初級翻訳・踊る一寸法師 第3話

江戸川 乱歩

刀が一刺しされるたびに、箱の中からものすごい悲鳴が――毎日のように見物人たちを震え上がらせていたあの悲鳴が――聞こえてきた。
「キャーッ! 助けて、助けて、助けて! アレー、こん畜生、こん畜生、こいつは本当に私を殺す気だわ! アレー、助けて、助けて、助けて……!」
「わははははは!」「見事だ見事だ!」「そっくりだぞ!」
 見物人たちは大喜びで、思い思いに怒鳴ったり手を叩いたりした。
一本、二本、三本と、刀の数はどんどん増えていった。
「今こそ自分の思い知ったか、このめかけめ!」
一寸法師は芝居がかった調子でセリフを続けた。
「よくもよくもこの俺を馬鹿にしてくれたな!
不具者(かたわ)の執念が身にしみたか、分かったか、分かったか!」
「アレー、アレー、助けて、助けて、助けて――!」
 そして、串刺しにされた箱は、まるで生き物のようにガタガタと激しく揺れ動いた。
見物人たちは、このあまりにも真に迫った演出にすっかり夢中になっていた。
雷のような拍手がいつまでも続いた。
そしてついに、十四本目の一刀がグサリと突き刺された。
お花の悲鳴は、まるで瀕死の重傷を負った者のような、かすれたうめき声へと変わっていった。
もはや言葉にもならない「ヒーヒー」という細い音だった。
やがて、それすらも消え入るように途絶えると、今までガタガタと動いていた箱がピタリと完全に静まり返った。
一寸法師はゼイゼイと荒く肩を上下させながら、その箱をじっと見つめていた。
彼の額は、水にでも漬けてきたかのように、汗でびっしょりと濡れていた。
彼はいつまでもいつまでも、その姿勢のまま微動だにしなかった。
見物人たちも、なぜか急に黙り込んでしまった。
死んだような静寂を破るのは、お酒のせいで荒くなったみんなの荒い息づかいばかりだった。
しばらくして、緑さんはそろりそろりと、あらかじめ用意しておいたダンビラ(幅広の刀)を拾い上げた。
それは青龍刀のようにギザギザの刃がついた、幅の広い恐ろしい刀だった。
彼はそれをもう一度床に突き立てて切れ味を示してから、いよいよ錠前を外し、箱の蓋をパカリと開けた。
そして、その箱の中へと例の青龍刀をザクリと突っ込み、まるで本当に人間の首を切断しているかのような、ゴリゴリ、グチュグチュという不気味な音を立てさせたのだった。それから、ポーズをピシッと決めてダンビラを放り投げると、緑さんは何かを自分の袖で隠しながら、すぐそばのテーブルまで歩いて行き、ドサッと大きな音を立ててそれを上に置いた。
彼が袖をのけると、そこにはお花の青ざめた生首が現れた。
切り口のあたりからは、真っ赤な生々しい血が流れ出している。
それが紅の溶けた汁だなんて、見ている人は誰も思いませんでした。
氷のように冷たいものが私の背中を伝って、スーッと頭のてっぺんまで駆け上がっていきました。
私は知っていました。あのテーブルの下には二枚の鏡が直角に貼り合わされていて、その裏側には、床下の抜け道をくぐってきたお花の体があるということを。
こんな仕掛けは、手品としては大して珍しいものでもありませんでした。
それなのに、どうしてこんな恐ろしい予感が私の胸から離れないのだろう。それは、いつもの優しい手品使いとは違う、あの体の不自由な男の不気味な顔つきのせいだったのでしょうか。
まっ黒な背景の中に、まるで真っ赤な道化服を着た一寸法師が、大の字になって仁王立ちしていました。
その足元には、血のついたダンビラが転がっています。
彼は見物人たちの方を向いて、声を出さず、顔いっぱいでニヤニヤと笑っていました。
……だけど、あのゾッとするような小さな物音は一体何だったのだろう。
それはもしかすると、まっ白にむき出しになった、あの不具者の歯と歯がカチカチと噛み合う音だったのではないでしょうか。
見物人たちは、相変わらず息を殺したように静まり返っていました。
そして、みんながお互いの顔を、まるで恐ろしいものでも見るように盗み見していました。
しばらくすると、あの紫の絹を着た客がヌッと立ち上がりました。
そして、テーブルめがけてツカツカと二、三歩歩み寄りました。
さすがに、じっと座っていられなくなったのです。
「ホホホホホホホホ」
突然、明るく晴れやかな女の笑い声が響きました。
「豆ちゃん、いい腕をしているわね。
ホホホホホホホ」
それは言うまでもなく、お花の声でした。
彼女の青ざめた首が、テーブルの上で笑ったのです。
その首を、一寸法師はいきなり再び袖でサッと隠しました。
そして、ツカツカと黒幕の後ろへはい入っていきました。
あとには、からくり仕掛けのテーブルだけがぽつんと残されました。
見物人たちは、あまりにも見事なお芝居に、しばらくの間はただため息をつくばかりでした。
当の手品使いでさえも、目を丸くして息をのんでいました。
けれどやがて、小屋が揺れるような盛大な歓声が湧き起こりました。
「胴上げだ、胴上げだ!」
誰かがそう叫ぶと、みんなは一団となって黒幕の後ろへと突進していきました。
お酒に酔っ払った人たちは、その勢いで足をとられ、バタバタと折り重なるように倒れ込みました。
その中のある者たちは起き上がると、またフラフラと走り出しました。
からっぽになった酒樽のまわりには、すでに眠り込んでしまった人たちが、魚河岸のマグロのように置き去りにされていました。
「おーい、緑さーん!」
黒幕の後ろから、誰かを呼ぶ声が聞こえてきました。
「緑さん、隠れなくたっていいよ。出ておいでよ!」
また別の誰かが叫びました。
「お花姉さあーん!」
今度は女の声が呼びました。
しかし、返事は聞こえませんでした。
私は言葉にできないほどの恐怖にブルブルと震えました。
さっきの声は、あれは本当にお花の笑い声だったのだろうか。
もしや、底知れぬ恐ろしいあの男が、床の仕掛けを本当にふさいでお花を刺し殺し、本当に獄門の首として晒したのではないか。
そして、あの声は――あれは死人の声ではなかったのだろうか?
愚かな軽業師たちは、彼の「八人芸(はちにんげい)」と呼ばれる魔術を知らないのだろうか?
口をきつく結んだまま、お腹の中から声を発して、まるで死人に物を言わせるかのような、あの不思議な八人芸という術を。
あの怪物が、その技をこっそり覚えていなかったと、どうして誰が言い切れるというのでしょう。
ふと気がつくと、テントの中に薄い煙が立ち込めていました。
軽業師たちが吸うタバコの煙にしては、何だか少し様子が変でした。
ハッとした私は、いきなり見物席の隅の方へと駆け出しました。
案の定、テントのすそを赤黒い炎がメラメラとなめ尽くしていました。
火はすでにテントの四方をすっかり取り囲んでいる様子でした。
私は必死の思いで燃え盛る布をくぐり抜け、外の広い原っぱへと飛び出しました。
広々とした草原には、白い月明かりが隅々まで明るく降りそそいでいました。
私は足にまかせて、近くの民家へと走り続けました。
振り返ると、テントはもう三分の一の高さまで激しく燃え上がっていました。
丸太の足場や見物席の板にも、すでに火が移っていました。

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