まぶたが重くなって目を開けていられなくなり、そのままぐっすりと深いねむりにおちてしまいました。
旅のなかまは、ヨハンネスをイスからそっとだき上げると、ベッドまで運んで寝かせてあげました。
夜がふけて、外は真っ暗やみになりました。
旅のなかまは、あの白鳥から切りとっておいた二まいの大きなつばさを、自分の肩にしっかりと結びつけました。
そして、あの足をくじいたおばあさんからもらった三本のムチのうち、一番長いのをポケットに突っこみました。それから窓をあけて、町の丘からお城の方へと、ひらひらと空を飛んでいったのです。
それからお姫さまの寝室の窓の下まで来ると、物かげにそっとかくれて様子をうかがっていました。
町はひっそりと静まりかえっています。
ちょうど時計が、夜中の十二時十五分前を告げたときでした。
ふっと窓が開いたかと思うと、お姫さまが長い白いマントを羽織り、その上に真っ黒なつばさをつけて、ひらりと空へ舞い上がったではありませんか!
お姫さまは町の空をつきぬけて、向こうに見える大きな山の方へと飛んでいきました。
そこで、旅のなかまはお姫さまに気づかれないように自分の姿を透明にすると、あとを追いかけながら、ムチでお姫さまをピシッ、ピシッとうちました。
ムチでうたれるたびに、ひどく血が流れ出しました。
いやはや、なんともすさまじい空の旅になったものです。
風がお姫さまのマントを大きな船の帆みたいにパンパンにふくらませ、その上からお月さまの光がほんのりと透けて見えていました。
「ああ、ひどいあられだわ! なんてひどいあられなの!」
ムチがあたるたびに、お姫さまはそう叫びました。
まったく、ひどいことをしているお姫さまなんですから、うたれて当然です。
それでもようやく山までたどり着き、トントンと戸をたたくと、そのとたんにゴロゴロと激しいカミナリが鳴りひびいて、山がパックリと大きな口をあけました。
お姫さまは中へ入っていきました。
旅のなかまも、そのあとに続いて中へ入りました。
でも、姿を消しているので、だれも気づきません。
二人が長いろうかを通っていくと、両側の壁がなんだか不思議にキラキラ光っていました。
それは、何千もの「火グモ」が壁の上をぐるぐると走り回って、火花みたいに光っていたからでした。
それから、金と銀で作られた大きな広間に入りました。
そこには、ひまわりと同じくらい大きな赤や青の花が、壁でキラキラとかがやいていました。
でも、その花をつむことはできません。
なぜなら、花のくきは気味の悪い毒ヘビで、花だと思っていたのは、そのヘビが大きな口からはき出している「炎」だったからです。
天井には一面にホタルが光り、水色のコウモリがうすいつばさをバタバタとはばたかせていました。
本当に、なんとも言えない変わった光景です。
床の真ん中には、王さまがすわるイスが一つ置いてあり、それを四頭の馬のガイコツが背中にのせていました。
馬をあやつる道具は、真っ赤な火グモでできています。
さて、そのイスはミルク色のガラスで作られていて、ざぶとんはといえば、小さな黒いネズミたちがぎゅっと集まって、おたがいのしっぽをかみ合っているという、おそろしいものでした。
イスの上には、バラ色のクモの巣であんだ天がいがつるしてあり、そこには宝石をちりばめたように、きれいな緑色をしたハエが止まっていました。
そこへ、王冠をかぶり、王さまのつえを手にして、にくたらしい顔をしたおじいさんの魔法使いが、どっしりとイスに座っていました。
魔法使いはお姫さまのひたいにキスをすると、すぐとなりの立派なイスに座らせました。
やがて、音楽が始まりました。
大きな黒いコオロギがハーモニカを吹き、フクロウが太鼓の代わりに、羽でおなかをポンポコとたたいています。
なんとも、とぼけた音楽でした。
豆つぶみたいに小さなかわいい子鬼たちが、ずきんに「鬼火」をともして、広間の中をおどり回りました。
こんなにたくさんの化け物たちがいても、旅のなかまの姿はだれにも見えません。彼はそっと魔法使いのイスの後ろに立って、何もかも見たり聞いたりしていました。
さて、そこへ、いばりくさって気取った魔法のお城の役人や女官たちが、しゃなりしゃなりと出てきました。
でも、正しい目で見れば、すぐに正体がわかってしまいます。
彼らは、ほうきの柄にキャベツの頭をくっつけただけのバケモノで、ししゅうをした立派な服を着せられ、魔法使いに命をふきこんでもらって動いているだけだったのです。
どうせ見せかけだけのものですから、中身がどうであろうとおかまいなしです。
しばらくダンスが続いたあと、お姫さまは魔法使いに、また新しく結婚を申し込んできた者が現れたことを話しました。そこで、お姫さまは「明日のお城で、あの若者をためすために、何を心の中で思い浮かべておけばいいかしら?」と魔法使いに相談しました。
「よしよし、いい方法を教えてあげよう。」と、魔法使いは言いました。
「なあに、とっても簡単なことを思い浮かべるのさ。そういうものほど、かえって分からないものだからね。そうだなあ、自分の靴(くつ)のことでも考えてごらん。それなら絶対に当たらないはずだ。それで首をはねてしまえばいい。ところで、明日の晩ここにやって来るときには、その男の目ん玉を忘れずに持ってきておくれよ。久しぶりに食べたいからね。」
お姫さまは、ていねいに頭を下げて、目ん玉を忘れずに持ってきますと約束しました。
魔法使いが山の入口を開けてあげると、お姫さまはお城へ向かって飛んで帰っていきました。
けれど、旅のなかまはどこまでも後ろをついていき、ムチで思いっきりバシッ、バシッとうちすえました。
お姫さまは「ああ、なんてひどなあられなの!」と何度も泣きごとを言いながら、一生懸命に逃げて、やっとのことで自分の部屋の窓から中へ逃げ込みました。
旅のなかまも、そのまま宿屋さんへと飛んで帰りました。ヨハンネスはまだぐっすり眠っていたので、そっと羽をはずして、自分もベッドに入りました。
なにしろ、ものすごく疲れていたでしょうからね。
さて、次の日の朝、まだあたりが暗いうちに、ヨハンネスは目を覚ましました。
旅のなかまも一緒に起きて、「昨日の夜は本当にふしぎな夢を見たよ。お姫さまと、お姫さまの靴の夢を見たんだ。だから、ためしに『お姫さま、あなたはご自分の靴のことを思い浮かべて、それを当てさせようとしているのでしょう?』と言ってごらんよ」と話しました。もちろんこれは、山の中で魔法使いが言った言葉をそのまま聞いただけなのですが、そんな素振りはこれっぽっちも見せず、ただ、お姫さまが自分の靴のことを考えているんじゃないかと聞いてごらん、とだけ言ったのです。
「僕にしてみれば、どう答えても同じことさ」と、ヨハンネスは言いました。
「きっと君が夢で見たとおりなんだろうね。僕はいつだって、優しい神さまが見守ってくださっていると信じているから、安心しているんだ。でも、お別れのごあいさつだけはしておこうね。
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