そして、お姫さまが窓から部屋へと滑り込み、魔法使いがそのまま引き返そうとしたその瞬間、旅のなかまはギュッと魔法使いの長い黒ヒゲを掴むやいなや、一瞬で剣を抜き放ち、その憎たらしい顔をした首を肩の付け根からズバッと切り落としました。
魔法使いに、こちらの顔を見るヒマさえ与えないほど素早い手際でした。
さて、首を失った体の方は湖の魚たちに投げ与えてやりましたが、首だけは水できれいに洗い、絹のハンカチでしっかりと包んで、宿屋さんまで大切に抱えて持ち帰りました。そして、そのままベッドに入ってぐっすりと眠ったのです。
その次の日の朝、旅のなかまはヨハンネスにそのハンカチの包みを差し出して、「お姫さまが『さあ、私が今考えているものは何でしょう?』と尋ねてくるまで、絶対にこの結び目をほどいてはいけないよ」と言い聞かせました。お城の大広間には、たくさんの人がぎゅうぎゅうづめになっていて、まるで大根をどっさりまとめて、タバにしばったみたいでした。
えらい裁判官たちは、いつものように長い椅子に深々とよしかかり、頭にはフワフワのクッションをあてていました。
年とった王さまは、すっかり新しいご豪華なお召し物に着替え、金のかんむりも王様のつえ(笏)もピカピカに磨き上げて、とても威厳のあるお姿でした。
それにくらべて、お姫さまのほうはというと、お葬式にでも行くかのように全身真っ黒なドレスを着ていて、顔もひどく青ざめていました。
「わたしは今、何を考えているでしょう?」
お姫さまはヨハンネスにたずねました。
ヨハンネスはすぐに、ハンカチの結び目をほどきました。
すると、中からいきなり魔法使いの首が飛び出してきたので、誰よりもまずヨハンネス本人がギクッとおどろいてしまいました。
あまりにも恐ろしいものを見せられて、周りのみんなもガタガタと震え出しました。
そんな中で、お姫さまだけはまるで石の像のように固まって座り込んだまま、一言もしゃべることができませんでした。
それでも、ようやく立ち上がると、ヨハンネスに向かってそっと手を差し出しました。
だって、見事に当てられてしまったのですから!
お姫さまは、もう誰の顔も見ようとせず、はぁーっと大きなため息ばかりついていました。
「さあ、あなたは私の夫です。今晩、結婚式をあげましょう。」
「そうしてくれると、わしも本当にうれしいよ。」とお年寄りの王さまは言いました。「ぜひ、そうすることにしよう!」
集まったみんなは「万歳! 万歳!」と大歓声をあげました。
王さまを守る兵隊さんたちは、音楽を演奏しながら街じゅうを練り歩きました。
お寺の鐘が一斉にゴーンゴーンと鳴り響き、お菓子屋さんのおかみさんたちは、お砂糖でできたお人形につけていた黒いお葬用のリボンを取り外しました。
街のどこもかしこも、あふれんばかりの大喜びでした。
広場の真ん中には、なんと3頭の牛のお腹に子カモやニワトリをぎっしり詰めて丸焼きにしたごちそうが運び出され、誰もが自由にひと切れずつ切り取って食べられるようになっていました。
街の噴水からは、とびきり上等のぶどう酒がどっと吹き出していました。
パン屋さんで1シリングのかたいパンを1つ買うと、レーズンがいっぱい入った大きなビスケットを、おまけで6つもくれました。
夜になると、街じゅうにパッとあかりが灯りました。
兵隊さんたちはドン!ドン!とお祝いの大砲を打ち鳴らし、男の子たちは爆竹をパンパンと鳴らして大はしゃぎです。
お城の中では、飲んだり食べたり、乾杯したり、跳ね回ったりの大さわぎ! 紳士たちも美しいお嬢さんたちも手を取り合ってダンスを踊り、そのにぎやかな歌声ははるか遠くまで聞こえてきました。
ダンスや輪踊り だ~い好き
きれいな女の子たち あつまれ
くるくるまわるよ 糸車
くるりくるりと 踊り子ちゃん
踊れよ跳ねろよ いつまでも
靴のかかとが とれるまで!
さて、無事に結婚式は終わったものの、お姫さまはまだ魔法がかかったままの心の状態でしたから、ヨハンネスのことなんか少しも好きではありませんでした。
そこで心配した旅のなかまは、例の白鳥のつばさから羽を3本抜き取ると、それとほんの少し薬の水を入れた小さなビンをヨハンネスに手渡しました。
そして、こうやり方を教えてあげました。
「お水でいっぱいにした大きなたらいを、お姫さまのベッドの前に置いておくんだ。お姫さまがそれと知らずにベッドへ上がろうとするとき、後ろからちょんとおせば、お姫さまは水の中にドボンと落ちる。
たらいの水にはあらかじめ3本の羽を浮かべて、薬の水を入れた小びんから2、3滴たらしておき、その水にお姫さまの体を3回沈めてから引き上げるんだ。そうすれば魔法の力が綺麗さっぱり解けて、それからはヨハンネスのことを大切に思うようになるはずだよ。」
ヨハンネスは、教えられたとおりにやってみました。
お姫さまは水に落ちた瞬間、「キャッ!」と高い悲鳴をあげたかと思うと、メラメラと炎のような目をした、大きな黒い白鳥に変身し、押さえつけられた手の下でバサバサと大あばれしました。
2回目に水から引き上げると、黒かった白鳥はすっかり白くなっていて、首のまわりに黒い輪っかが2、3個残っているだけになりました。
ヨハンネスは、心を込めて神さまにお祈りをささげながら、3回目、白鳥に水をあびせました。
その途端、白鳥は元の美しいお姫さまへと姿を変えました。
お姫さまは前よりもずっとずっと美しくなり、きれいな瞳にいっぱいの涙を浮かべながら、魔法を解いてくれたお礼を伝えました。
その次の朝、年とった王さまは、お城じゅうの役人たち全員を引きつれてやって来ました。
そこでお祝いを言いに来る人たちの行列は、その日の夜遅くまで後を絶ちませんでした。
一番最後にやって来たのは、旅のなかまでした。けれど、もうすっかり旅の支度を整えていて、杖をつき、リュックサックを背負っていました。
ヨハンネスは、その顔を見るなり何度も何度も頬をすり寄せ、「お願いです、どうか旅なんて出ないで、このままここにいてください!」と頼み込みました。「僕がこんなにも幸せになれたのも、みんなあなたのおかげなのですから!」と、ヨハンネスは言いました。
けれども、旅のなかまは首を横に振って、どこまでも優しく、人なつっこい声で答えました。
「いいや、いいや、もう私が帰っていく時が来たんだよ。
私はほんの恩返しをしただけなんだ。
君は覚えているかい? いつだったか、悪い奴らのせいでひどい目に遭わされそうになっていた、ある死んだ人のことを。
あのとき君は、持っていたお金を全部、悪い奴らに渡して、その死んだ人を静かにお墓の中で休ませてくれたよね。
実は、あの死んだ人こそが、私なんだよ。」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、旅のなかまの姿はふっと消えてしまいました。
さてさて、結婚のお祝いは、まるまる1か月も続きました。
ヨハンネスとお姫さまは、今ではもう、心の底からお互いを愛し合っていました。
年とった王さまも、毎日、本当に楽しい日々を過ごしていました。
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