初級翻訳・少年探偵団 第11話

少年探偵団

そして、まるで黒いヘビがはうようにして、七人が洋館の門の中へはいり、地面をしらべてみますと、門から洋館のポーチまでの間に、五つのバッジが落ちているのが見つかりました。
「おい、やっぱりここらしいぜ。」
「ウン、小林団長と緑ちゃんとは、この家のどっかにとじこめられているにちがいない。」
「早く助けださなけりゃ。」
少年たちは伏せた姿勢のまま、口々にささやきかわしました。
七人のうちでいちばん身軽な羽柴少年は、そっとポーチにはいあがって、ドアのすきまからのぞいてみましたが、中はまっくらで人のけはいもありません。
「裏のほうへまわって、窓からのぞいてみよう。」
羽柴君はみんなにそうささやいてから、建物の裏手のほうへはいっていきました。
一同もそのあとにつづきます。
裏手へまわってみますと、案のじょう、二階の一室に電燈がついていて、窓が明るく光っています。
しかし、二階の高さではそのままのぞくことができません。
「なわばしごをかけようか。」
ひとりの少年がポケットをさぐりながらささやきました。
少年探偵団の七つ道具の中には、絹ひもで作った手軽ななわばしごが入っているのです。
まるめてしまえばひとにぎりほどに小さくなってしまうものです。
「いや、なわばしごを投げて音がするといけない。
それよりも肩車にしよう。
さあ、ぼくの上へじゅんに乗りたまえ。
羽柴君は軽いからいちばん上だよ。」
桂正一少年はそう言うと、洋館の壁に両手をついて、ぐっと足をふんばりました。
よくふとった相撲選手の桂君は、肩車の踏み台にはもってこいです。
つぎに、中くらいの体格の少年が桂君の背中によじのぼって、その肩の上に足をかけ、壁に手をついて身がまえますと、こんどは身軽な羽柴君がサルのようにふたりの肩をのぼり、二番めの少年の肩へ両足をかけました。
タイミングを見計らって、今まで背をかがめていた桂君と二番めの少年とが、ぐっとからだをのばしました。
すると、いちばん上の羽柴君の顔が、ちょうど二階の窓の下のすみにとどくのです。
まるで軽業のような芸当ですが、探偵団員たちは日ごろからいざというときの用意に、こういうことまで練習しておいたのです。
羽柴君は窓わくに手をかけて、そっと部屋の中をのぞきました。
窓にはカーテンがさがっていましたけれど、大きなすきまができていて、部屋のようすは手にとるようにながめられました。
そこにはいったい何があったのでしょう。
かねて予期していなかったわけではありませんが、部屋の中のふしぎな光景に羽柴君はあやうく、アッと声をたてるところでした。
部屋のまんなかに、ふたりのおそろしい顔をしたインド人がすわっていました。
墨のように黒い皮膚の色、ぶきみに白く光る目、厚ぼったいまっかなくちびる、服装も写真で見るインド人そのままで、頭にはターバンというのでしょうか、白い布をグルグルと帽子のように巻いて、着物といえば大きなふろしきみたいな白い布を肩からさげているのです。
インド人の前の壁には、なんだか魔物みたいなおそろしい仏像の絵がかかっていて、その前の台の上には大きな香炉が紫色の煙をはいています。
ふたりのインド人はすわったまま、壁の仏像に向かってしきりと礼拝しているのです。
ひょっとしたら、小林少年と緑ちゃんとを魔法の力で祈り殺そうとしているのかもしれません。
見ているうちに、背中がぞーっと寒くなってきました。
これが東京のできごとなのかしら、もしやおそろしい魔法の国へでもまよいこんだんじゃないかしら。
羽柴君はあまりのきみ悪さに、もうのぞいている気がしませんでした。
急いであいずをおくると、下のふたりにしゃがんでもらって、地面におり立ちました。そして、闇の中で顔をよせてくる六人の少年たちに、ささやき声で、室内の様子を報告しました。
「いよいよそうだ。あんなにバッジが落ちていたうえに、ふたりのインド人がいるとすれば、ここが、やつらのアジトにきまっている。」
「じゃあ、ぼくたちで、この家へ踏み込んで、インド人のやつらを捕まえようじゃないか。」
「いや、それよりも、小林団長と緑ちゃんを助け出さなくっちゃ。」
「待ったまえ、あわててはいけない。」
口々にささやく少年たちをなだめて、桂正一君が、おごそかに言いました。
「いくら大ぜいでも、ぼくたちだけの力で、あの魔法使いみたいなインド人を、捕まえることはできないよ。もし、しくじったら大変だからね。だからね、みんなぼくの指示にしたがって、持ち場についてくれたまえ。」
桂君はそう言って、だれは表門、だれは裏門、だれとだれは庭のどこというように、建物をとりまいて、少年たちで見張りを勤めるように指示しました。
「もし、インド人がこっそり逃げ出すのを見たら、すぐ、呼び笛を吹くんだよ。いいかい。それからね、篠崎君、きみは走るのがとくいだから、伝令の役をつとめてくれないか。この近くの電話のあるところまで走っていってね、きみの家へ電話をかけるんだ。犯人のアジトを発見しましたから、すぐ来てくださいってね。そのあいだ、ぼくらはここで見張りをしていて、けっしてやつらを逃がしやしないから。」
団長がわりの桂君は、てきぱきと、ぬけめなく指令をあたえました。
篠崎君が、「よしッ。」と答えて、やっぱり地面をはうようにしながら、立ち去るのを待って、残る六人は、それぞれの持ち場にわかれ、四方から洋館を監視することになりました。
しかし、そんなことをしているあいだに、小林君がおぼれてしまうようなことはないでしょうか。
水が地下室の天井までいっぱいになってしまうようなことはないでしょうか。
ひょっとすると、間に合わないかもしれません。
ああ、早く、早く。
お巡りさんたち、早くかけつけてください。
それから篠崎君のしらせによって、ちょうど篠崎家に居合わせた、警視庁の中村捜査係長が、数名の部下をひきつれ、自動車をとばして、洋館にかけつけるまでに、およそ二十分の時間がすぎました。
ああ、その待ちどおしかったこと。
でも、少年捜索隊がさいしょバッジをひろってから、もうたっぷり一時間はたっています。
つまり小林君が緑ちゃんをおぶって泳ぎだしてから、それだけの時がすぎ去ったのです。
ああ、ふたりは、まだ無事でいるでしょうか。
せっかくお巡りさんたちがかけつけたときには、もう遅かったのではないのでしょうか。
警官たちが到着したのを知ると、桂少年は、闇の中からかけだしていって、中村係長に、「犯人はまだ建物の中にいるにちがいない。だれも逃げ出したものはなかった。」ということを報告しました。
中村係長は、桂君たちの手柄をほめておいて、部下のふたりを建物の裏にまわし、自分は、ふたりの制服警官をしたがえて、ポーチにあがると、いきなり呼び鈴のボタンをおすのでした。
二度、三度、ボタンをおしていると、内部にパッと電灯がともり、人の足音がして、ドアのハンドルが動きました。
ああ、さすがのインド人も、とうとう運のつきです。
訪問者がおそろしい警官とも知らず、のこのこ出迎えにやってくるとは。

コメント

タイトルとURLをコピーしました