初級翻訳・少年探偵団 第5話

少年探偵団

そこで、大切な仏さまを汚し、お殿さまの娘さまの命を奪った外国人の軍人たちを、仏さまにかわって罰することが総意として決まり、村を代表して、恐ろしい魔術を使う命知らずの二人のインド人が、敵を求めて世界中を旅して歩くことになったのだ。
その二人が病気で亡くなれば、また別の若い男が後を継いで派遣される。
そうして、何十年経とうとも、何百年経とうとも、その宝石をもとの仏像の額に戻すまでは、この呪いは決して解けることがないというのだ。
それ以来、この宝石を所有する者は、いつも真っ黒な影に狙われることになった。
とくにその家に幼い女の子がいるときは、お姫さまの仇討ちだということで、まずその女の子をこっそりさらっていき、人知れず消してしまう。
その遺体は、いくら警察が必死に捜索しても、決して発見されることがないということだった。
わたしが上海で外国人に聞いた因縁話というのは、まあ大体そのようなものだったがね、もちろん、当時のわたしはそんな話を少しも信用しなかった。
そんな馬鹿げたことがあるものか、これはきっと、話をしてくれたその外国人も本当はこの宝石が欲しかったのに、わたしが先に買い取ってしまったものだから、根拠もない怪談を語って聞かせて、わたしから宝石を安く買い叩こうとしているに違いないと思ったのだ。
そして、わたしはつい最近まで、そんなお話などすっかり忘れ切っていた。
ところが、昨夜も今日も、わたしたちの家を中心に幼い女の子がさらわれたのを見ると、しかもそのさらった犯人があの真っ黒な怪物だったということを思い合わせると、わたしはだんだんと気味が悪くなってきた。
例の言い伝えと、今の事件がぴったりと一致しているからねえ……」
「では、うちの緑ちゃんが狙われて、さらわれるかもしれないとおっしゃるのですか?」
おかあさまは、もうすっかりびっくりされてしまって、今にも愛しい緑ちゃんを守るためにその場に立ち上がろうとなさるほどの勢いでした。
緑ちゃんというのは、今年五歳になる始君の可愛い妹のことです。
「ううん、そういうことなんだよ。
しかし、今はまだそれほど心配しなくてもいい。
私たちがこうして家にいれば、緑は安全なのだからね。
ただ、これからは緑を外へ遊びに行かせないようにして、家の中でも決して目を離さないようにしていてほしいのだよ」
実際、お父様がおっしゃる通り、緑ちゃんが遊んでいる子ども部屋へ行くには、必ずこのお座敷を通らなければならない作りになっていました。
それに、緑ちゃんのそばにはいつも、おばあややお手伝いさんがついているはずでした。
「でも、お父さん、なんだか変じゃありませんか?
そのインド人たちは、はじめに罪を犯したそのときの外国人にだけ復讐すればいいじゃありませんか。
それを今になって、どうしてぼくたちにまで仇を返すような真似をするんですか?」
始君は、どうしてもそのあたりが腑に落ちませんでした。
「ところが、そうではないのだよ。
実際に手を下した張本人の罪人であろうとなかろうと、現在その宝石を持っている者に呪いがふりかかる仕組みなのだ。
そのせいで、ヨーロッパでも数人の人間がひどい目に遭わされ、迷惑をこうむってきたということだ。
恐怖のあまり病気になってしまったり、気が狂ってしまった者さえいるそうだよ」
「そうですか、それはなんだか訳のわからないお話ですね……。
あっ、そうだ、いい考えがありますよ!
お父さん、ぼく『少年探偵団』に入っているでしょう?
だから、ぼくたちが……」
始君が声を弾ませてそう言いますと、お父様は苦笑いをしながらおっしゃいました。
「ハハハ……、お前たちの手に負えるような相手ではないよ。
なにしろ、相手は本場のインドの魔法使いなのだからねえ。
お前も知っているだろう?
インドの魔術というものは、世界中の謎になっているほどすごいものなのだ。
一本の縄を空中に投げ上げて、その投げた縄を伝って、まるで木登りでもするように子どもがスルスルと空へ登っていくという話だからねえ。
それから、地面に深い穴を掘って、その中に埋められた人間が一ヶ月も二ヶ月も経ってから土を掘り起こしてみても、ちゃんとケロッと生きているという、恐ろしい魔法さえある。
インド人たちなんて、今しがた地面に種をまいたかと思うと、みるみるうちにそれが芽を出し、茎が伸び、葉っぱが茂り、きれいな花が咲くというような奇跡を、朝飯前でやってのけるような人種なのだからね」
「じゃあ、ぼくたちでどうにかできなければ、明智先生にご相談してみてはどうでしょうか!
明智先生は、あんなに手ごわくてまるで魔法使いみたいな、あの怪人二十面相さえも、いとも簡単に逮捕なさった方ですからねえ!」
始君は、まるで自分のことのように誇らしげに言いました。
明智探偵さえいてくれれば、いくら相手が恐ろしいインドの魔法使いだろうと、けっして負けるはずがないと、彼はかたく信じきっていたのです。「うん、明智先生なら何かいい考えがあるかもしれないね。あすにでも、ご相談してみることにしようか」
お父様も、明智探偵の名前を出されては、降参しないわけにはいきませんでした。
しかし、あの黒い魔物は、あすまで待ってくれるでしょうか。
始君たちの話を、やつはもう、障子の外からしっかりと立ち聞きしていたのではないでしょうか。

**黒い手**

そのとき、始君は何を見たのか、ハッと小さな叫び声をあげて、お父様のうしろにある床の間を見つめたまま、まるで石になって動かなくなってしまいました。
そのときの始君の顔といったらありません。
まっ青になって、目は飛び出さんばかりに見開き、口をぽかんと開けて、まるで気味の悪い生き人形のようでした。
お父様もおかあさまも、始君の様子にギョッとされて、急いで床の間の方を振り返りましたが、すると、お二人の顔も始君とおなじような、恐ろしい表情に変わってしまったのです。

ごらんなさい。
床の間の横にある書院窓(しょいんまど)が、音もなく少しだけ開いたではありませんか。
そして、そのすきまから、一本の黒い手が、ニゅーっと突き出されたではありませんか。

「あっ、いけない!」
そう思う間もありませんでした。その手は花台の上にあった宝石箱をわしづかみにしたのです。
そして、黒い手は静かに、またもとの障子のすきまへと消えていってしまいました。
黒い魔物は、大胆不敵にも三人の目の前で、呪いの宝石を奪い去ったのです。

お父様も始君も、あまりの不意打ちにすっかり肝を冷やしてしまい、黒い手に飛びかかるどころか、その場に立ち上がることすら忘れてぼうぜんとしていました。しかし、黒い手が引っ込んでしまうと、やっと正気を取り戻したように、まずお父様が、
「今井君、今井君、不審者だ、早く来てくれ……!」
と、大きな声で秘書をお呼びになりました。

「あなた、緑ちゃんに、もしものことがあっては……!」
おかあさまの、うわずった声が響きます。
「うん、お前もおいで」
お父様はすぐさまふすまを開け、おかあさまといっしょに緑ちゃんのいる部屋へ駆け込んでいかれましたが、幸いなことに緑ちゃんには何事もありませんでした。

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