初級翻訳・若草物語 第6話

オルコット ルイーザ・メイ

お父さまは、わたしたちみたいに楽しいクリスマスを過ごせていないでしょうから」

第三章 ローレンスのぼっちゃん

「ジョウ、どこにいるの!」と、メグが屋根裏部屋の梯子の下から呼びました。
「ここよ!」
かけあがっていくと、ジョウは日なたぼっこをしながら、リンゴをかじって本を読んでいました。
「すごくいいニュースよ! 明日の晩、来てほしいっていう、ガーディナー夫人の正式な招待状が届いたの」と、メグはその手紙を嬉しそうに読み上げました。
「大晦日の晩に、小さなパーティーを催します。ミス・マーチ、ミス・ジョセフィン、お二人ともぜひお越しください。ガーディナー夫人――お母さまも行っていいって。でも、あたし何を着ていけばいいのかしら?」
「そんなこと、聞いてもしょうがないでしょ。ポプリンの服しかないんだから、それを着ていくしかないってわかってるくせに」と、ジョウはリンゴを口いっぱいにほおばりながら言いました。
それからというもの、メグは「絹の服があればいいのに」とか「手袋のいいのがない」とか、あれこれくよくよと悩んでばかりいました。一方のジョウは、服に焦げ跡があるのに平気で着ていこうとしていたし、手袋なしで済ませるつもりでした。ジョウにとっては、そんなことは大した悩みではなかったのです。
「あたしのことは気にしなくていいわ。できるだけおすましして、失敗しないように気をつけるから。さあ、早く返事を出しなさいよ」
そうしてメグは服の用意をするために部屋を出ていき、ジョウはそのまましばらくリンゴをかじりながら本を読み続けました。

大晦日の晩、客間はからっぽでした。二人の妹たちは着付け役になり、二人の姉は夜会のお仕度という、この上なく重要なお仕事に夢中でした。化粧は簡単でも、二階へかけあがったり降りたり、笑ったりしゃべったりと大騒ぎです。メグが額の上にカールした髪がほしいと言ったので、ジョウがコテで巻いてあげたところ、髪が焦げる強烈なにおいが家中にただよいました。その失敗にメグは泣き出し、ジョウは申し訳なさそうにしていました。
ほかにも小さな失敗は数え切れないほどありましたが、なんとか二人の仕度は整いました。メグは銀褐色の服に、空色のビロードのリボン、レースの縁飾りをつけ、真珠のピンをさしました。ジョウは海老茶色の服に、かたい男物のようなカラーをつけ、白菊を飾りにしただけでしたが、とにかく二人ともすっきりとして見えました。
二人とも、きれいな手袋を片方ずつはめ、残りの汚れた方の手袋は手に持ちました。苦心の末のお仕度でした。
姉妹がおすましして歩道へ出ると、お母さんが言いました。
「いってらっしゃい。夜食を食べすぎちゃだめよ。ハンナを十一時にお迎えに行かせるから、帰っていらっしゃい」
お母さんが窓を閉めましたが、すぐにまた開けて言いました。
「もしもし、二人ともきれいなハンカチは持っていますか?」と念を押しました。
「ええ、まっ白よ。ねえさんはコロン水もふりかけたわ」とジョウが答えました。二人はガーディナー夫人の家に着くと、化粧室でかなり長いあいだ鏡をのぞきこんでから、すこしドキドキしながら階下へおりていきました。
二人はめったに舞踏会などに招待されることがないので、今夜の会は略式とはいえ、二人にとっては大きな事件だったのです。
立派な老婦人であるガーディナー夫人は、にこやかに二人を迎えてくれ、六人いる娘さんのなかの長女に二人を引き合わせてくれました。
メグはサリーさんを知っていたので、すぐに親しく話しはじめましたが、女の子らしいおしゃべりにあまり興味のないジョウは、服に焼け焦げがあることを気にして、用心深く壁を背にして立っていました。
部屋の向こうで、元気のいい五、六人の男の子たちがスケートの話をしていたので、ジョウはそこへ行ってもいいかとメグに合図を送りましたが、メグが驚いたように眉を上げたので、動くことができませんでした。
しかたなしに、ジョウはただ一人取り残され、ダンスがはじまるまで周りの人々を眺めているばかりでした。
ダンスがはじまると、メグはすぐに相手が見つかってにこにこと踊りましたが、きゅうくつな靴の痛さをがまんしていることは、だれにも気づかれませんでした。
ジョウは、髪の赤い青年がやってくるのを見て、ダンスを申し込まれては大変だと思い、いそいでカーテンのかげに入りました。するとそこには、はにかみ屋さんの「ローレンスのぼっちゃん」がいたのです。
ジョウはさっそく、クリスマスのプレゼントのお礼を言いました。
「あれは、おじいさんのプレゼントですよ」
「でも、おじいさんに伝えてくださったのは、あなたでしょう?」
ぼっちゃんは笑っていました。
それからいろいろと話しているうちに、ジョウは、このぼっちゃんがローリイという名で、長いあいだ外国にいたことを知りました。
「まあ、外国へ! あたし、旅行のお話を聞くのは大好き!」
ローリイは、どう話したらいいのか戸惑っているようでしたが、ジョウが熱心にいろいろ質問したので、ヴェヴェイの学校のことや、この前の冬にパリにいた時の話をしてくれました。
ジョウは、めずらしい外国の話にたまらなくなって、「ああ、行ってみたい!」と叫びました。
それから話はフランス語のことになり、ジョウが「自分は読めても喋れないだけれど、ちょっと話してみてほしい」と頼むと、ローリイはフランス語でこう言いました。
「あのかわいいスリッパをはいている人はだれですか?」
ジョウは意味がわかったので、すぐに答えました。
「あれは姉のマーガレットよ。あなたはわたしのねえさんをかわいいと思う?」
「ええ、おねえさんは、なんとなくドイツの少女を思わせますね。いきいきしていて、それでいてしとやかで、立派な淑女みたいに踊りますね」
ジョウは姉をほめられて嬉しくなり、ぜひメグに話してあげようと思いました。
ローリイはもうすっかりはにかみもせず、心を開いて話してくれました。ジョウも今は服のことなど忘れて、快活ないつものジョウになり、ローリイのことがすっかり好きになりました。
それで、ローリイのことを姉妹に話してやるために、顔かたちや身体つきなどをよく覚えておこうと、何度も見なおしました。
けれど、年はいくつでしょう? ジョウは「おいくつ?」と言いそうになりましたが、なんとかこらえて、遠まわしに尋ねることにしました。
「もうすぐ大学へ行くんでしょう?」
「まだ二、三年はだめですよ。十七にならなくてはいけませんから」
「では、まだ十五なの?」
「来月、十六になります」
「あたしは大学へ行きたいけれど、あなたはいきたそうではありませんのね」
「ぼくはいやです。ぼくはイタリアに住んで、自分の好きなように暮らしたいんです」
ジョウは、ローリイのいう「好きなように暮らしたい」ということをもっとくわしく聞きたいと思いましたが、彼が眉をひそめて不機嫌そうに見えたので、気をそらせようとして足拍子をとりながら尋ねました。
「ああ、いいポルカね。あなた、なぜ行って踊らないの?」
「あなたこそ、いけばいいじゃない」
「あたしはだめ。姉さんに踊らないと言ったの。

コメント

タイトルとURLをコピーしました