初級翻訳・鉄人Q 第17話

江戸川 乱歩

そして、また、とびらは、ぴったりしまってしまいました。
とびらを乗りこしたのは、ポケット小僧です。
しのびこんだ少年は小林君です。
そのあとの三人のおとなは、中村警部の部下の刑事たちです。
中村警部は十人の部下を、引きつれてきたのですが、残る七人は、へいのまわりに身をかくして、いつでも、中へとびこめる用意をしていました。
小林君とポケット小僧は、そっと、西洋館の裏にまわって、しのびこむ場所をさがしていましたが、うらの勝手口に、しまりがしてないことがわかりましたので、じゅうぶん、中のようすをうかがしてから、思いきって、そこから西洋館にはいっていきました。
廊下には電灯もついていないので、あたりはまっくらです。
ふたりの少年は、これさいわいと、だんだん奥の方へ、しのびこんでいきました。
B・Dバッジを包んだ手紙を、拾ってくれた少年の話で、中井、北見の二少年が、かんきんされている部屋の見当はついていますので、手さぐりで、その方へ、しのんでいくのです。
とうとう、それらしい部屋が見つかりました。
ドアのかぎあなから、のぞいてみますと、中にはうすぐらい電灯がついていて、少年がいることがわかりました。
よく見ると団員の中井少年です。
もう、この部屋にちがいありません。
小林君は、ポケットから魔法のかぎをとりだして、音のしないように気をつけながら、つぎつぎと、かぎあなにあててためしてみました。
すると、三番目のかぎが、ぴったりはまったので、ぐっとまわしますと、ドアはなんなく開きました。ひとりと四人

 小林君とポケット小僧がはいってきたのを見て、中井、北見の二人の少年はびっくりしましたが、おたがいの顔を知っていたので、すぐに助けにきてくれたのだと安心しました。
 小林君は、ふたりの少年を、今はいってきたばかりの裏口から逃がすつもりでした。その裏口の外では、三人の刑事が待ちかまえていて、二人の少年を守ってくれるはずです。
 小林君がそのことを話すと、中井少年はうれしそうに答えようとしましたが、ハッとしたように口を閉じました。そして、口の前に人差し指を立ててみんなを静かにさせ、心配そうに耳をすませたのです。
 廊下の遠くの方から、パタン、パタンという足音が聞こえてきました。
「鉄人Qの部下のやつが、ごはんを運んでくるんだ。ちょうど今ごろの時間に、晩ごはんを持ってくるのさ」
 中井君がささやき声で言いました。
 さあ、大変です。せっかく苦労してここまでたどり着いたのに、そいつが来たら何もかもダメになってしまいます。
「ぼくたち、どこかへ隠れようか?」
 ポケット小僧がささやきました。
「ダメだよ、この部屋には隠れるところなんてないんだから」
 中井君が答えました。
「よし、そいつをやっつけちゃおう! こっちは四人だ。相手はどんなに力が強くたって、たったひとりじゃないか。それに、いい考えがあるぞ」
 小林君はそう言いながら、シャツの下に巻きつけていた絹糸(きぬいと)の縄ばしごを大急ぎで引っ張り出すと、ポケットからナイフを出してそれを三つに切りました。
 それから、そこにあった二つのいすをドアのすぐ内側の両方の壁ぎわに置き、一本の絹糸を二つのいすの足から足へとわたし、きつく縛りつけました。つまり、床から十センチくらいの高さに、絹糸がピンと張りわたされたわけです。
 それをとても手早くやったので、ギリギリで間に合いました。部下のやつは、もうドアの外まで来ていたのです。
 小林君は、残った二本の絹糸のうち一本を自分が持ち、もう一本を中井君に渡し、さらにみんなの持っているハンカチを出させてポケット小僧に渡しました。
 みんな賢い少年たちですから、何も言わなくてもその意味がちゃんと分かりました。そして小林君とポケット小僧は、すばやくベッドの下にもぐりこみました。
 部下の男は、もう鍵が開いているとも知らずに鍵穴に鍵を差し込んでガチャガチャと回していましたが、「おや、変だな。おれはさっき、鍵をかけるのを忘れちまったのかな?」と、ふしぎそうにつぶやきながらドアを開けて、ヌッと部屋に入ってきました。
 手には大きなおぼんに晩ごはんをのせて持っています。
 ガチャン! とものすごい音がしました。
 部下の男は、あの絹糸に足を引っかけて派手に転んだのです。おぼんはポーンと投げだされ、ごはんや汁物があたりにとびちりました。
「それっ!」
 小林君の合図とともに、四人の少年は一斉に倒れている部下に飛びかかりました。
 部下の男は転んだときにどこかを打ったらしく、起きあがる力もなく、たちまち両手と両足を縛り上げられてしまいました。
 助けを呼ぼうにも、ポケット小僧がさっきの四つのハンカチを丸めて口の中にグイッと押しこんだので、声を出すことがまったくできません。
「よし、このすきにきみたちふたりを、裏口にいるおまわりさんのところに連れていこう。さあ、ついてきて! はやく、はやく!」
 小林君は中井、北見の二人の少年をせきたてながら部屋を出て、廊下を裏口へと急ぎました。ポケット小僧もそのあとからついていきます。
 裏口の外に出ると、そこにはさっきの三人の警官が待ちかまえていました。
「さあ、こちらが中井君と北見君です。外へ連れ出してやってください。ぼくたちふたりは中へもどって、鉄人Qをさがします。見つけたら知らせますから、それまで油断しないで、この建物のまわりを見張るようにみなさんに伝えてください」
 小林君とポケット小僧は二人の少年を警察官たちに預けると、そのままお化け屋敷の中へと引きかえしました。
 さっきの部屋に入ってみると、部下の男は縛られたまま床に倒れていました。鉄人Qはまだこのことに気づいていないようです。
「おい、ポケット君、お化けに変装しよう! ほら、この一つ目小僧の仮面をかぶるんだ。そうすれば顔が隠れるから、もし誰かに見つかっても、ぼくたちを中井君や北見君だと勘違いするかもしれないぞ。ねえ、そうしよう!」
 そこでふたりは、テーブルの上においてあった青い服を着ました。そして、あの不気味な一つ目小僧の仮面を頭からスッポリとかぶったのです。
 中くらいのと、小さいのと、ふたりのお化けがこうしてできあがりました。「さあ、この中をしらべよう。
そして、もし鉄人Qを見つけたら、すぐおまわりさんに知らせるんだ。」
 ふたりは部屋の外へ出て、ドアをピッタリしめ、万能かぎを使って、外からドアに鍵をかけました。
そして、うす暗い廊下を、奥の方へと歩きだしたのですが、まもなく、廊下は行きどまりになってしまいました。
「変だなあ。
この廊下には、ひとつもドアがないよ。
しかたがない、引きかえそう。」
 ふたりは、もと来たほうへもどろうとしましたが、ひょいとふりかえってみると、いままで裏口の方へつづいていた廊下がすっかり壁になってしまい、どこにも出口がないことが分かりました。
「おやっ、どうしたんだろう。
向こうに壁ができちゃったぞ。」
「ウフフフ……、小林さん、だからここはおばけやしきなんだよ。
おれたちはおばけの魔法にかかっちゃったのさ。」
 大胆なポケット小僧は、平気で笑っています。

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