小林君は、賢二少年をかわいそうに思って身代わりを務めていたのですが、十二号の身のこなしが、かよわい賢二君にしてはあまりに上手すぎたので、替え玉がバレてしまったのです。そのうえ、隠れていた賢二少年まで見つかっては、もうどうすることもできません。
【老魔術師の正体】
「ワハハハハ……おおかた、そんなことだろうと思っていた。きさま、明智探偵の助手の小林だな。チンピラのくせに大胆なやつだ。よくここへ忍び込んだものだ。うん、わかったぞ。きさま、いつもの手を使ったな。わしらの自動車のトランクの中へ隠れてついてきたんだな。だが、こうして見つけられたらもうだめだ。かわいそうだが、鉄塔王国のおきてに従って、厳罰に処するぞ。わしの国には死刑はない。わしは血を見るのが嫌いなのだ。だから、この国の兵隊は鉄砲やピストルや剣は持たない。その代わりに、カブトムシの妖術を武器にしているのだ。しかし、この国の厳罰というのは死刑よりも恐ろしい。死刑ではないが、やっぱり命がけの罰だ。さあ、このふたりの子どもをひっくくって、猿ぐつわをかませろ!」
怪老人は激しい声で命令を下しました。ふたりの荒くれ男が用意していた縄を取り出し、小林少年と賢二君に近づいてきました。
そのときです。うっかりしていた怪老人の体へ、黒いものがパッとぶつかっていきました。黒い覆面は取られていましたが、首から下は足の先まで黒ずくめの小林少年が、怪老人にとびついていったのです。そして、あっという間に老人の長い白髭と白髪頭をひっぺがしてしまいました。それは、付け髭とカツラだったのです。そして、その下から現れたのは、まだ若々しい男の顔でした。
小林少年の目にも止まらぬ早業に、さすがの悪人も「あっ!」と叫んで、思わず両手で顔を押さえましたが、もう手遅れでした。今度は小林君のほうが笑う番でした。
「アハハハ……カブトムシ大王っていうのは、きみのことだったのか。それにしてもまずい変装だね。変装の名人にも似合わないじゃないか」
「なに、変装の名人だと?」
老人に化けていた首領は、なぜかギョッとしたように聞き返しました。
「明智先生には、はじめからわかっていたんだよ。ただ、いわなかっただけさ……」
「なんだと……」
小林少年は、またもや愉快そうに笑いました。そして、相手の顔を真っ正面から指差しながらこう言いました。
「怪人二十面相! それとも、四十面相と呼んだほうが、お気に召すのかい……こんな気違いみたいな真似をして世間を騒がせるやつが、二十面相のほかにいるものか。いくら変装したって、そのやり口ですぐにわかっちゃうよ。ハハハ……今度もきみの負けだったね。きみの狙いは、いつも明智先生だ」「世間を大騒ぎさせておいて、明智先生がどうすることもできずに困っている姿を見て、手をたたいて大笑いしたいんだ。
明智先生を負かしたいんだ。
それこそが、君のいちばんの願いなんだ。
だけど、今回もダメだったね。
こうやって、僕にちゃんと正体を見破られちゃったじゃないか」
しかし、悪者たちが、小林君にいつまでも好き勝手なおしゃべりをさせておくはずがありませんでした。
そのとき、二人の荒くれ男が、左右から小林君をがっしりと抱きすくめ、体に縄をグルグルと巻きつけて縛ってしまいました。
おじいさんに化けていた二十面相は、それを見ると、とても気持ちよさそうに、また大笑いしました。
「ワハハハ……! 今度は、俺が笑う番だな。
かわいそうに。
頭が良さそうに見えても、やっぱり子どもだな。
敵の基地の中にたった一人で飛び込んできて、俺の正体を暴こうなんていう勇気は大したものだが、こうして縛られてしまったら、もうおしまいじゃないか。
焼いて食おうが、煮て食おうが、こちらの自由なんだからな。
ハハハ……気の毒なことだ。
いよいよ、俺の国の、一番重いバツを受けてもらうぞ。
……おい、この二人のガキどもを、鉄塔のてっぺんへ追い上げてしまえ!」
二十面相は、そこで急に恐ろしい顔つきになり、激しい声で命令しました。
そのときには、賢二君も小林君と同じように、すっかり縄で縛られていました。
そして、二人の荒くれ男が、二人の少年を縛っている縄の端を引っ張って、大広間の外へと連れ出していきました。
二十面相も、ニタニタと嫌な笑いを浮かべながら、その後ろからついていきます。
ああ、二人の少年は、これからどんな恐ろしい目に遭うのでしょうか。
二十面相の言う通り、小林君は少し考えが足りなかったのでしょうか。
いくら敵の正体を暴いたところで、もう生きて帰れなくなってしまっては、せっかくの苦労も水の泡になってしまいます。
【大ワシのえじき】
石の壁で作られた長い廊下を何度も曲がって、たどり着いたのは、丸い鉄の部屋でした。
どうやら鉄塔の1階のようです。
壁には黒い鉄板がすき間なく張られていて、部屋の片隅には、急な角度の鉄のはしごが取り付けられていました。
「さあ、これを登るんだ!」
二十面相の命令で、二人の荒くれ男は二人の少年を急き立てて、そのはしごを登らせました。
2階、3階、4階と、どこもみんな丸い鉄の部屋でした。
そして、5つ目のはしごを登ると、急に目の前がパッと明るくなり、鉄塔の屋上に出ました。
丸い床には一面に鉄板が敷き詰められていて、その周りには、低い鉄の手すりのようなものが取り付けられています。
「下をのぞかせてやれ」
二十面相がそう言うと、男たちは二人の少年を屋上の端へと連れていき、手すりに体を押しつけて、無理やり下をのぞかせました。
小林君は平気そうな顔をしていましたが、賢二君は恐怖で顔が真っ青になってしまいました。
鉄塔の壁が、真下にむかってはるか遠くまで伸びていて、まるで、ものすごく高い崖の端っこに立たされているような気分です。
お尻のあたりがゾワゾワして、足がブルブルと震えだしました。
「どうだ、思い知ったか。お前たちは、絶対にここから逃げ出すことなんてできないんだ。
ここは空中に浮かぶ牢屋(ろうや)なんだよ。
鉄格子も何もない、吹きさらしの場所だが、これほど厳重な牢屋はないぞ。
逃げようとすれば、真っ逆さまに落ちて命を落とすだけだからな。
まあ、ここでゆっくり休んでいるがいいさ。
アハハハ……! それじゃあ、あばよ。
今はまだ大したことないと思っているだろうが、そのうち、だんだんとこの牢屋の本当の恐ろしさが身に染みてわかってくるはずだ」
二十面相は、二人の男を先に降ろし、自分も後から鉄のはしごを降りました。
そして、屋上へとつながる出入り口の鉄のフタを両手で引き下ろし、そのすき間から顔だけをのぞかせて、ニヤニヤ笑いながら言いました。
「おい、小林君。念のために言っておくが、この山には大ワシが住んでいるんだ。
君たちは、その大きなワシと戦わなければならない。
死にもの狂いで戦って、君たちの体力が尽きたときが最後だ。
大ワシのエサになってしまうんだよ」
そう言い残すと、バタン!と大きな音を立てて鉄のフタが閉まり、カチカチと鍵をかける音が響きました。
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