「あのコノオレを縛り首にしてしまえ!
コノオレが、金の猫を盗みやがったんだ。
ぐずぐずするな、早くしろ!
コノオレをとっ捕まえて、木端微塵(こっぱみじん)に切り刻んでしまえ!」
手下たちは、あまりのことにぽかんとして、あぜんとしました。
たしかに金の猫は盗まれたらしく、どこにも見当たりません。
けれど、おかしなことに、親分自身が「この俺が盗んだ」と言っているのです。
この俺を縛り上げろと言っています。
この俺を切り刻めと言っています。
「もしかして、親分は頭がおかしくなってしまったんじゃないか……?」
手下たちがどうしていいか分からずにもじもじしていると、親分は本当に気が狂ったかのように、さらに激しく怒鳴り散らしました。
「何をぼんやり突っ立ってるんだ!
早くつかまえに行かないか!
金の猫を盗んだあのコノオレをとっ捕まえろ!
今すぐコノオレを切り刻んでしまえ!」
手下たちも、こうなっては仕方ありません。縄を持ってきたり、武器をひ抜いたりしながら、すっかり興奮した親分を取り囲みました。
それを見た親分は、さらに激怒して猛り狂い、大きな鉞(まさかり)をひっつかむと、自分の手下たちに向かって斬りかかっていきました。
手下たちは「うわあ!」と逃げ出しました。
親分は鬼の目をして追いかけました。
「このバカどもめ、あのコノオレめ!
そこを動くな、コノオレをつかまえろ!」
親分はもう、自分が誰に向かって怒っているのかも分からないほど、夢中になっていました。
手下たちも必死になって逃げました。
岩山の上に出て、命がけで追ったり追われたりしているうちに、大きな鉞を持って大勢を相手に暴れていた親分は、しだいに息が切れてきて、足元の岩かどにつまづいてガチャンと倒れこんでしまいました。
そのすきに、手下たちは一斉に上からおおいかぶさり、グルグル巻きにして、その岩かどにガッチリと縛りつけてしまいました。
その一連の様子を物陰からじっと見ていたピチ公は、今がチャンスだと思いました。
一歩間違えれば崖からまっさかさまに海へ落ちてしまうという危険な覚悟で、ぐらぐらと揺れる岩を伝いながら崖のふちまで歩いていき、そこに金の猫をそっと置いて、また物陰へとコソコソ這い戻ってきました。
そして、いきなり大声で叫びたてました。
「大変だ、大変だ大変だ……!
金の猫が、自分で勝手に逃げ出しちまったぞ!
みんな、すぐにやって来い!
金の猫が逃げちまうぞ!」
その声を聞くと、親分を縛りつけたものの「これからどうしたものか……」と話し合っていた海賊たちは、いっせいに立ち上がって、ドタドタと駆けつけてきました。
ピチ公は、わざとハアハアと息を切らしながら、大げさにまくしたてました。
「ふしぎなこともあるもんだぜ!
親分はおかしくなっちゃうし、金の猫はまるで生きているみたいに動き出して逃げ出しちまうし、これは絶対になんか悪い知らせにちがいないぞ!
僕は一生懸命あの猫を追いかけたんだけど、どうしても捕まえられなかったんだ。
とうとう、あんな危ないところまで逃げちまったよ。
あそこの崖の下は、深い海だぜ。
命がけじゃなきゃ近づけないよ。
誰か、あの猫を捕まえに行くやつはいないのかよ!」
海賊たちは顔を見合わせました。
たしかに金の猫は、崖のふちのぐらぐら揺れる岩の上にポツンとうずくまっていて、今にも海にとびこみそうな危なっかしい様子でした。
「誰も行くやつがいないなら、僕が捕まえに行ってやろう!」
ピチ公は胸を張って言いました。
「その代わりさ、もし万が一足を踏み外して落っこちて死んじまったら、僕の体だけでもちゃんと引き上げてくれよ!」
ピチ公のその命がけの申し出に、最初は少し疑っていた海賊たちも、すっかりすっかり信用してしまいました。
なんたって、たった一人の子供ですし、さっきは親分の部屋で一緒に楽しそうにお酒を飲んでいたようです。それに、親分の特別な知り合いかもしれないとも思いました。
そこで海賊たちは、ピチ公をやさしく労わりながら、「万が一のときはこれで引き上げてやるからな」と言って、彼の腰にロープをしっかりと結びつけ、そのロープの端をみんなでしっかりと持って構えました。
ピチ公は崖のふちへと這っていきました。
足元がぐらぐら揺れる岩が突き出た、ものすごく高い崖です。一歩でも間違えて落っこちたら、下には真っ黒な荒海が広がっているだけで、助かる見込みはゼロ、死ぬしかありません。
見ているだけでもヒヤヒヤするような、命がけの大冒険でした。
でも、ピチ公はさっき一度猫を置きに行ったばかりの場所なので、少しも怖くありませんでした。
それに、腰にはしっかりとロープがつながっています。
わざと岩をガタガタと揺らしたりして、見ているみんなを「うわあ、危ない!」とハラハラさせながら、慎重に静かに這っていき、ついに、パッと両手で金の猫にとびつきました。
その瞬間、海賊たちは全員、ハッと息をのみました。
そして次の瞬間、
「やったあ――っ!」
と、割れんばかりの大きな喜びの声をあげました。
ピチ公が、見事に金の猫をつかまえたのです!
ピチ公が、大事な金の猫をしっかり抱きしめて、こちらへ戻ってきたのです!
「おい、早くこっちへ来い! 早くそのロープを引っ張ってくれ!
また逃げ出しちまうといけないから……!」ピチ公の腰に結んであったロープを使って、金の猫はぐるぐるとしっかりと縛り上げられました。
海賊たちは、まるで夢でも見ているような気持ちでした。
頭領との大ゲンカですっかり疲れ切っているところに、ピチ公の命がけの大冒険を見せつけられたからです。
「のんびりしてる暇はないぜ!」
と、ピチ公は言いました。
「頭領は気が狂っちまうし、金の猫は逃げ出すし。
これから先、どんな恐ろしいことが起きるか分かったもんじゃない。
これはきっと、何かのたたりなんだ。
それとも、海の神様が怒っちまったのかな。
一刻も早く逃げようぜ。
頭領も金の猫も、縛ったまま船に持ち込んで、すぐにここから出帆しちまおう。
こんな気味の悪いことが次々と起きる場所にのこのこ居座っていたら、とんだ大失敗をやらかすことになるぜ!」
海賊というものは、もともとすごく迷信深い生き物です。
頭領が頭をおかしくして暴れ出したり、ただの人形のはずの金の猫がまるで生きているかのように逃げ出したりしたのを見て、彼らは「この後ももっと恐ろしいことが起きるに違いない」とすっかり怯えていました。だから、ピチ公の提案にみんな一斉に大賛成しました。
そこから現場は大パニックの大騒ぎです。
岩山の横手にある入り江には、大きな船がしっかりとつながれていました。
手下たちは、ピチ公に言われるがまま、金の猫を船へと運び込み、わけのわからないことを大声で怒鳴り散らしている頭領をかつぎ、家の中にあるお宝の数々を次々と船へ積み込んでいきました。
「急げ、急げ……!
ぐずぐずしてちゃダメだぞ。
この家はあとで綺麗さっぱり焼き捨てちまうんだ!」
ピチ公はあちこちを駆け回りながらみんなを急かし、自分の手でその家に火を放ちました。
そうしておいてから、すきを突いて一人、船とはまったく反対の方向へと駆け出していきました。
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