初級翻訳・少年探偵団 第10話

少年探偵団

ぼくがひろったから、ぼくんだよ。
」
 と、白い目でふたりをにらみました。
子どもが、あすこでひろったと指さしたのは、広っぱのほうです。
「じゃ、小林さんが、わざと落としていったのかもしれないぜ。
」
「ウン、そうらしいね。
重大な手がかりだ。
」
 ふたりは、勇みたってさけびました。
小林少年が考案したBDバッジには、ただ、団員の記章というほかに、いろいろな用途があるのでした。
まず第一は、重い鉛でできているので、ふだんから、それをたくさんポケットの中へ入れておけば、いざというときの石つぶてのかわりになる。
第二には、敵にとらえられたばあいなどに、記章の裏のやわらかい鉛の面へ、ナイフで文字を書いて、窓や塀の外へ投げて、通信することができる。
第三には、裏面の針にひもをむすんで、水の深さを計ったり、物の距離を測定することができる。
第四には、敵に誘かいされたばあいに、道にこれをいくつも落としておけば、方角を知らせる目じるしになる。
というように、小林君がならべたてたBDバッジの効能は、十ヵ条ほどもあったのです。
団員たちは、ちょうどアメリカの刑事のように、このバッジを洋服の胸の内がわにつけて、何かのときには、そこをひらいてみせて、ぼくはこういうものだなどと、探偵きどりでじまんしていたのですが、その胸の記章のほかに、めいめいのポケットには、同じ記章が二十個から三十個ぐらいずつ、ちゃんと用意してあったのです。桂君と篠崎君は、男の子がそのBDバッジを広っぱの道で拾ったと聞くやいなや、先ほどお話しした第四の用途を思い出し、小林少年が捜索隊への道しるべとして落としていったものだと確信しました。
読者諸君なら、もうとっくにお分かりでしょう。
小林君が自動車の中でインド人に縛られそうになったとき、そっとポケットから取り出して、バンパーの根本の上に置いた、百円銀貨のようなもの――あれこそ、このBDバッジにほかならなかったのです。
そして、その小林君の狙いは、今、見事に達成されたのでした。
篠崎、桂の二人は、あらかじめ用意していた万年筆型の懐中電灯を取り出すと、男の子に教えられた場所へと駆け出し、暗い地面を照らしながら、ほかにもバッジが落ちていないかと熱心に探し始めました。
「あっ、あった、あった! ここにも一つ落ちているぞ」
懐中電灯の光に照らされて、新しい鉛の記章がキラキラと輝いています。
「犯人の自動車は、絶対にこの道を通ったに違いない。きみ、呼び笛を吹いてみんなを集めよう!」
二人はポケットの七つ道具の中から呼び笛を取り出し、力いっぱい吹き鳴らしました。
夜の空に激しい笛の音が響き渡ると、まだそんなに遠くへ行っていなかった残りの五人の少年たちが、同じように笛で返事をしながら、どこからともなくその場に集まってきました。
「おいみんな、この道にBDバッジが二つも落ちていたんだ。小林さんが落としていったものに間違いない。もっと探せば、まだ見つかるかもしれないぞ。みんなで探してくれ! そして、落ちているバッジをたどっていけば、犯人のアジトをつきとめられるんだ!」
桂君の指示に従い、五人の少年たちもそれぞれの万年筆型懐中電灯を取り出して、一斉に地面を探し始めました。
その様子は、まるで七匹のホタルが暗闇の中を飛び交っているかのようです。
「あった、あった! こんなところに泥まみれになって落ちてるぞ」
少し先の方で、一人の少年がまた一つのバッジを拾い上げて叫びました。
これで三個目です。
「上出来だ、上出来だ! もっと先へ進もう。ぼくらはこうして、だんだんあの黒い怪物のほうへ近づいているんだぞ。さすがは小林さん、うまいことを考えたものだなあ!」
こうして七匹のホタルは、暗い広っぱの中を、みるみる向こうのほうへと遠ざかっていくのでした。

一方、地下室では、水はすでに一メートルほどの深さになっていました。
緑ちゃんを抱きかかえた小林君は、立つのがやっとの状態です。
水は胸の上までヒタヒタと押し寄せています。
天井の管からの滝は、少しも勢いが衰えることなく、不気味な音を立てて降り注ぎ続けています。
緑ちゃんはこの地獄のような恐怖に、先ほどから泣き叫びすぎて、もう声も出ないほどでした。
「怖がらなくてもいいんだよ、怖がらなくてもいいんだからね。お兄ちゃんがついているから大丈夫だよ。ぼくは泳ぎが得意だから、こんな水なんてちっとも怖くないんだ。それに、もうすぐお巡りさんが助けに来てくださるからね。いい子だから、ぼくにしっかりしがみついているんだよ」
しかし、そう言っている間にも、水のかさは刻一刻と増していくばかりで、小林君自身ももう不安に耐えられなくなっていました。
それに、春とはいえ、水の中は身も凍るほどの冷たさです。
「ああ、ぼくは緑ちゃんといっしょに、この誰も知らない地下室で、おぼれ死んでしまうのだろうか……。道に探偵団のバッジを落としておいたけれど、もし団員たちがあそこを通りかからなかったら、何の意味もないじゃないか。明智先生はどうしていらっしゃるだろう。こんなときに先生が東京にいてくださったら、まるで奇跡のようにパッと現れて、ぼくらを救い出してくださるに違いないのになあ……」
そんなことを考えているうちにも、水はもうのどのあたりまで迫ってきました。
体が水の中でフラフラして、立っていることすら困難です。
小林君は緑ちゃんを自分の背中に回し、しっかりとしがみつくように言い聞かせると、ついに冷たい水の中で泳ぎ始めました。
せめて手足を動かすことで、この寒さを忘れようとしたのです。
でも、こんな状態がいつまで続くというのでしょうか。
緑ちゃんという重い荷物を背負った小林君は、やがて力尽きて溺れてしまうのではないでしょうか。
いや、それよりも、もっと水かさが増して、地下室の天井いっぱいに満ちてしまったらどうするつもりでしょう。
そうなれば、泳ごうにも泳げません。
息をする隙間すらなくなってしまうのです。

(消えるインド人)

ちょうどそのころ、篠崎始君や、相撲選手の桂正一君、羽柴壮二君などで組織された七人の少年捜索隊は、早くもインド人が逃げ去った足取りを発見していたのでした。それは小林君が、インド人に連れ去られる道すがら、自動車の上から落としていった少年探偵団のバッジが目じるしとなったのです。
七人の捜索隊員は、夜道に落ち散っている銀色のバッジをさがしながら、いつしか例のあやしげな洋館の門前までたどりついていました。
「おい、この家があやしいぜ。
ごらん、門のなかにも、バッジが落ちているじゃないか。
ほら、あすこにさ。」
目ざとくそれを見つけた羽柴少年が、桂正一君にささやきました。
「ウン、ほんとだ。
よし、しらべてみよう。
みんな伏せるんだ。」
桂君が手まねきをしながら、ささやき声で一同に指示を出すと、たちまち七人の少年の姿が消えてしまいました。
いや、消えたといっても魔法を使ったわけではありません。
号令一過、みんなが一斉に暗やみの地面の上に腹ばいになって、伏せの体勢をとったのです。
団員一同、一糸みだれぬ見事な統制ぶりです。

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