカネズミが言いました。
「廊下じゅうにしおれたベーコンの皮をしいてあるんですのよ。
こんなにすてきなことってありませんわ!」
 まもなく、みんなは結婚式の会場に到着しました。
右側には、小さなハツカネズミの女の子たちがひとりのこらず並んで立っていて、ひそひそ声で話しながらクスクス笑い合っていました。
左側にはハツカネズミの男の子たちがズラリと立ちならび、前足で自分のヒゲをカッコよくナデナデしていました。
部屋のまんなかには、花嫁さんと花婿(はなむこ)の姿が見えました。
ふたりは中身をくりぬいたチーズのかわの中に立っていて、みんながみている前で、何度も何度もチューをしていました。
それもそのはず、ふたりはもうずっと婚約していたし、いまからまさに結婚式をあげようというところなのですからね。
それから、お客さまがどんどんふえてきました。
とうとうしまいには、みんながおたがいにもうすこしで踏みつぶされそうなくらい、ぎゅうぎゅう詰めになりました。
そのうえ、花嫁さんと花婿さんが戸口のところに立っていたものですから、だれひとり外に出ることも、中にはいることもできません。
部屋の中にも、廊下とおなじように、ベーコンの皮がすきまなくしきつめてありました。
これが、なんとごちそうのすべてだったのです。
デザートには、エンドウマメが一つぶだけ出ました。
このエンドウマメには、家族のなかのひとりが、花嫁と花婿のイニシャル(名前の頭文字)を歯でしっかりとかみつけておきました。
もっとも、頭文字だけしか彫れなかったけれどね。
こんなふうに、なにもかもがふつうの結婚式とはまったくちがっていました。
ハツカネズミたちは、口々に「とってもりっぱな結婚式だったね!」「お話もすごく楽しかった!」と言いあっていました。
こうしてパーティーが終わり、ヤルマールもおうちへ帰っていきました。こうして、ほんとうに上品ですてきなパーティーに行ってきたのです。
ただ、自分のからだをうんとちぢこまらせて小さくし、すずの兵隊さんの軍服を着ていかなければなりませんでしたけれど。

金曜日

「ちょっと信じられないかもしれないけれど、おとなの中にも、わたしにそばにいてもらいたい人が大ぜいいるんだよ」と、オーレ・ルゲイエは言いました。
「わけても、なにかわるいことをしてしまった人がそうなのさ。
『やさしい、小さなオーレさん』と、その人たちはわたしに言うんだ。
『ああ、どうしても眠れないんだ。
一晩じゅうこうして横になっていると、今までに自分がやったわるい行いが、みんな目に見えてくるんだよ。

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