老人はそのローソクを手にもち、どこともしれず、たちさってしまいました。
大友少年は、ローソクのなくなった、まっくらやみの中で、つめたいコンクリートのゆかに、うずくまっていました。
なんともいえない、さびしさと、かなしさに、うちひしがれて、うずくまっていました。
B・Dバッジ
お話かわって、こちらは小林団長をはじめ、少年探偵団の少年たちです。
大友君が洞窟のとりことなった夜のあくる日、少年たちは、学校からかえると、すぐに、島田少年のおうちにあつまってきました。
警察の人たちは、ゆうべおそくまで、ゆくえ不明になった大友君を、さがしましたが、夜ふけのことではあり、ついにみつかりませんでした。
それで、中村捜査係長たちはひとまず警視庁にひきあげ、そこの一室に透明怪人捜査本部をもうけて、東京全都にわたる、大がかりな活動をはじめたのです。
黒川記者も、警視庁の記者クラブにつめきって、たえず捜査本部に顔をだしていました。
しかし、少年探偵団の少年たちには、透明怪人をとらえることよりも、さしあたって、副団長の大友君の身のうえがしんぱいです。
なんとしてでも、大友君をさがしださねばなりません。
そこで、少年たちは警察にまかせておかないで、自分たちの手で、副団長のゆくえを、つきとめようと決心したのです。
小林団長は、島田少年のうちで電話をかりて、電話のある、団員たちに、指令をあたえ、それぞれ近所の団員に、つたえさせるというやりかたで、たちまち六人の少年が、島田邸にかけつけることになりました。
一時間ほどで、すっかり人数がそろったので、小林君は、あわせて十人の少年を五組にわけ、島田邸を出発点として、五つのちがった道を、捜索させることにしました。
「B・Dバッジをさがすんだよ。大友君はきっと、あれを使ったにちがいない、あれさえみつければ、もう、しめたものだ。
」
小林団長は出発する少年たちに、そういう注意をあたえました。
B・Dバッジとは、いったいなんでしょうか。
それは、やがて、わかります。
一組の少年が、まもなく、そのバッジをみつけるのです。
第一班から第五班までにわけた少年捜索隊の、第二班にあたったふたりの少年が、ぐうぜんにも、ゆうべ、透明怪人の自動車が、はしりさった方角を、うけもつことになりました。
しかし、少年たちは、そんなことは、すこしも知らないのですから、ただ、あてずっぽうに、足のむくほうへと、あるいてゆきました。
ひとりは町の右がわを、ひとりは左がわを、というふうに、手わけをして、キョロキョロあたりを見まわし、ことに、地面には、するどい目をそそぎながら、すすむのです。
町かどをいくつもまがって、一キロほどあるいたとき、右がわの少年が、とつぜん、ハッとしたように立ちどまりました。
すぐ目の前の地面に、小さな銀色に光ったものが、落ちていたからです。
少年は、そこにしゃがんで、手ばやく銀色のものを、ひろいあげ、左がわにいたともだちを、手まねきしました。
「やっぱり、そうだったよ。
これB・Dバッジだよ。
」
「ウン、そうだ。
これとおなじだね。
」
少年のひとりは、ポケットから、銀色のバッジをとりだして、くらべて見ました。
たしかに、B・Dバッジです。
「すてきだ。
これで大友君のゆくえがわかるね。
」
少年たちの顔に、いきいきしたよろこびの色が、浮かんできました。
ここで、ちょっと、B・Dバッジの説明をしなければなりません。
『少年探偵団』という本に、このバッジのことが、くわしく書いてあるのですが、それは少年探偵団員の記章なのです。
B・Dというのは、「少年」と「探偵」にあたる英語のかしら文字をとって、そのBとDとを、もようみたいに組みあわせ、記章の図案にしたことから、名づけられたのです。
このB・Dバッジには、団員のしるしというほかに、いろいろなつかいみちがありました。
まず第一に、それは重い鉛でできているので、ふだん、それをたくさんポケットに入れておけば、いざというときの、石つぶてのかわりになる。
第二には、敵のすみかに、とじこめられたようなとき、バッジのうらのやわらかい鉛の面に、ナイフで字を書いて、窓や塀のそとへなげて、通信をすることができる。
第三には、バッジのうちの針に、糸をむすびつけて、水の深さをはかることができる。
第四には、てごめになって、どこかへ、つれさられるようなばあいに、このバッジを、道におとしておけば、方向を知らせる目じるしになる。
そのほか、まだ、いろいろなつかいみちがあるのです。
団員たちは、このバッジを、学生服の胸のうちがわにつけて、何かのおりには、そこをひらいて見せて、団員であることを、知らせあうのですが、そのほかに、団員たちのポケットには、二十個から三十個ぐらいのバッジが、いつでも、よういしてあるのでした。
大友君は、透明怪人の自動車の屋根に、身をふせているあいだに、町かどをまがるたびに、ポケットから、B・Dバッジを一つずつ、とりだして、道におとしておいたのです。
いま二人の少年が、みつけたのは、それの一つにちがいありません。
ふたりはそれから、目をさらのようにして、地面ばかり、にらみつけて、すすみました。
町かどへくるたびに、ふたりが手わけをして、べつべつの方向にはしりだし、バッジをみつけると、口笛をふいて、もうひとりを呼びよせ、いっしょになって、その道をすすんでいくのです。
そして、バッジからバッジへとたどっていくうちに、とうとう、あの焼けあとの原っぱに出ました。
「へんだね。
こんな広い原っぱへ来てしまったぜ。
」
「きっと、この原っぱに、何か、ひみつがあるんだな。
ごらん、あすこにもバッジがおちている。
大友君のいるところは、もう遠くはないようだね。
」
そして、そのバッジの落ちている場所まですすむと、また、むこうの草の中に、銀色に光るものが、見えました。
「おお、あすこにもある。
」「ここにもおちていた。
」と、むちゅうになって、バッジをひろいながら、あるいているうちに、少年たちは、ついに、あの防空ごうの入り口にたっしたのです。
草におおわれた、防空ごうの入り口を発見したとき、ふたりの少年は、なんだかゾーッとして、思わず顔を見あわせました。
「ホラ、ここに、こんなにバッジがおちている、大友君はこの穴の中へ、つれこまれたのに、ちがいないよ。
」
ひとりが、五つ六つ、かたまって、おちているバッジを指さしながら、ささやき声で、言いました。
穴の中のくらやみには、何者がいるかわかりません。
うっかり大きな声は、だせないのです。「よし、ここにきまった。
ぼくはそのへんにかくれて見はっているから、きみは近くの電話をかりて、小林団長に知らせてくれたまえ。
ぼくたちだけで、この穴の中へはいっては、しっぱいするかもしれない。
やっぱり、団長から中村捜査係長に知らせてもらうほうがいい。」
この少年は、大友君よりも、用心ぶかかったのです。
かれは近くのくさむらに、身をすくめて、洞窟の入り口を見はりました。
もうひとりの少年は、電話をかりるために、町のほうへ、矢のように、はしりだしました。
暗中の妖魔
それから一時間あまりのち、午後五時ごろのことです。
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