初級翻訳・旅なかま 第8話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

もし答えを間違えてしまったら、もう二度と君に会えなくなってしまうのだから」

そう言って、二人はお互いに誓いのキスを交わしました。

やがてヨハンネスは町へ出て、お城に入っていきました。

大広間には、もうたくさんの人たちが集まっていました。

裁判官たちは、ひじ掛けのついた大きなイスに体を深く沈め、柔らかい鳥の羽毛が詰まった枕(まくら)を頭にあてていました。

なにしろこの人たちは、ものすごくたくさんのことを考えなければならないからなのです。

そのとき、お年寄りの王さまが立ち上がり、白いハンカチを目にあてて涙をぬぐいました。

そうしているうちに、お姫さまが入ってきました。

昨日見たときよりも一段と美しく、集まったみんなに向かって、にこやかにあいさつをしました。

そして、ヨハンネスにはわざわざ手をさしのべて、「あら、おはようございます」と言いました。

さて、いよいよヨハンネスが、お姫さまの考えていることを当てる順番がやってきました。

まあ、そのときのお姫さまったら、なんて親しみあふれる優しい目でヨハンネスを見つめたことでしょう!

ところが、ヨハンネスの口から、ただひとこと「靴」という言葉が飛び出した瞬間、お姫さまの顔色はガラリと変わり、チョークのように真っ白になってしまいました。

そして、全身をガタガタと震わせたのです。

けれど、もうどうしようもありません。

見事、ヨハンネスが言い当ててしまったのですから!

ほっほう! ほっほう!

お年寄りの王さまが、どれほど喜んだことでしょう!

あまりにも嬉しくて、王さまは見事な宙返りをひとつ、みんなに見せてくれたほどでした。

すると、みんなも大喜びで手をたたき、王さまと、見事に正解を言い当てたヨハンネスのことを、大歓声でたたえました。

旅のなかまも、まずはうまくいったと聞いて、ほっと胸をなでおろしました。

けれど、ヨハンネスは静かに手を合わせて、神さまにお礼を言いました。

そして、神さまはきっと残りの2回も守ってくださるにちがいない、と信じたのです。

さて、次の日も続けて試練がおこなわれることになっていました。

その日の夜も、昨日の夜と同じように過ぎていきました。

ヨハンネスがぐっすり眠っている間に、旅のなかまはお姫さまの後を追いかけ、山へ飛んでいく途中で、今度はムチを2本も引っ張り出してきて、前よりも激しくお姫さまを打ちすえました。

旅のなかまは誰にも姿を見られないまま、すべてをしっかりと聞いて帰ってきました。

お姫さまが明日は「手袋」のことを考えるつもりだったので、旅のなかまはまた夢で見たかのように装って、そのことをヨハンネスに話してあげました。

ヨハンネスは今度も間違いなく言い当てたので、お城の中は大きな喜んだ歓声であふれかえりました。前に王さまが見せてくれたみたいに、今度はお城のみんなが、そろって宙返りをしてみせました。

そんな大さわぎの中で、お姫さまだけはソファに横たわったまま、ひ言もしゃべりませんでした。

さあ、こうなってくると、最後の3回目もヨハンネスが見事に当てられるかどうか、すべてはそれ次第ということになりました。

それさえ上手くいけば、美しいお姫さまと結婚できるうえに、年とった王さまが亡くなったあとは、国をまるごと譲り受けることができるのです。

その代わり、もし失敗してしまえば、命を奪われたうえに、魔法使いにあの綺麗な青い目ん玉をペロリと食べられてしまうのです。

その日の夜も、ヨハンネスは早くからベッドに入り、夜のお祈りをささげると、すっかり安心しきって眠りにつきました。

けれど、旅のなかまは眠るどころではありません。

例の羽を背中にしっかり縛りつけ、剣を腰につるし、むちも3本ぜんぶ体に巻きつけて、お城へと飛んでいきました。

外は、自分の目や鼻すら見えないほどの真っ暗闇でした。

おまけにものすごい荒れ模様で、屋根の瓦は吹き飛ぶし、お姫さまの庭園にあるガイコツのぶら下がった木も、強い風でアシの茎みたいにグラグラと折り曲げられるほどでした。

ひっきりなしにイナズマが光り、雷がゴロゴロと、一晩中やむ気がないかのように鳴り響いていました。

やがて、窓がパーッと開き、お姫さまが飛び出してきました。

その顔はまるで死人のように真っ青でしたが、こんなにもひどい悪天候なのに、「これでもまだ嵐の激しさが足りないわ」とでも言いたげな様子でした。

お姫さまの白いマントは風にあおられて空の中でひるがえり、まるで大きな船の帆のように、くるりくるりとめくれ上がりました。

けれど、旅のなかまが例の3本のむちでバシッ、バシッと叩き、それこそ地面にぽたり、ぽたりと血のしずくが垂れ落ちるほど打ちすえたので、お姫さまはもう少しで途中で飛べなくなってしまうところでした。

それでもどうにかこうにか、山までたどり着くことができました。

「まあ、なんてひどなあられだったのかしら!」とお姫さまは言いました。「こんなひどいお天気のときに外へ出たのは、生まれて初めてだわ。」

「その代わり、今度は最高にいいことがあるかもしれないよ」と魔法使いは言いました。

お姫さまは、ヨハンネスに2回続けて見事に当てられてしまったことを話しました。明日もまた当てられて、ついにヨハンネスの勝ちが決まってしまったら、自分はもう二度とこの山に来られなくなるし、魔法も使えなくなってしまうのだと言って、すっかり落ち込んでしょげかえっていたのです。

「今度こそは絶対に当たらないよ」と魔法使いは言いました。

「あの男には口が裂けても思いつかないようなことを思い浮かべるのさ。万が一、これでも当たるというなら、あの男はワシよりずっと凄腕の魔法使いに違いない。まあまあ、とにかく楽しくやろうじゃないか!」

そう言うと、魔法使いはお姫さまの両手を取り、ちょうどその部屋にいた小さな鬼や鬼火たちと一緒に輪になって踊り始めました。

すると、壁にいた赤いクモまでもが上へ下へと楽しそうに飛び跳ねまわり、まるで火花がバチバチと飛び散っているように見えました。

フクロウが太鼓をたたけば、コオロギは口笛を吹き、黒いキリギリスはハーモニカを鳴らします。

いやあ、ほんとうに賑やかで楽しげなダンスパーティーでした。

みんなが心ゆくまで踊り明かすと、お姫さまは「そろそろ帰りましょう。遅くなるとお城で大騒ぎになってしまうわ」と言いました。

そこで魔法使いは、少しでも長く一緒にいられるようにと、途中まで送っていってあげようと言いました。

そして二人は、ヒューヒューと猛烈な嵐が吹き荒れる外へと飛び出していきました。

旅のなかまは「今だ!」とばかりに、3本のむちで二人の背中が砕けんばかりに、思いっきりぶちのめしました。

さすがの魔法使いも、これほど激しくあられの降る荒れた空へ出たのは生まれて初めてでした。

さて、お城の近くまでやってきて、いよいよお別れというとき、魔法使いはお姫さまの耳もとに口を寄せて言いました。

「ワシの頭のことを思い浮かべてごらん」

けれど、旅のなかまはその言葉もひとつ残らず、しっかりと聞き漏らさずに覚えてしまいました。

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