ガチリと、何か鍬の先にあたった感触がありました。
それからまた、ガチリ、ガチリと音がして、鍬が少しも通りません。
丸彦はそのあたりを掘り広げました。
よく見ると、そこには大きな石のふたがありました。
やっとの思いでその石のふたを取り除くと、下は石の箱になっていて、その中にさらに、大きな木の箱が入っていました。
箱のふたを開けると、丸彦はびっくりして声を上げました。
長彦も息をのみました。
大きな箱の中には、金銀や宝物がいっぱい詰まっていたのです。
梅の木の意味が、ようやくふたりにも分かりました。
両親は家のためを思って、万が一の時の備えとして、そこにたくさんの財産を埋めておいてくれたのです。
おかげで、ふたりは助かりました。
屋敷も売らずに済みました。
借りたお金もすべて返すことができました。
兄弟の世話になった人たちも、みんな助かりました。
米や芋がたくさん届いていますし、それを貧しい人たちは、ただで分けてもらうようになりました。
そして、日照りのあとの翌年まで、みんなは食べ物に困ることなく過ごすことができました。
こうして、堅田の顔長の長彦と顔丸の丸彦とは、みんなから神様のようにあがめられました。
人々はいろいろ相談して、顔長の長彦には、中国からやってきたという見事な紫檀(したん)の机を、顔丸の丸彦には、琉球からやってきたという大きな法螺(ほら)の貝を、記念の贈り物にしました。
どちらも、その頃には珍しい品物でした。
顔丸の丸彦は、法螺貝をたいへん喜んで、野原や山を吹き鳴らして歩きました。
顔長の長彦は、紫檀の机に寄りかかって、庭の梅の木を見ながら、何かをしきりに考えていました。
三
堅田の顔長の長彦が、庭の梅の木を眺めながら考えていたのは、亡くなった両親のありがたい心のことでした。
両親が先々のことにまで気を配り、梅の木の根元にたくさんの財産を残しておいてくれたおかげで、自分たちも助かり、近所の人たちも助かったのです。
そのありがたい心を、なんとか記念にしておきたいものだと、顔長の長彦は、四日四晩、あれこれと考えました。
そして、素晴らしいことを思いつきました。
京の都の名高い彫刻師に頼んで、観音様の像を彫ってもらったのです。
像ができあがると、庭の梅の木のそばに小さなお堂を建てて、そこに観音様の像をまつりました。
こうして、両親のありがたい心の記念としたのでした。その噂は、すぐにあちこちへと知れわたりました。
「ありがたい心がこもっている観音様だ」という評判を聞きつけて、多くの人がお詣りにやって来るようになったのです。
近くの人たちばかりでなく、遠くの村からも、噂を聞きつけた人たちが次から次へと訪れました。
すると、不思議なことが起こりました。
ある夜、あんなに大切にしていた観音様の像が、忽然と姿を消してしまったのです。
「だれか悪いやつが、盗んでいったのだろうか?」
顔長の長彦と顔丸の丸彦は、方々を探し回り、あちこちを尋ね歩きましたが、観音様の行方はさっぱり分かりませんでした。
ところが、また不思議なことに、その観音様が七日経つと、何事もなかったかのように元の通り、お堂の中へ戻っていたのです。
それと同時に、ある不思議な噂が町中にパッと広がりました。
「堅田の観音様は、この七日間、あちこち歩いて旅をしてこられたそうだ。京の清水寺の観音様や、大和の長谷寺の観音様といった、仲間である名高い仏様たちにも会ってこられたらしい。そのほかにも、いろいろな場所を巡ってこられたそうだぞ」
「その証拠に、観音様の足には、まだ泥がたくさんついているじゃないか。あれは本当にありがたい観音様だ。生きている観音様なんだよ」
そんな噂と共に、大勢の人たちが、我先にとお詣りに押し掛けてきました。
顔長の長彦と顔丸の丸彦は、参拝客からその噂を聞いて、びっくり仰天しました。
ともかくも観音様の足元を調べてみると、確かに足の裏には泥がべったりとついていました。
その足の泥を実際に自分の目で見たという人もたくさんいたため、噂は確かな事実として広まり、参拝客はますます増える一方でした。
顔長の長彦は、腕を組んで深く考え込みました。
木で彫られた観音様の像が、七日間も自分の足で歩き回るなんて、どう考えても本当のこととは思えなかったからです。
「これはきっと、悪者たちが何か悪い企みをしているに違いない。観音様を七日間盗み出し、足に泥を塗ってから元に戻し、こうして不思議な噂を流して人々をだましているんだ」
「用心しなければいけないよ」と長彦は言いました。
「もし悪者がいるのなら、僕が一人でとっつかまえてみせますよ!」と丸彦は力強く答えました。
けれども、その悪者の正体はなかなか掴めず、お詣りに来る人は増えるばかりでした。
「ありがたい観音様だ」「生きた観音様だ」と言ってやって来る人たちは、それぞれがお賽銭を置いていきました。
いくら断っても、人々は喜んでお金を投げ出していったのです。
そのお賽銭がだんだんと溜まり、大きな木の箱がすぐいっぱいになってしまいました。
観音様の前に供えておくだけでは収まりきらず、新たにお賽銭箱をこしらえなければならないほどでした。
そうしているうちに、また不思議な噂が伝わってきました。
「堅田の観音様は、今度また旅に出られるそうだよ。今度は少し長い旅らしいから、留守になる前にお詣りをしておくのがいいだろう」
その噂を聞いて、また近くや遠くから、お詣りに来る人が急増しました。
「いよいよ本当の用心が必要だ」と長彦は言いました。
「ええ、充分に気をつけます」と、丸彦は頼もしく答えました。
四
さて、堅田の顔丸の丸彦は、腰に刀を差し、片手には鉄で作った鞭を携え、もう片方の手にはお気に入りの法螺貝を持って、毎日毎日外を出歩きました。
そして、怪しい者がうろついていないかと、目を光らせて調べて回ったのです。
しかし、悪者の手がかりは一向につかめず、そもそも観音様についての不思議な噂が、どこから始まったものなのかもさっぱり分かりませんでした。
ところが、ある日のことです。
山奥の方を調べ歩いて、夕方になってから家へ帰ろうとすると、山のふもとの寂しい野原に、馬を連れた男が一人で座り込み、酒を飲んでいました。
その男は背中に獣の毛皮をまとい、足にはわらじを履き、腰には大きな山刀を差していて、猟師のようにも見えましたが、どこかひと癖ありそうな様子でした。
男は草の上に胡坐をかき、徳利と茶碗を前に置いて酒を飲んでいます。
なお怪しいのは、その脇に馬が一頭、木に繋がれていたことでした。
そのあたりでは見かけない大きな馬で、栗色の毛並みはつやつやと輝き、額の真ん中には白い模様があり、四本の足はひずめの上の方だけが白く、実に珍しい立派な馬でした。
顔丸の丸彦は、その男のそばに立ち止まって、じっと男を見つめました。
「もしやこの男が、変な噂を言いふらして歩いている悪者ではないか?」
そんな気がしてなりませんでした。
男はチラリと丸彦を見上げましたが、何も言わずに酒を飲み続けました。
丸彦は男のそばにかがみ込むと、黙ったまま男の茶碗を取り、徳利から酒を注いで、グイッと一口で飲み干しました。
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