初級翻訳・旅なかま 第1話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

かわいそうなヨハンネスは、お父さんが重い病気にかかり、今にも命が消えてしまいそうだったので、深い悲しみに沈んでいました。

小さな部屋の中には、ヨハンネスとお父さんの二人しかいません。
机の上のランプは、今にも消えてしまいそうにゆらゆらと揺れていて、夜もすっかりふけていました。

「ヨハンネス、お前は本当にいい子だったよ」と、病床のお父さんが言いました。
「だから、この広い世界へ出て行っても、神様がきっとお前を助けて、幸せにしてくれるはずだよ」

そう言って、優しい目で見つめながら、深いため息をひとつ吐くと、お父さんはそのまま静かに息を引き取りました。
その姿は、まるで眠っているだけのようでした。

けれども、ヨハンネスは涙があふれて止まりませんでした。この子にはもう、この世界にお父さんもお母さんも、お兄さんも弟も、お姉さんも妹も、誰もいなくなってしまったのです。

なんてかわいそうなヨハンネスなのでしょう。

ヨハンネスはベッドの前にひざをつき、亡くなったお父さんの手にほおをすり寄せて、しょっぱい涙をぽろぽろと流し続けました。

やがて、いつの間にかまぶたが重くなり、ベッドの固い脚に頭をもたれかけたまま、ぐっすりと眠り込んでしまいました。

眠っている間に、ヨハンネスは不思議な夢を見ました。
お日様とお月様が空から降りてきて、自分にお辞儀をして敬っている姿を見たのです(まるで聖書のお話にあるように!)。
それから、亡くなったはずのお父さんが、すっかり元気で健康になって現れ、本当にうれしい時に見せるような笑顔で、カラカラと楽しそうに笑う声を聞かせてくれました。
長く美しい髪の上に金の冠をかぶった、とてもきれいな女の子が、ヨハンネスに向かって優しく手を差し出しました。
するとお父さんが「ごらん、なんてすばらしいお嫁さんを迎えることができたんだろう。世界中で一番美しい人だよ」と言いました。

「えっ?」と思った瞬間、ヨハンネスはパッと目を覚ましました。

美しい夢はあとかたもなく消え去り、お父さんは冷たくなってベッドに横たわっていました。
部屋には、誰ひとりとしていません。
本当になんてかわいそうなヨハンネスなのでしょう。

次の週、お父さんの遺体はお墓の下に埋められました。
ヨハンネスは棺のすぐそばにぴったりと寄り添って歩いていきました。
これでもう二度と、あんなに優しかったお父さんの顔を見ることができなくなってしまうのです。

棺の上に、バラバラと土のかたまりが落ちていく音を、ヨハンネスは聞いていました。
いよいよ最後、棺の端っこがほんの少し見えていました。
その瞬間、ひとすくいの土がかぶせられると、それも見えなくなってしまいました。

それを見つめているうちに、まるで胸が引きちぎられそうなほど、強い悲しみがこみ上げてきました。

周りの人たちが歌う賛美歌が、とても美しく響いていました。
その歌声を聴いているうちに、ヨハンネスの目からまた涙があふれ出てきました。

でも、思いきり声をあげて泣くと、ふっと心がすっきりとして澄み渡っていきました。

深い緑の木々の上に太陽がポカポカと輝いていて、まるで「ヨハンネス、そんなに悲しんでばかりいちゃだめだよ。ほら、青々と澄みきった空をごらん。きみのお父さんもあの高い天国にいて、これから先、きみがずっと幸せでいられるように神様にお願いしてくれているんだよ」と話しかけてくれているかのようでした。

「ああ、ぼく、絶対にずっといい子でいよう!」と、ヨハンネスは心に誓いました。
「そうすれば、いつか天国でお父さんにまた会えるはずだ。会えたら、どんなに楽しいだろう! その時は、話したいことが山ほどあるぞ。それにお父さんからも、いろんなことを教えてもらえるだろうな。天国の素晴らしい場所も、たくさん案内してくれるに違いない。生きている時も、お父さんはこの世界の色々な面白いお話をいっぱいしてくれたものな。ああ、そんな日が来たら、絶対にどんなにワクワクすることだろう!」

ヨハンネスは、自分に言い聞かせるようにしっかりそうつぶやくと、思わずニッコリと微笑んでいました。
それでも、頬には涙がぽろぽろとつたって流れていました。

頭の上のトチノキの木立からは、小鳥たちが「ピイチク、ピイチク」と楽しそうにさえずる声が聞こえてきます。
小鳥たちはお葬式に集まっているのに、どうしてこんなに楽しそうなのでしょう?
それは、亡くなったお父さんがいまや高い天国へと上り、自分たちよりもずっと大きくて美しい翼をはやすことができたことや、この世界でとても心優しく生きてきたおかげで、あちらへ行っても神様の恵みを受けて幸せに暮らしていることを、ちゃーんと知っていたからなのです。

この小鳥たちが、深い緑の木立を飛び立ち、遠くの世界へと向かっていくのをじっと見送りながら、ヨハンネスも自分まで一緒にはばたいて飛んでいきたくなりました。けれども、なによりもまず、大きな木の十字架を削って作り、それをお父さんのお墓に立ててあげなければなりませんでした。

夕方、ヨハンネスが出来上がった十字架を持って行ってみると、なんということでしょう!
お墓の土はまんまるくきれいに盛られていて、色とりどりの美しい花で飾られていたのです。
それは、ヨハンネスの知らない誰かが、心から飾ってくれたものでした。
亡くなったお父さんはとてもやさしい人だったので、街の人たちからも本当に愛されていたのです。

さて、次の日の朝早く、ヨハンネスはわずかな荷物を小さな包みにまとめました。
そして、残された財産である五十ターレル(昔のお金)と、二、三枚のシリング銀貨を、腰のベルトへしっかり結びつけました。
これだけの準備で、あてもなく広い世界へと旅立とうというのです。

いよいよ出発する前に、ヨハンネスはまずお墓参りに行きました。
お父さんのお墓の前で「主のお祈り」を捧げると、こう呼びかけました。
「お父さん、さようなら。ぼく、これからもずっと良い子でいます。だから神様に、ぼくが幸せになれるようにお願いしてくださいね」

ヨハンネスがこれから歩いていこうとする野原には、すべての花たちが、あたたかな太陽の光を浴びて、生き生きと美しい色で咲き誇っていました。
そして、風が吹き抜けるたび、花たちはコックリコックリと首を振っています。
まるで「緑の国へよくいらっしゃいましたね。ここはとってもきれいでしょう?」と語りかけているかのようでした。

けれどもヨハンネスは、もう一度だけ後ろを振り返り、思い出の詰まった古いお寺(教会)にお別れを告げました。
このお寺で、ヨハンネスは子供のころに洗礼を受けました。
日曜日になると、いつもお父さんに手を引かれてやって来ては、一緒にお祈りをしたり賛美歌を歌ったりしたものでした。

そのとき、ふと見上げると、高い塔の窓の所に、お寺に住む小さな妖精(ニース)が、赤いとんがり帽子をかぶって立っているのが見えました。
妖精は、目に強い光が差し込んでまぶしいので、肘を曲げておでこにかざしているところでした。

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