初級翻訳・シロ・クロ物語 第2話

シロ・クロ物語

「きっと、ごまかしたんですよ」
とシロもクロも言いました。
「なるほど、それにちがいない」
とお爺さんは言いました。
「箱をとりのける時にごまかしたんだ。手つきにあんまり見なれない、あやしいところがあった。あれは、どうも、悪いやつらしい……」

そして、お爺さんとシロとクロが考え込んでいるところへ、ポン公が息をきらしてかけつけてきました。
ポン公というのは、町の広場で夕刊新聞を売り歩いて、どうにか暮らしながら、一人で勉強しているとってもえらい少年です。
白ヒゲのお爺さんの友だちであり、またシロとクロの友だちでもあります。
いつもやってきては、お爺さんからいろんなことを教わったり、シロとクロと遊んだりするのです。

「お爺さん、今日の見通しの術の……あの男、へんなやつですよ」
とポン公は言いました。
「あぁ、うまくやられたよ」
とお爺さんはにが笑いをしました。
「僕ね、すこしあとをつけてみたんです。
ところが、自動車に乗って行ってしまったから、だめでした。
だけど、あの男を僕は知っているんです。
今日はあのように立派なかっこうをして、ダイヤの指輪なんかもっていましたが、ふだんはきたないかっこうをして、漁師みたいなふうをして、海岸でつりをしてるんです。
そんな時、いつも、海の沖には例のあやしい船が止まっているんです。
きっと、あのあやしい船の仲間ですよ」

「あやしい船の……うーん、そうかなあ」
「ひとつさぐってみましょう」
「そうだな。それはけしからんやつだ」

あやしい船……。どこからかやってきては、またすっと出てゆく船です。
軍艦のようでもあり、また商船のようでもある、わけのわからない船です。
その船が沖に止まっている時に、あの男が海岸でつりをしてる……。
もしかすると、何か合図をしているのかも知れません。

「僕が行くと、用心するかも知れないから、シロとクロを行かせてみましょう」
作戦が決まりました。
「しっかりやれよ」
とポン公はシロとクロに言いました。
さて、シロとクロだけで、うまくいくでしょうか?
でも、シロもクロも大喜びしています。
「見通しの術」のかたきうちをするつもりなのでしょう。

二 釣をする男

港の近くの、海岸の散歩道です。
一面の芝生の中に、砂利の道がほどよく曲がりくねっています。
いろんな木があちこちに植えてあります。
きれいな花も咲いています。
海の方には高い石垣があり、そこに波がひたひたと小さな音を立てて打ち寄せています。
まだ朝早くのことなので、散歩する人の姿も見えません。
ポン公とシロとクロは、木立のかげにかくれながら、だんだんと海の方へ近づいていきます。

沖の方には、あやしい船が止まっています。
七百トンぐらいの大きさで、古い商船のようですが、よく見ると、いかにもがっちりと作られていて、軍艦といってもよいほどです。
どこかに大砲などがかくされていそうです。
そのうえ、船全体が水色に塗られていて、海水とほとんど見分けがつきません。
いつも石炭を燃やしているらしく、えんとつから煙が出ています。
すぐにも動き出しそうです。でも、じっと止まっています。

そして、やっぱり、海岸の石垣のところでは、あの男がつりをしていました。
公園の時とはちがって、そまつなかっこうをしており、シャツの上にレインコートをひっかけ、荒い革のベルトをしめ、ゴムの長靴をはいています。
シロとクロはわざとふざけ合って、じゃれついたり、鳴いたり、駆け回ったりしながら、男の方へ近づいていきます。
ポン公は木のかげにかくれたまま見守っています。
男はしきりにつりざおを動かし、時々魚をつり上げています。ちょうど潮が満ちて、なみなみとたたえられた海水の中に、ポンと落とした釣り針に、何かがぐきっと食いつく――そこでパッと竿を上げると、糸の先には魚がピチピチと跳ねています。
見事な腕前です。
バケツの中にはもう、釣り上げた魚が何匹も泳いでいます。
シロとクロはそばまで行って、バケツの中をのぞき込み、魚とじゃれあうふりをします。
だけど、目は別の方を向いています。
沖のあやしい船と、釣りをしている男とを、代わる代わる見比べル・ビズ(見比べて)いるのです。
船には、小さな白い布をいくつもつけた綱が、いつもスルスルと上ったり下りたりしています。
何かの練習でしょうか、それとも何かの合図でしょうか。
釣りをしている男の方も、しきりに釣り竿を打ち振っています。
ヒューヒューと、三度振ることもあれば、五度振ることもあれば、四度振ることもあります。
「たしかに、船とこの男と、合図をし合っているんだな」
そうシロとクロはささやきました。
しかし何の合図かわかりません。
そしてもどかしくてたまりません。
「こらこら、バケツの中をいたずらしてはいかんよ」
男は笑いながらそう言いました。
だけど、上べだけ笑って、何か企んでいるらしい様子です。
はじめから、シロとクロの方にじろじろと横目を注いでいたのです。
シロもクロもそれに気づいていました。
人間の言葉がよくわかり、白ヒゲのお爺さんとは話をすることもできる猫です。
ふたりの猫は普通の猫とは違います。
「ははあ、魚がほしいのか」と男は言いました。
「ひとつあげよう」
バケツの中の死にかかっている魚を一つ、手でつまみあげて、そこに投げ出してやりました。
シロとクロはそれをくんくんとかいでみました。
けれど用心して、食べません。
「お前たち、お行儀がいいね。
それとも気に入らないのかな。
よし……待っていなさい、いま、網を持ってきて、うまい魚をすくってやるよ。
今日は魚の寄りがばかにいいからなあ」
ひとりごとのようにそう言って、男は向こうへ行ってしまいました。
シロとクロは顔を見合わせました。
やがて、ゴムの長靴をはいた男は、大きな四手網(よであみ)を持って戻ってきました。
腰には太い縄をぶら下げています。
「さあこれで、うまい魚をすくうとするか」
シロとクロには気にもとめないふうで、海の方を見ています。
けれど、横目でじっと様子をうかがっているのです。
そして、四手網を持ち上げて、一息で、パッと、シロとクロの上に網をかぶせました……!
シロとクロは飛びのいて、一目散に逃げ出しました。
「待て待て、こら、待たんか!」
男は追いかけてきました。
待てばつかまるばかりです。
シロとクロは力いっぱい走りました。
男は腰の縄を引き抜いて打ち振り、網を引きずって、どこまでも追いかけてきます。
ひどく足の早い男です。
シロとクロは木立の方へ逃げていきました。
男はなおも追いすがってきます。
もう追いつかれそうです。
そこに、スズカケの木がありました。
それにとりつくと、もう夢中で、上の方へ上っていきました。
男はその木につかまって、ホッと息をついて、それから木をゆすぶりました。
大きな木なのでビクともしません。
男は叫び立てました。
「誰か来てくれー、早く誰か……!
泥棒猫だー!
泥棒猫をつかまえるんだ!
誰かいないかー!」
何度も叫び立てているうちに、子どもが三、四人走ってきました。

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