初級翻訳・鉄人Q 第16話

江戸川 乱歩

これは少年探偵団の七つ道具の一つですが、ついでに、七つ道具とはなにかということを、書いておきましょう。
1、B・Dバッジ
2、万年筆がたの懐中電灯
3、磁石(方角を知るためです。)
4、よびこの笛
5、柄のついた拡大鏡(虫めがねです。指紋など、小さいものを見るときに使います。)
6、小型望遠鏡(双眼鏡でもいいのですが、片方の目だけで見る、ポケットにはいるような、小さい望遠鏡で、とても便利にできています。)
7、手帳と鉛筆

このほかに、絹糸をたくさんよりあわせて作った、なわばしごがあります。
三十センチごとに、大きなむすび玉がこしらえてあって、それに足をかけて、のぼったり、おりたりするのです。
しかし、これは小林団長だけが持っていて、ふつうの団員は持たないことになっています。
いりようのときは、小林団長がかしてくれるのです。
このなわばしごは、どこにも売っていませんし、小学生の団員にはあぶないので、持たせないのです。
北見少年は、少年探偵団にこれからはいるのですから、なにも知りませんので、中井少年が七つ道具のことを、教えてやりました。
すると、北見少年がふしぎそうにたずねるのです。
「B・Dバッジが、どうして七つ道具なの? これ何に使うの?」

中井少年は、てのひらにのせた二十個ほどのB・Dバッジをジャラジャラいわせながら、それに答えました。
「いろんな使いみちがあるんだよ。ぼくたちが、悪者に、どっかへ連れられていくことがあるとするね。そのときは、向こうのうちに近づいた時、歩きながら、このバッジを一つずつ、そっと道へ落としていくんだよ。そうすれば、これを少年探偵団員が見れば、ぼくたちが、あぶないめにあっていることがわかるし、バッジのあとをつけてくれば、連れこまれた場所が、わかるというわけだよ。それから、悪者が、追っかけてきたら、このバッジを投げつけて、たたかうこともできるし、どこかへとじこめられたとき、手帳の紙をちぎって、手紙を書き、このバッジを包みこんで、おもしにして、へいの外へ投げて、助けをもとめることもできる。ぼくはいま、それをやろうとしているんだよ。」
「ああ、そうか、それで、手帳の紙に、あんな手紙を書いたんだね。」
北見君は、やっと、そのわけがわかりました。
「この紙だけを、高いへいの外へ、投げるのはむずかしいだろう。だから、おもしに、B・Dバッジを包みこむんだよ。へいの外は道路にちがいないから、だれかが拾うよ。それがおとなだったら、B・Dバッジで、ぼくたちが少年探偵団員だとわかるし、子どもだったら、B・Dバッジがもらえるというので、きっと電車に乗って、とどけてくれるよ。」

そう説明してから、中井君は、開いた窓に近づくと、手帳の紙でB・Dバッジをかたく包み、いきおいこめて、鉄ごうしのあいだから、へいの外へ投げました。
いまは夜ですから、だれも気がつかないかもしれませんが、あすになったら、きっとだれかが、拾ってくれるにちがいないのです。
それをたのしみに、ふたりは一つのベッドにならんで横になり、しばらく小声で話していましたが、いつかぐっすりとねいってしまいました。

魔法のかぎ

そのあくる日の午後のことです。
麹町の明智探偵事務所では、明智探偵が事件のために、福島県へ出かけているので、少女助手のマユミさんと、小林少年とが、おるす番をしていましたが、そこへ、チンピラ隊のポケット小僧が、遊びにきました。
ポケット小僧は、いろいろなてがらをたてて、小林団長のお気にいりになっていましたし、ポケット小僧の方でも、小林団長をにいさんのように、なつかしがって、しょっちゅう、遊びにくるのでした。
三人が、応接間で話をしていますと、入口のドアに、ノックの音が聞こえました。
小林少年が立っていって、ドアをあけますと、そこに小学校五―六年ぐらいのひとりの少年が、立っていました。
「渋谷でこれを拾いました。明智探偵事務所へ、とどけてくれと書いてあったので、持ってきたのです。」「少年は、そういって、あの中井少年の書いた手帳の紙をさしだしました。
ああ、やっぱり、拾ってくれた少年があったのです。
「そうですか。
ありがとう。
明智先生はるすだけれど、ぼく、助手の小林です。
ぼくかわりに読みますよ。
」
 小林君が、そういって紙を受けとりますと、少年は目をかがやかせて、小林君の顔を見つめました。
「小林団長ですね。
ぼく、一度、会いたいと思っていました。
そして、ぼく、少年探偵団にはいりたいのです。
入れてください。
」
「それは、きみがどんな子どもだか、よくしらべてからでなきゃ、だめだよ。
でも、中にはいって待っててください。
いま、これを読むからね。
」
 小林君はそういって手帳の紙を読みました。
すると、中井、北見の二少年が、渋谷区のあやしい家に、とじこめられていることがわかりましたので、すぐにそれをマユミさんやポケット小僧にみせて、相談したうえ、警視庁の中村警部に電話をかけました。
「中村さんですか。
ぼく明智探偵事務所の小林です。
鉄人Qのすみかがわかりました。
ふたりの少年が、そこにとじこめられているのです。
ぼく、これから、その家をしらべにいきたいと思いますが、さきにそちらにゆきましょうか。
」
「それがいい。
じゃあまっているよ。
」
 ポケット小僧が、小林君の腕をつかんで、おねだりしました。
「小林さん、ぼくも連れてっておくれよ。
いいだろう。
ね、ね。
」
「よしっ、いっしょにきたまえ。
それから、きみは、ぼくたちを案内してください。
」
と、手帳の紙を持ってきた少年に、呼びかけました。
それから一時間ほどすると、小林君と、ポケット小僧と、案内役の少年は、警視庁の一室で、中村警部と、打ち合わせをしていました。
西洋館にしのびこむ方法を、いろいろと、相談したあとで、中村警部は、
「やっぱり、暗くなってからの方が、つごうがいいだろう。
きみたちには弁当をとってあげるから、日がくれるまで、ここに待っていたまえ。
」
といって、三人の少年を待たせることにしました。
それから、机のひきだしから、たくさんのかぎが、かねの輪にはまった、かぎたばを出して、小林君にわたしながら、
「これは、万能かぎといってね、どんなかぎあなにだって、このうちのどれかが、はまるようになっているんだ。
小林君は、これでドアを開いて、ふたりの少年を、たすけだすんだよ。
」
と、いいました。
なれた人には、一本のはりがねがあれば、どんな錠でも、あけられるのですが、それよりも、この万能かぎの方が、もっと、使いやすいのです。
「へえ、魔法のかぎですねえ。
」
と、いいながら、小林君は、それをポケットにしまいました。
こちらは、鉄人Qのすみかの、おばけ西洋館です。
もう日がくれて、あたりは、まっくらになっていました。
西洋館の鉄の門は、ぴったりしまっていましたが、小さな子どもが、猿のように、その鉄のとびらをはいのぼって、内がわにおり、かんぬきをはずして、そっと門を開きました。
すると、そのとびらのすきまから、まっさきに、ひとりの少年がしのびこみ、しばらく、あいだをおいて、つぎつぎと背広姿のおとなが三人、門の中へ消えていきました。

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