初級翻訳・若草物語 第42話

オルコット ルイーザ・メイ

 この日はその遊びに夢中になりすぎて、ローリーが鳴らしたベルの音にも気づかなかったし、彼がこっそりのぞきに来たことにも気づきませんでした。
 エイミーは、青いドレスに黄色いアンダースカートをはき、ピンク色の帽子をかぶって、扇子(せんす)を使いながら、すました顔で歩き回っていました。
 ローリーが後でジョーに話したところによると、エイミーが気取って歩く後ろから、オウムのポーリーがマネをして歩き、時々立ち止まっては「きれいだろ! あっちいけ! おばけめ! おだまり! キスして! ハッ、ハッ!」と怒鳴っていて、それはもう、おかしくてたまらない光景だったそうです。
 ローリーはおかしすぎて、吹き出しそうになるのを必死でこらえました。
 そしてエイミーにていねいに迎えられ、「これを読んで」と、例の遺言状を見せられたのです。

遺言状
 私、エイミー・カーティス・マーチは、頭もしっかりした状態で、自分の持ち物すべてを次のように分けます。
 お父様には、一番いい絵とスケッチ、地図、額縁(がくぶち)に入った美術品。
 お母様には、私の服を全部。ただし、ポケットがついている青いエプロンは除きます。それから、私の似顔絵とメダルを、真心をこめて贈ります。
 メグ姉さんには、トルコ石の指輪(もしもらえたら)、ハトの絵がついた緑の箱、ネックレス用のレース、そして姉さんを描いたスケッチ。これは、姉さんの愛する妹の形見(かたみ)です。
 ジョー姉さんには、一度直したブローチと、ブロンズのインクつぼ(ふたは姉さんがなくしたもの)。それから、前に原稿を燃やしてしまったおわびに、一番大切にしている石こうのウサギをあげます。
 ベス(もし私より長生きしてくれたら)には、お人形と小さなタンス、扇子、麻のえり。それから病気が治って、足が細くなっていなければ、新しいスリッパを。あと、私がいつも古ぼけたお人形のジョアンナのことをバカにしたことを、ここで謝っておきます。
 お友達で隣に住んでいるローリーには、紙のカバンと、彼が「首がないみたいだ」と言ったけれど、私が作った粘土の馬をあげます。つぎに、私が困っている時に親切にしてくれたお礼に、私の絵の中で好きなものを一枚差し上げます。ノートルダム寺院を描いた絵が一番よくできています。
 大恩人のローレンスおじい様には、ふたに鏡がついた紫色の箱を。ペン入れにちょうどいいと思います。この贈り物が、私たち家族、特にベスへの親切を忘れていないという証(あかし)になるでしょう。
仲良しのキティ・ブライアントには、青色のエプロンと金色のビーズの指輪を、大好きな気持ちと一緒にあげます。
お手伝いのハンナさんには、彼女が欲しがっていた紙の箱と、パッチワークの道具を全部あげます。私を思い出してもらうためです。
私の大切な持ち物はすべて分け与えます。みんなが満足して、亡くなった私のことを誰も悪く言わないでほしいと願っています。
私はすべての人を許します。そしていつか天国で、みんなとまた会えることを信じています。
アーメン。この遺言状(ゆいごんじょう)は、1861年11月20日、私自身の手で書き、封をしました。
エイミー・カーティス・マーチ
証人 エスター・ベルノア
セオドア・ローレンス

 最後の名前は、鉛筆で書かれていました。
エイミーは彼に、その名前をペンで書き直して、正式にハンコを押してほしいと頼みました。
「どうしてこんなことを思いついたんだい? ベスが形見分け(かたみわけ)をしようとしているなんて、誰から聞いたの?」
 エイミーは理由を話してから、「ベスの具合はどうなの?」と尋ねました。
「ちょうど話そうと思っていたんだ。この前、ベスの具合がすごく悪くなった時、ジョーに言ったんだよ。ピアノはメグ姉さんに、小鳥はエイミーに、そしてかわいそうな古いお人形はジョーにあげるって。ジョーに、お人形を形見として可愛がってほしいんだってさ。ベスは、自分にはみんなにあげるものが少ししかないって悲しんで、僕たちには自分の髪を、おじいさんには愛だけを残すって言っていたよ。でも、ベスは遺言状のことなんて、これっぽっちも考えていなかったんだ」
 ローリーはそう言いながらサインをしていましたが、大きな涙の粒がポロリと落ちてきました。
ローリーがハッとして顔を上げると、エイミーの顔は悲しみでいっぱいでした。
「遺言状に、書き足しをしてもいいかしら?」
「いいよ。追伸(ついしん)っていうんだよね」
「じゃあ、こう書いて。私の髪を全部切って、お友達に分けるって。変な見た目になっちゃうけれど、その方がいいと思うの」
 ローリーは、エイミーが自分の一番の自慢である髪を差し出そうとする決心に、微笑みながら書き足してあげました。それから二人は一時間ほど一緒に遊びました。
「ベスは、本当にそんなに具合が悪いの?」
「そうみたいなんだ。良くなるように祈ろう。泣いちゃだめだよ」
 ローリーはお兄さんのように、エイミーの肩に手を置いて優しくなぐさめました。
ローリーが帰ると、エイミーは小さな祈りの部屋に入りました。夕暮れの光の中で、涙を流しながらベスのために一生懸命にお祈りをしました。
もし、この優しいお姉さんを失ってしまったら、たとえトルコ石の指輪を百万個もらったとしても、悲しみは消えないだろうと思ったのです。

第20章 打ち明け話

 お母さんと娘たちが再会した時の様子は、どんな言葉でも言い表せないほどでした。
このような世にも美しい光景を、文章にするのはとても難しいことです。
ですから、その場面はみなさんの想像にお任せすることにしましょう。ただ、家の中には本当の幸せが満ちあふれていました。メグの優しい願いが叶い、ベスが長い眠りから目を覚ました時、最初に目に入ったのは、小さな白いバラの花と、お母さんの優しい顔でした。
ベスは体が弱っていて、まだ元気はありませんでしたが、ただにっこりと笑ってお母さんに体を寄せると、また静かに眠りにつきました。
その間に、お母さんは朝ごはんを食べました。それはハンナさんが喜びを込めて作った素晴らしい料理で、メグとジョーが甲斐甲斐しく(かいがいしく)お世話をしました。
ごはんを食べながら、お母さんは小声でいろいろな話をしました。お父さんの具合のこと、ブルックさんが残って看病してくれていること、帰りの列車が吹雪で遅れてしまったこと。そして、ローリーが希望に満ちた顔で迎えに来てくれたのを見て、疲れと寒さでボロボロだったけれど、言葉にできないほど安心したことなどを話してくれました。
その日は、なんて不思議で気持ちの良い一日だったことでしょう。
外はまぶしいくらいに雪が太陽に照らされていましたが、家の中はとても落ち着いていました。みんなで看病をしたり居眠りをしたりして、まるで天国のような安らぎの場所でした。
ローリーはエイミーにお母さんが帰ってきたことを知らせに行きました。エイミーは今すぐにでもお母さんに会いたかったのですが、すぐに涙を拭いて、そのはやる気持ちをグッと抑えました。ローリーは「大人の女性みたいに立派な態度だね」と褒め、マーチおば様も心からその通りだとうなずきました。

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