初級翻訳・悪魔の宝 第2話

悪魔の宝

「そう言えば、顔は全くお前さんだ。だけど、わたしはまだ安心ができないから、真っ裸になってごらん」

 センイチは裸になってみせました。

「なるほど、体に毛がいっぱい生えていないところをみると、悪魔じゃなくて、やっぱりお前さんだね」

「何を言ってるんだ。本当に悪魔になってたまるものか」

 センイチはまた着物を着て、長い爪のある手でタバコを吸い始めました。

「おれはただ、この爪とひづめとしっぽを悪魔から借りただけだ。もう安心してもいいだろう」

 セイはようやく安心して、珍しそうに彼の角や爪や尾やひづめに触ってみました。センイチも自分の体を不思議そうに眺めました。

「わたしは、悪魔のこんなものに触るのは初めてだよ」とセイは言いました。

「おれだって初めてさ」とセンイチは言いました。「触っただけじゃない、自分の体にくっつけているんだから、変な気持ちがするよ。だが、これで思い通り猟ができるんだから、明日が待ち遠しいな」

 そして二人は、悪魔のそれらの道具をいじり回したり、冗談を言い合ったりして、楽しく食事をしました。

三

 翌日になると、センイチは朝早くから鉄砲をかついで猟に出かけました。悪魔が言ったことは本当でした。センイチはそのひづめの足で、どんな藪でも山坂でも自由に駆け回れましたし、長い爪の手で、どんな崖でも木でも自由によじ登れました。そして遠くに獲物がいると、こちらから近寄っていかなくても、尾でそれを招き寄せて、鉄砲で狙い撃ちにすることができました。その上、頭の二本の角を振り立てていますと、どんな猛獣も毒蛇も恐れて逃げますので、少しも危ないことがありませんでした。そして猟をすると、キジやハト、ヤマドリやウサギやアナグマなど、面白いほど獲れましたし、ときには大きなシカやイノシシなども獲れました。

「どうだ、すてきだろう」とセンイチは言いました。

「たいへんな獲物ね」とセイは言いました。ところが、ひとつ困ったことに、センイチは悪魔の姿をしているものですから、人前に出るのはもちろんのこと、人に会うことさえ避けなければなりませんでした。
朝早く出かけて、山の中に入るまでは、大きな帽子で角を隠し、大きな手袋で爪を隠し、大きな足袋でひづめを隠し、大きなズボンで尾を隠しました。
獲物は昼間、藪(やぶ)の中にかくしておいて、夜になってから取りに行きました。
そして翌日になると、セイがそれを車に積んで、二里(約8キロメートル)ほど向こうの町へ売りに行きました。
センイチが家にいるときに人が訪ねてくると、彼は急いで押入れの中に隠れて、セイだけが応対しました。
そういう日が、何日も、何十日も続きました。
はじめのうち、センイチは獲物がとれる面白さに夢中になって猟をしましたし、セイはお金がたまる面白さに夢中になって町へ獲物を売りに行きましたが、そのうちに二人とも、そんな生活に疲れ、飽きてきてしまいました。
たくさんたまっているお金を見つめながら、二人はため息をつくようになりました。
そのうえ、町ではいろんな噂が立っていました。
センイチの奥さんが、毎日あんなにたくさん鳥や獣を持ってくるのが変だと、町の人々は話し合いました。
センイチが悪魔のような姿をして、山の中を駆け回っていたと、ある猟師が話しました。
センイチ夫婦は悪魔に食われてしまって、そのあとに、悪魔が二人に化けて住んでいるのだと、ある人たちは言いました。
そしてときどき、家の中の様子をそっとのぞきに来る者さえいました。

「ああ、悪魔が早く帰ってこないかなあ」とセンイチは何度も繰り返しました。
「都に行っている間なんて言わないで、十日とか二十日とか、日を決めて約束すればよかったのに」とセイは言いました。
「だが今さらもう仕方がない。悪魔がまだなかなか帰ってこないようだったら、どうしたらいいかしら」
「ほんとに困ったね、お金ばかりたまってさ」

四五十日もたつと、二人はもう待ちきれなくなりました。
そして何日も考えた末、センイチはふとよいことを思いつきました。
悪魔が森の中に掘った穴を探し出せば、約束は取り消しになるということでした。
もう悪魔の道具なんかこりごりでした。約束が取り消しになって、元の体に戻りさえすれば、お金はたくさんたまっているし、これ以上の望みはありません。
それに、悪魔はきっと穴の中に宝を埋めているに違いありません。それが手に入るかもしれません。

「そうだ、それにかぎるよ」とセイも賛成しました。
「どうして、もっと早く思いつかなかったんだろう。すぐに明日からはじめなさいよ」
「うむ、そうしよう」

そしてその翌日から、センイチは猟をやめて、森の中に悪魔の穴を探しに出かけました。
大きな帽子をかぶって、鍬(くわ)をかついで、あのときの悪魔の姿と同じ姿でした。
けれども、とても大きな森ですし、ただ「栗の木の下」というだけで、いくつもある栗の木のどれだか分かりません。
もうあれから五十日もたっていることですし、センイチは一日、森の中をうろつき回っても、悪魔の穴を見つけることができませんでした。
センイチが帰ってくると、セイは尋ねました。
「分かったの?」
「いや分らない。大きな森の中だ。一日じゃだめだ」

翌日もセンイチは出かけました。
「分かったの?」とセイは尋ねました。
「分らない」とセンイチは答えました。
三日目も同様でした。
「分かったの?」
「分らない」
四日目も同じことでした。
「まだ分らないの?」とセイは尋ねました。
「まだ分らない」とセンイチは答えました。
五日目も同じでした。
「まだ分らないの?」
「まだ分らない」
六日目も同じでした。
「まだ分らないの?」
「まだ分らない」
「もうやめた方がいいよ」とセイは言いました。
「いや、もう一日探してみよう」とセンイチは答えました。

四

七日目になって、センイチは今日を最後という決心で出かけました。
そして森の一番奥深いところへ、めちゃくちゃに進んでいきました。
ひづめの足でしたから、どんな藪でも突き抜けられました。
すると、茨(いばら)や蔦(つた)が、大木にからみ合っている茂みの先に、少し開けている場所に出ました。
そこにたいへん大きな栗の木が一本あって、その枯れた下枝に、小さなコウモリが一匹とまっていました。
コウモリはセンイチを見ても、逃げようともしませんでした。
いやな奴だな、とセンイチは思いました。
が、ふと気を変えて、話しかけてみました。
「おい、コウモリ、お前は悪魔と仲よしだから、知っているだろう。悪魔がどこに宝を隠しているか、それをおれに教えてくれないか」

コウモリは返事どころか、身動き一つしませんでした。
センイチは怒って、石を一つ拾い上げました。そして、それを投げつけようと見てみると、もうコウモリの姿はどこにも消えてしまっていました。
「おや?」とセンイチは思いました。
しかし、こんな不思議なコウモリがいるということは、悪魔が宝を隠したのは、この栗の木の根本にちがいないと直感しました。
注意深く栗の木の根元を調べてみると、たしかに一か所、土が少し小高くなっているところがありました。
「これだな!」とセンイチは叫びました。

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