初級翻訳・雪の女王 第6話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

夕べの鐘が、死んだ人たちの上に、悲しげに鳴り響いています」

「あなたのお話を聞いているうちに、すっかり悲しくなったわ!」と、小さなゲルダは言いました。
「あなたのにおいが、ずいぶん強いものだから、あたしもその死んだ娘さんのことを思い浮かべてしまうわ。
ああ、だけど、カイちゃんはほんとうに死んだのかしら? バラの花は地面の下に沈んだのだけど、カイちゃんは死んではいなかったって言ってるわ!」

「リン、リン」と、ヒヤシンスの鐘が鳴りました。
「あたしたちは、カイちゃんのために鳴っているのじゃありませんよ。あたしたちは、そんな人を知りません。ただ、あたしたちの歌を歌っているだけですわ。あたしたちの知っている、たった一つの歌をね」

それから、ゲルダは、つやつやした緑の葉のあいだから、輝き出ている、タンポポの花のところへ行きました。
「あなたは、小さな明るいお日さまのようね」と、ゲルダは言いました。「どこへ行ったら、あたしのお友だちが見つかるか、あなた知らない?」
すると、タンポポはひときわ美しく輝いて、もう一度ゲルダを見つめました。
タンポポはどんな歌をうたったでしょうか? でも、その歌も、カイのことではありませんでした。
「春の始まりのころでした。とある小さな庭に、神さまのお日さまが暖かく照っていました。お日さまの光は、隣の家の白い壁をつたって、すべり落ちていました。その壁のすぐそばに、春の最初の一輪の黄色い花が咲いていました。そして、暖かいお日さまの光を浴びて、キラキラと金色に輝いていました。年老いたおばあさんが、庭の椅子に腰かけていました。そこへ小間使いをしている、貧しいけれどきれいな孫娘が、ちょっと訪ねてきました。娘はおばあさんにキスをしました。この幸せなキスには、黄金が、心の黄金がありました。口にも黄金、大地にも黄金、朝の空にも黄金! ほら、これがわたしのお話ですよ」と、タンポポは言いました。

「ああ、お気の毒な、あたしのおばあさん!」と、ゲルダはため息をついて言いました。「きっと、あたしに会いたがっていらっしゃるでしょうね。そして、カイちゃんがいなくなった時と同じように、あたしのことを悲しんでいらっしゃるでしょうね。でも、あたし、すぐにおうちに帰るわ。カイちゃんもいっしょに連れてね。――お花たちに聞いてもだめだわ。みんな、自分の歌ばっかりうたっていて、カイちゃんのことはちっとも教えてくれないんですもの」

それから、ゲルダはかわいい着物のすそをからげて、早く走れるようにしました。けれども、スイセンの上を飛び越そうとしたとき、スイセンがゲルダの足を打ちました。そこで、ゲルダは立ち止まって、細長い黄色い花を見て、「なにか知っているの?」と尋ねながら、スイセンのほうへ体をかがめました。

スイセンはなんと言ったでしょうか?
「わたしは自分が見えるんですよ。自分を見ることができるんですよ」と、スイセンは言いました。「ああ、わたしはなんていいにおいなんでしょう! ――上の小さな屋根裏部屋に、かわいらしい踊り子が、衣装を半分だけつけて立っていますよ。踊り子は一本足で立ったり、両足で立ったりしています。こうして、世界中をふみつけているのです。でも、まぼろしみたいなものですよ。踊り子は、手に持っている布に、お茶わかしから水をかけます。それはコルセットですけどもね。――きれいにするのはいいことですよ! 白い着物がくぎにかかっています。これもお茶わかしの中で洗って、屋根の上で乾かしたんですよ。踊り子はこの着物を着て、サフラン色の布を首に巻きつけます。そうすると、着物がいちだんと白く輝きます。足を高く! ご覧なさい、くきの上に立っている姿を! わたしは自分が見えるんですよ。自分を見ることができるんですよ」

「そんなこと、どうだっていいわよ」と、ゲルダは言いました。「わざわざ、あたしに話すほどのことじゃないわ」
ゲルダはこう言い捨てて、庭の端まで走っていきました。戸は閉まっていました。けれども、さびついた掛金を押すと、それがうまくはずれて、戸が開きました。そこで、ゲルダははだしのまま、広い世の中へ駆け出していきました。ゲルダは三度もあとを振り返ってみましたが、だれも追いかけてくる様子がありません。あんまり走ったので、とうとうもうそれ以上走れなくなりました。そこで、そばにあった大きな石の上に腰を下ろしました。

ふとあたりを眺めると、いつのまにか夏は過ぎ去って、秋ももう終わりに近づいているではありませんか。あの美しい花園にいたのでは、それに気がつくわけがありません。あの花園では、いつもいつもお日さまがキラキラと輝いていて、一年じゅうのあらゆる花が咲き誇っていたのですからね。

「あらまあ、なんてぐずぐずしてしまったんでしょう!」と、小さなゲルダは言いました。「もう、秋になってしまったわ。休んでもいられない!」
そこで、ゲルダは立ち上がって、また歩いていきました。ああ、ゲルダの小さな足は、どんなにか傷つき、疲れ果てたことでしょう! あたりを見回しても、目に映るものは、寒々としたもの寂しい景色ばかりです。長いヤナギの葉はすっかり黄色になっていました。露がその葉から、雨のようにしたたり落ちていました。葉が一枚、また一枚と散っていました。リンボクだけがまだ実をつけていました。でも、その実は食べてもすっぱいので、思わず口をすぼめてしまうほどでした。ああ、目に見えるかぎりの世界は、なんて灰色で、いんうつなのでしょう!

四番めのお話

王子と王女

ゲルダは、また休まなければなりません。
ゲルダが腰をおろすと、ちょうどそのむこうの雪の上を、大きなカラスが一羽、ピョンピョンとんでいました。
カラスは、やがて立ちどまって、長いこと、ゲルダの顔をながめていました。
それから、頭をゆらゆらさせながら、「カー、カー。こんちは、こんちは!」と、言いました。
カラスには、これ以上、うまく言えなかったのです。
けれども、この小さな女の子が好きになりましたので、こんな広い世の中を、ひとりぽっちで、どこへ行くの、と、ききました。
この「ひとりぽっちで」という言葉は、ゲルダにもよくわかりました。
そして、この言葉には、いろんな意味があることを感じました。
そこで、ゲルダは、カラスに、自分の身の上を、すっかり話して聞かせました。
そして、カイちゃんを見かけませんでしたか、とたずねてみました。
すると、カラスは、おもおもしくうなずいて、こう言いました。
「あれかもしれない。あれかもしれない」
「あら、ほんと?」と、小さなゲルダは、思わず、大きな声を出しました。
そして、カラスを思いきり強くだきしめて、キスをしました。
「おちついて! おちついて!」と、カラスは言いました。
「ぼくは、あれがカイちゃんだと思うよ。でも、いまは、王女さまのことで頭がいっぱいだから、きみのことは忘れているらしいよ」
「カイちゃんは王女さまのところにいるの?」と、ゲルダはたずねました。
「うん。まあ、お聞き」と、カラスは言いました。
「だけど、きみたちの言葉で話すのは、とっても骨がおれるんだよ。

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