すると、その瞬間だったんだ!
窓から半分体を乗り出していたあの女の子が、あのしもやけだらけの手をスッと伸ばして、勢いよく左右に振ったかと思うと、突然、心がウキウキするような、温かい太陽みたいなオレンジ色のミカンが、5つか6つくらい、汽車を見送っていた子供たちの上へバラバラと空から降ってきたんだ!
僕は思わずハッと息をのんだ。そして一瞬で、すべてがわかったんだ!
あの女の子は、きっとこれから、住み込みで働く場所へ向かおうとしているんだ。その子が、ポケットに隠していたたくさんのミカンを窓から投げて、わざわざ踏切まで見送りに来てくれた弟たちに、「ありがとう」って気持ちを伝えたんだね。
夕暮れの町の外れの踏切と、小鳥みたいに声を上げた三人の子供たち、そしてその上にバラバラと降る鮮やかなミカンの色――その全部が、汽車の窓の外を、まばたきする間もなく通り過ぎていった。でも、僕の心の中には、胸がきゅんとなるくらいはっきりと、この景色が焼き付いたんだ。そしてそこから、なんとも言えない、明るくて温かい気持ちが湧き上がってくるのを感じたんだ。
僕はパッと顔を上げて、まるで別の人のように、あの女の子をじっと見つめた。女の子はいつの間にか、もう僕の前の席に戻っていて、いつものように、あかぎれだらけの頬を黄緑色の毛糸のマフラーにうずめながら、大きな風呂敷包みを抱えた手には、しっかりと3等車の切符を握っていた。
……
僕はその時初めて、言葉にできないくらいの疲れとだるさ、そして、わけがわからなくて、つまらなくて、退屈な人生のことを、少しだけ忘れられたんだ。
(このお話は、大正8年4月に書かれたものだよ)
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