この鉄人は手品の仕掛けのようなもので、実際には別の人間が鉄の仮面をかぶり、鉄人に化けていたのだ。最初におじいさんの家を逃げ出した時からずっとそうだった。あれはロボットに化けた人間だったんだよ」
中村警部もまた、小林少年と同じ考えを持っていました。警部はさらに言葉を続けます。
「さっき、こいつは屋根の上に逃げ出したように見えたが、実際は、黒い服を着て黒い覆面をした男が、この鉄人を抱えて動かしていたのだ。私の部下が、今にそいつをここへ連れてくるはずだ」
警部がそう言って玄関のドアの方を振り返った、まさにその時でした。ドアが開き、一人の警官が、黒いシャツとズボン下を身につけ、黒い覆面をした男を連れて出てきたのです。
中村警部は男の方へ歩み寄ると、警官と一言二言言葉を交わした後、いきなり男の覆面を勢いよく剥ぎ取りました。
覆面の下から現れたのは、三十歳くらいの、いかにも人相の悪い男の顔でした。間違いなく、あのじいさんの部下だ。
この男が鉄人Qを屋根の上へと連れ出し、まるで自分自身の力で逃げ出したかのように見せかけていたのだ。
「おい、この鉄人Qとそっくりの姿をした、もう一人のやつはどこへ行った。おまえなら知っているはずだ!」
中村警部が、怒鳴りつけるように言いました。
「へっ、知らねえよ。そんなやつなんて、いねえよ」
男は、とぼけて答えました。
さっきまで西洋館の中にいた、あの怪しいじいさんや、鉄人Qに化けていた男は、一体どこへ隠れてしまったのでしょう。あれほど家の中をくまなく探したというのに、どこにもいなかったではありませんか。
その時でした。
小林君の服を、うしろからキュッ、キュッと引っ張るものがありました。びっくりして振り返ると、ポケット小僧が何か大変な知らせがあるらしく、目を輝かせて立っているのです。
ポケット小僧は、小林少年の耳に口を寄せるようにしてささやきました。
「鉄人Qと人形じいさんは、秘密の通路から川の方へ降りていったに違いないよ。この西洋館の下には川の水が入り込んでいるんだ。だから、そこに船がつないであって、あいつらはそれに乗って逃げるつもりかもしれないぜ」
「あっ、そうか! いいことを教えてくれたね。すぐ中村さんに伝えて、川の方を見張ることにしよう」
小林少年はそう言うと、向こうに立っている中村警部のところへ駆け出していきました。そして、ポケット小僧から聞いた話をそのまま伝えました。
「よし、それなら西洋館の裏の川岸の見張りを増やそう。それから水上警察に頼んで、警備艇(ランチ)を回してもらうんだ」
中村警部は、そばにいた警官たちにそれぞれ指示を出しました。すると三人の警官が裏手の川岸へ急ぎ、もう一人の警官は近くのパトロールカーへ走っていって、無線で警視庁へ連絡し、水上警察に警備艇を出してくれるよう伝えました。
「さあ、我々は川岸で警備艇が来るのを待つことにしよう」
中村警部と小林少年、そしてポケット小僧は門を出て、西洋館の並びにある川の荷揚げ場へと急ぎました。
「さっき、鉄人Qはここからザブザブと川の中へ入っていったんだよ」
ポケット小僧は、石の階段を真っ暗な川の方へ降りながら説明しました。
すると、その時です。
「ピリピリピリリリリリリリ……」
西洋館の裏手から、鋭い笛の音が聞こえてきました。警官たちが吹き鳴らす、合図の呼び子です。
――さては……。
と、暗闇の川をじっと見つめると、一艘のモーターボートが、船首で白い波を切って向こうへ遠ざかっていくのがかすかに見えました。モーターボートは明かりを一つもつけていません。人目を忍ぶ鉄人Qのボートに違いありません。
水上警察の警備艇はどうしたのでしょう。モーターボートはみるみる向こうへ遠ざかっていきます。恐ろしいスピードです。ぐずぐずしていたら見失ってしまいます。
中村警部と小林少年は石段を水際まで降りて、川上の方を見つめました。
「あっ、あそこから来た! あの明るいライトをつけた警備艇だ、間違いないぞ。おい、ここだぞう!」
中村警部は飛び上がるようにして、その警備艇に呼びかけました。パトロールカーのお巡りさんは小型のサーチライトをこちらに向けて、中村警部たちを照らし出しました。警備艇の方でもそれに気づき、荷揚げ場へ近づいてきました。それは間違いなく、水上警察の警備艇でした。
中村警部と小林少年とポケット小僧は、水上警察の警備艇に乗り込みました。警備艇には水上署の六人のお巡りさんが乗っています。
「鉄人Qとじいさんが、モーターボートで逃げたのだ。もう二百メートルも川を下っている。サーチライトをつけてくれ!」
中村警部の言葉に、お巡りさんは急いでサーチライトのスイッチを入れました。サーッと白い光の柱が、暗闇を切り裂いて走りました。
「あっ、小さく見えるぞ! あれだ、あれが鉄人Qのモーターボートだ。全速力を出してくれ! あれに追いつくんだ!」
いくらモーターボートが速いといっても、警察の警備艇にはかないません。二つの船の距離は、みるみる縮まっていきました。警備艇には双眼鏡が備えてあったので、中村警部はそれを目に当てました。
「あっ、鉄人Qがボートの上に立ちはだかっている。たしかに、あの気味の悪い鉄の顔だ。ああ、もうこれ以上は速力が出ないのか。何をぐずぐずしているんだ!」
と、地団駄を踏まんばかりです。その時、ボートと警備艇の間は、ぐっと縮まりました。なぜか、モーターボートがスピードを落としたからです。
もう双眼鏡を使わなくても、鉄人Qの姿がはっきりと見えます。
やつはサーチライトの光を浴びながらボートの上に立ち上がると、右手を顔の前に広げて、指をへらへらと動かしています。
「やあい、ざまをみろ!」
と、こちらをからかっているのです。
「ちくしょう、今に見ろ!」
中村警部がくやしそうに叫びながら、手を振って威嚇するような格好をしました。
「ワハハハハハハハ……」
かすかに、鉄人Qの笑い声が響いてきました。
すると敵のボートは、また急にスピードを上げたのです。
距離はみるみる遠ざかり、モーターボートはサーチライトの光が届かない闇の中へと逃げ出してしまいました。
その後も二艘の船による追いかけっこが続きましたが、しばらくすると何だか変なことが起こりました。
あんなに離れていたはずのモーターボートが、またしても、ぐんぐんこちらへ近づいてくるではありませんか。
「あっ、エンジンを止めて流れに任せている。機械が故障したのかな?」
中村警部が不思議そうにつぶやきました。
ごらんなさい。
ボートの中に仁王立ちしている鉄人Qと、その横でうずくまっているじいさんの姿。
二人はエンジンが止まっても騒ぐ様子はなく、落ち着き払っているではありませんか。
警備艇はすぐにモーターボートに追いつきました。
船と船とがくっつくと、二人の警官がピストルを構えてボートの中へ飛び込んでいきました。
しかし、ボートにいた二人は手向かいもしなければ、逃げようともせず、じっとしています。
一体、どうしたというのでしょう。
すると、また変なことが起こりました。
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