おばあさんは、赤いねこの大好きな、お魚の焼いたものを持ってきて呼びましたが、なかなかおりてきません。
そのうちに、大勢の人が赤いねこを見てめずらしがって集まってきました。
「なんと不思議なねこだね。」
「赤いねこなんて、はじめて見たよ。」
みんながわいわい言ってさわいでいますと、一人の男が、
「わかった、わかった。ここのおじいさんは、雨に打たれても水をぶっかけても消えない赤インキを売っているが、そのインキは、あのねこの毛でつくるんだ。これでわかった。」
と言いますと、みんなが、
「そうだ、そうだ。あれはインキのもとだ!」
と言いました。そのうちに赤ねこは、屋根の上からのこのことりて来ました。
おばあさんはいそいでだきあげてお家へはいりましたが、大ぜいのかたがたも赤ねこを見ようとして、わあわあお家の中まではいって来ました。
そこへ一人のりっぱな女の人がはいって来て、
「おばあさん、そのねこを十円で私に売って下さい。」
と申しました。
おばあさんは目をまるくして、
「おくさま、これは白いのはらねこでございます。それを赤インキでそめたのでございます。」
といひましたが、女の人はおばあさんのいふことをきかうともせず、
「では二十円で売って下さい。」
といってお金をたたみの間におきました。
「おくさま、これはただの白いのはらねこでございます。三十銭も五十銭もしないのはらねこでございます。」
おばあさんはそういってねこをしっかりだきしめますと、女の人は、
「では五十円で売って下さい。」
といってまた三十円出しました。
見てゐた一人の人が、
「おばあさん、五十円で売りなさい、売りなさい。」
と申しました。
「おくさま、これはほんたうのはらねこでございますよ。三十銭のねうちも五十銭のねうちもありはしません。これは白い毛を赤インキでそめただけですよ。世界ぢゅうに赤いねこなんてあるものですか。」
おばあさんが大きなこゑでどなるやうにいひますと、女の人は、
「さうですとも、世界ぢゅうに赤いねこなんてたった一ぴきしかゐやしません。ではおもきって百円さしあげませう。」
といってまた五十円出してならべました。
おばあさんはこまってしまってたたみの上のお金を集めてかへさうとしました時、だいてゐた赤ねこがのこのことその女の人のところへあるいて行きましたので、女の人はとてもよろこんでそのねこを両手でだいて、
「ではおばあさん、このねこは私がつれて行きますよ。」
といって大いそぎでおもてに出ると、自動車にのってどこかへ行ってしまひました。
そこへかへって来たおぢいさんは大ぜいの人があつまってゐるのを見て、火事でもあったのではないかと思ってびっくりしました。
おばあさんは十円さつを十枚もってぽろぽろなみだをこぼしながらおぢいさんにあやまりました。
話をきいたおぢいさんはすぐにかうばんへ行って、おばあさんのおぼえてゐた自動車のばんがうをいってしらべてもらひますと、それはある大金もちのくわぞくさまだといふことがわかりました。
そこでおぢいさんはそのくわぞくさまにでんわをかけて、あの赤ねこはほんたうのはらねこで白ねこを赤インキでそめてあるのだから五十銭のねうちもないものだといふことをはなしました。
あくる朝、おぢいさんがまだインキを売りにでかけないまへにきのふの女の人が来て、
「私はおぢいさんとおばあさんの正直なのにかんしんしました。ですからその百円であのはらねこを売ってもらひます。それからべつに一万円かしてあげますから、それでインキをつくる会社をおはじめなさい。たりなければまだいくらでもかしてあげます。」
と申しました。
それからまもなく白ねこの赤ねこがはじめてついて来たあき地に大きなバラックの家がたちました。
五六十人の人たちが朝はやくからいっしょけんめいに赤インキをつくりました。
まい日トラックに二だいも三だいもびんにつめた赤インキがはこび出されます。
ある日のことねこを買った女の人が会社に来て見ますと、会社ののおもてにはおぢいさんの下手な字で、
インキ インキ 上とうのあかインキ
雨にうたれても水をぶっかけても
きえない 上とうの赤インキ
白ねこをそめてかめのこだはしで
ごしごしあらっても白くならない
上とうの赤インキ製造会社
と赤インキで書いた大きなかんばんがかかってゐました。
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