お父さんがいなくなってからも、一度も愚痴を言ったり寂しがったりしないし、誰の助けもあてにしないで、一人でシャキシャキがんばっているもの」と、ジョウは不思議そうに言いました。
「お母さんはね、愛する国のために、自分の一番大切な宝物であるお父さんを送り出したのよ。それなのに、どうして愚痴なんて言えるかしら。お母さんが誰の助けもいらないように見えるのはね、お父さんよりももっと素晴らしい方が、いつもお母さんを慰め、励ましてくださっているからなの。それはね、天国にいらっしゃる神様(天のお父様)なのよ。天の神様に心を近づければ、人間の知恵や力だけに頼る必要はなくなって、心の中に本当の平和と幸せが生まれるの。さあ、ジョウ、あなたもその天の神様のもとへ行きなさい。あなたのすべての心配や、悲しみや、犯してしまった過ちを、そのまま全部打ち明けるのよ。ちょうど今、あなたがお母さんを心から信じて、何でもお話ししてくれたのと同じようにね」
ジョウは言葉を返す代わりに、ただお母さんの体にしっかりとすがりつきました。そして、心の中で静かにお祈りを捧げました。どんなお父さんや親よりも、もっともっと強くて優しい愛で、世界中のすべての子どもたちをあたたかく迎えてくださる天の神様に、一歩近づくことができたのです。
そのとき、ぐっすり眠っていたエミイが、寝返りをうって小さくため息をつきました。
ジョウは、今すぐにでも自分のしてしまった悪いことをやり直したい、エミイに謝りたいと思ったのでしょう。これまでにないくらい、真剣でまじめな顔つきになりました。
「あたし、怒った気持ちを次の日まで引きずって、エミイを許してあげなかった。もしローリーが助けてくれなかったら、本当に大変なことになっていたわ。ああ、どうしてあたしは、こんなに悪い子なのかしら……」
ジョウはエミイのそばに寄り添い、枕の上に散らばった乱れ髪を優しくなでながらそうつぶやきました。すると、その言葉が聞こえたかのように、エミイがパチッと目を開けました。そして、にっこり可愛い微笑みを浮かべて、ジョウに向かって手を差し出したのです。
二人は何も言いませんでしたが、毛布越しにぎゅっと強く抱き合いました。そして、心を込めてお互いにキスを交わし、すべての怒りや悲しみを許し合って、水に流したのでした。
第九章 きらびやかな世界(虚栄の市)
ぽかぽかと暖かい四月のある日のこと、長女のメグは自分の部屋で、妹たちに囲まれながら、旅行用の大きなトランクにせっせと荷物を詰め込んでいました。
お母さんは、娘たちが大きくなったらプレゼントしようと大切にしまっておいた、昔の華やかだったころの思い出の杉箱を開けました。そして、そこからツルツルとした絹の靴下と、美しい彫刻が施された扇子、あるいは可愛らしい青いリボン(飾り帯)を取り出して、メグに持たせてくれたのです。
次の日は、すっきりと晴れ渡った素晴らしいお天気でした。メグは、楽しみにしていた二週間の旅行へと出発しました。お金持ちでお上品なマフォット家のお屋敷に、お客さまとしてお呼ばれしたのです。
お母さんは、お上品すぎるお家へ行くことを最初はあまり賛成していませんでした。けれど、メグがどうしても行きたいと熱心にお願いしたこと、そしてお友達のサリーが「私がちゃんと面倒を見るから大丈夫よ」と約束してくれたことから、冬の間ずっとがんばって働いたごほうびとして、行くことを許してくれたのです。こうしてメグは、憧れのお金持ちたちの華やかな世界へと、第一歩を踏み出しました。
マフォット家のお屋敷に到着すると、メグはそのあまりにも立派な建物や、そこで暮らす人たちのお上品な様子に、すっかり圧倒されてしまいました。
そこでの暮らしは、少しお気楽でうわべばかりのものでしたが、みんながとても親切にしてくれたので、メグもだんだんとリラックスして過ごせるようになりました。毎日おいしいごちそうを食べ、ピカピカの立派な馬車に乗ってお出かけし、上等なお洋服でおしゃれをして、勉強も仕事もせずにただ遊んで暮らすことは、メグにとって夢のように楽しいことでした。
それはメグの好みにぴったりで、メグはマフォット家の人たちのおしゃべりの仕方や、お上品な仕草、洋服の着こなし、さらには髪の毛のおしゃれなカールのさせ方まで、なんでも真似しようとがんばりました。
すると、お金持ちの豊かな暮らしに比べて、自分たちの貧しいお家の暮らしが、なんだかとてもつまらなくて、かわいそうなものに思えてきてしまったのです。
メグはマフォット家の三人の若いお嬢さんたちにすっかり気に入られて、お散歩や乗馬、お友達の家へのお出かけ、お芝居やオペラの見物、そしてダンスパーティー(夜会)など、いつも一緒に楽しい時間を過ごしました。そのうち、お嬢さんの一人であるベルには結婚を約束した婚約者があることがわかり、メグは「まあ、なんてロマンチックなのかしら!」と、ワクワクしながらそのお話に聞き入っていました。
マフォットさん(お父さん)は、まるまると太った優しいおじいさんで、実はメグのお父さんの知り合いでもありました。マフォット奥様も、同じようにふくよかで優しそうな方で、メグのことをとても可愛がってくれました。そしてメグのことを「ひな菊(デイジー)ちゃん」という可愛いあだ名で呼んでくれたのです。
さて、いよいよ楽しみにしていたダンスパーティーの日のことです。三人の姉妹たちはみんな、きらびやかで素晴らしいドレスを着て大はしゃぎしていましたが、メグは自分が持ってきた、すこし古ぼけたポプリン(平織りのウール)のドレスのみすぼらしさを見て、急に心がどんよりと重くなってしまいました。
それでも、ドレスのことなんて気にしない風を装いながら、三人の姉妹たちは親切に「髪の毛を結んであげるわね」とか「リボン(飾り帯)をきれいに結んであげる!」と言ってくれました。けれど、メグはその親切な言葉の裏に、「かわいそうに、貧しいのね」という哀れみの気持ちが隠されているような気がして、ますます悲しい気持ちになってしまうのでした。
そこへ、お手伝いさんがきれいなお花が入った箱を運んできました。それを見たアンニーが、うれしそうに叫びました。
「まあ! ジョージから、ベルお姉ちゃんに届いたのよ!」「……」とアンニーが言いかけましたが、お手伝いさんは一通の手紙を差し出しながら、こう言いました。
「『マーチさんへ』と、お届けに来た方がおっしゃっていましたよ」
「まあ、すてき! 誰からかしら? あなたに恋人がいるなんて知らなかったわ!」
周りのみんなは、強い好奇心で目を輝かせました。
「お手紙はお母さんからで、お花はローリーからなんです」
「あら、そうなの」と、アンニーは少し不思議そうな、ニヤリとした顔で言いました。
お母さんからの手紙は短いものでしたが、とてもためになる優しいアドバイスが書かれていました。メグはそれをそっとポケットにしまいました。
また、届いたお花は、さっきまで沈んでいたメグの気持ちをパッと明るくしてくれました。
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