彼は力を込めて、鍬(くわ)でザクリと掘りました。
何も出てきません。
もう一度ザクリと掘りました。
まだ何も出てきません。
それでも彼は一生懸命でした。
あぶら汗を流しながら、四、五尺(約1.2〜1.5メートル)も土を掘り下げました。
すると、カチッと鍬に何かが当たりました。
それに勇気づけられて掘ってみると、小さな木の箱が出てきました。
彼はホッと息をつきました。
それからワクワクしながら、いきなり箱を打ち壊してみました。
ところが、どうしたことでしょう。中には錆びて腐った鉄やブリキの切れ端、汚れた紙くず、きたない陶器のかけらなど、そんなものばかりで、他には何も入っていませんでした。
センイチは呆然としてしまいました。
それから腹立たしげに箱を蹴散らしましたが、その瞬間に「あいたっ!」と声を上げました。
足の裏をひどく箱にぶつけてしまったのです。
ケガでもしていないかと慌てて足を見ると、もうひづめも何もなく、元の通りの人間の足に戻っていました。
彼はあまりのことに驚いて、声も出ませんでした。
急いで手を見てみると、鋭い爪がなくなっています。
その手で体中をなでてみると、長い尾もなくなり、頭の二本の角も消えていました。
完全に元の人間になっていたのです。
こうなると、もう悪魔の宝なんかはどうでもよくなりました。元の人間の姿に戻れたことが嬉しくて、鍬や帽子もその場に投げ捨てて、家へ帰りかけました。
ところが、元の人間になったせいで、森の中の茂みを突き切るのがとても大変でした。
やっとの思いで家に帰りついたときは、もうあたりは薄暗くなっていました。
センイチの姿を見ると、セイが駆け寄ってきました。
「まあ、お前さん! 昔通りのあなただわ!」
二人は手を取り合って喜びました。
センイチは悪魔の宝のことを話しました。
「悪魔の宝なんて、たいていそんなものだろうよ」とセイは言いました。
「だけどおかげで、わたしたちはたくさんお金儲けができたわ。いくらあるか数えてみましょう」
二人は押入れから金箱を取り出しました。
そして開けてみると、びっくり仰天しました。
たしかにたくさん入っていたはずのお金が、鉄の切れ端や紙くず、陶器のかけらばかりになっていたのです。悪魔の宝と同じ中身でした。
二人はポカンとして顔を見合わせました。
「今晩は」
いきなり声がしたので、またびっくりして振り返ると、いつの間に入ってきたのか、そこに悪魔が、悪魔そのままの姿で立って笑っていました。
二人は返事もできませんでした。
悪魔は急に真面目な顔をして言いました。
「おれの見込みちがいだった。お前は正直者だとばかり思ってあんな約束をしたんだが、お前が約束を破ったから、急いで都から帰ってきたのさ。だが、都もあまり面白くないや。実を言うと少し飽きてきていたから、ちょうどよかったかもしれないな。お前たちだって、もう猟や金儲けには飽きただろう。それで、もとの通り、約束は取り消しだ。金がガラクタになったからといって、お前さんたちの方から約束を破ったんだから、うらむところはないだろう? まあ、夢を見たようなものさ。でも、面白い夢だっただろう? というわけで、うらみっこなしで仲よく別れようよ。さよならだ」
悪魔が差し出した手を、センイチはぼんやりと握りしめました。
「さようなら」
もう一度そう言う声の響きだけで、もう悪魔の姿はどこにも消えてしまっていました。
「まあ、おかしな悪魔だわ」とセイがしばらくして言いました。
その声でセンイチは我に返り、角のなくなった頭や、尾のなくなった尻、爪のなくなった手や、ひづめのなくなった足など、元の通りの身体をなでたり眺めたりしました。
それから立ち上がって、背伸びをしました。
「ああ、これでさっぱりした。悪魔と約束なんかするものじゃないな。明日からは元の通りに働くんだ。そこで……久しぶりに村の方へ行ってみようか。もう長い間、おれは誰にも会っていないんだから……」
「そうね、わたしも一緒に行くわ。変な噂が立っているんだから、二人で村中を歩き回ってやろうよ」
二人は初めて晴れ晴れとした気持ちになって、明かりがともる村の店の方へ、元気よく出かけて行きました。
初級翻訳・悪魔の宝 第3話
悪魔の宝
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