初級翻訳・遠野物語 第23話

柳田 国男

一 このお酒を一つありがたく引き受けて飲むならば、命が長くなって、めでたいおめでたが何度もやって来るよ。
一 お酒のさかなには、タイもスズキもちゃんとご用意してあるけれど、鳥の肉のように心に染みて恋しい、カラッとしたウメ(おめでたい食べ物)もいいね。
一 おしゃべりはこれくらいにしておしまいだ。ちゃんと一礼をして、さあここから旅立とう、京の都へ向かう仲間たちよ!

柱懸り(柱や建物にかかわる歌)

一 仲の良い仲間を中へ入れておくれよ、仲を入れておくれ。仲の良い間柄がなかったら、このお庭はなんだか寂しくてつまらない※
一 鹿の子(かのこ:鹿の背中のような模様)の着物を着た子は、元気に生まれて山をめぐりなさい。私たちも一緒にこのお庭をめぐろう※

○「すかの子」とは「鹿の子(かのこ)」のことです。
遠野の獅子踊りのお面は、まるで本物のシカのような形をしています。
一 このお庭に新しい柱がどっしりと立つときは、シカの角をピカピカに磨くように、私たちも若返って元気いっぱいになるものだ※

○「ちのみがき」は、シカの角を磨くことの意味でしょう。
一 松島の松を大切に育ててみようとすると、その松にからみつくのは、ツタのまねをした偽物ばかりだ※

○「ちた」とは、植物のツタのことです。
一 松島の松にからみつくツタの葉も、不思議な縁で結ばれて、仲良くモジャモジャと絡まり合っている※
一 京の都でつくられた九貫(きゅうかん)もあるような、色鮮やかな唐絵(からえ:中国風の絵)の屏風(びょうぶ)を、三枚も四枚もつなぎ合わせてぐるりと見事にめぐらすよ※

○「びよぼ」とは屏風(びょうぶ)のことです。
「三よへ」は三重や四重のことでしょうか。この歌は、読んでいてもっとも面白い歌です。めず※ぐり

一 仲を取り持っておくれ、仲を取り持っておくれ。仲立ちをする人がいなかったら、このお庭はなんだか寂しくてつまらないね。

○「めず※ぐり」というのは、雄ジカが妻のシカを選ぶときの様子を歌ったもののようです。
一 鹿の子の模様の子供は元気に生まれて山をめぐりなさい。私たちも一緒にこのお庭をめぐろうね。
一 雌ジカを探しに行こうとすると、白山の御山に霞(かすみ)がかかっているよ。

○「して」という字は、「〆(しめ)」と書いてあるようです。
不明

一 うれしいことだなあ、風が霞を吹き払ってくれたので、今こそ雌ジカが姿を現して立ち上がるよ。

○「うるすやな」とは、「嬉しいやな」という意味です。
一 雌ジカがどんなに隠れていても、村中のススキをかき分けて探し出すよ。
一 笹の葉のなかにいる雌ジカの子供は、どんなに隠れていても引っ張り出されるものだ。
一 雌ジカや大鹿の身振り手振りを見てごらん。シカの心はまるで都の人のように上品なものだね。
一 奥深い山の大鹿は、はじめて言葉を交わして上手に踊ることができるようになったよ。
一 雌ジカを捕まえられずに恋い焦がれて、心がチクチクと痛む、愚かなシカだなあ。
一 松島の松を大切に育ててみようとすると、その松にからみつくのは、ツタのまねをした偽物ばかりだね。
一 松島の松にからみつくツタの葉も、もし深い縁がなかったなら、あんな風に仲良くモジャモジャと絡まり合ったりはしないよ。
一 沖の海の真ん中にある浜辺の鳥は、ゆらゆらと揺れながら恋焦がれて、そっと立ち上がるものだよ。

なげくさ

一 「なげくさ」の歌に合わせて、いったいどのようなお方がお出ましになったのだろう。お出ましになったお方は、本当に心がありがたいね。
一 このめでたい時代を、いったいどのような大工さんが設計して建てたのだろう。四方を宝物のように立派に遊ばせているよ。
一 このお酒をいったいどのようなお酒だと思っているのかい。言い伝えに聞いたことがある、ありがたい菊のお酒だよ。
一 この銭をいったいどのような銭だと思っているのかい。伊勢参りの宿場町で使った銭や、熊野詣での使い残しのような、たくさんのお金だよ。
一 この紙をいったいどのような紙だと思っているのかい。播磨(はりま)の檀紙(だんし)だろうか、それとも鹿島紙(かしまがみ)だろうか。折り目が美しく育つように大切に扱われているよ。

○「はりまだん」は、播磨の檀紙のことでしょうか。
一 扇(おうぎ)のお所はいったいどこだろう。扇の御所の三内の宮、そこで心穏やかに暮らしているのは大切なことだね。折り目が美しく重なり合っているよ。

○「いぢくなり」はいったいどこのことでしょうか。
「三内」という字ははっきり分かりません。
ここでは仮にそのように読み下しています。

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