初級翻訳・妖怪博士 第18話

妖怪博士

「見せてもらおうじゃないの!」

「それではまず聞くが、君は一体、この事件の犯人を捕まえてみせるという約束をどうするつもりだい? なるほど四人の少年と機密文書は取り戻したが、肝心の犯人を逃がしてしまったじゃないか。それなのに、約束を果たしたような大きな顔をするのは、少しおかしくはないかね?」

「フフン、そう来ると思ったぞ! どうせそんなことだろうと思ったさ。明智君、それは無理難題というものだ。君にだって、犯人を捕まえるどころか、この泥棒のアジトさえ見当がつかなかったじゃないか。それに、これほどの大手柄をたてたわしを、ただ犯人を捕まえていないからといって責めるのは、筋違いというものさ。そんなにえらそうに言うからには、君自身はさぞや犯人の居場所を知っているんだろうね? それとも、もう犯人を捕まえたとでも言うつもりかい? ウフフフ……」

ところが、その殿村のあざ笑いを、明智はみごとにピシリと打ち返したのです。

「そのとおり、ぼくは犯人の居場所を知っている。いや、それだけじゃない。もうちゃんと捕まえてあるのさ!」

「エッ、なんだって!? 犯人を捕まえただと? ハハハ……こいつはおもしろい。それでは、その犯人とやらを見せてもらおうじゃないか。まさか、ここへは連れてこられないとでも言うのかね?」

「見せてほしいかい?」

「あぁ、見せられるものなら見せてほしいね!」

「犯人はここにいる。この部屋の中にいるのだ!」

明智の思いがけない言葉に、人々はハッとして顔を見合わせました。
犯人がこの部屋にいると言われても、そこには相川技師長と、中村捜査係長と、刑事たちと、新聞記者と、四人の少年のほかには、怪しい人物は見当たりません。
それとも、犯人は新聞記者の中にまじっているとでもいうのでしょうか?しかし、そんな必要もないのに、犯人が自分からわざわざ警察官や探偵がたくさんいるところへやって来るはずもありません。

「おいおい、明智くん、きみは頭がおかしくなったんじゃないのかい? それとも夢でも見ているのかい? その犯人っていうのは、この部屋の中の、いったいどこにかくれているっていうんだよ!」

殿村はなぜか少し顔を青ざめさせ、自分のくちびるをペロリとなめながら、怒り狂ったような声で明智につめよりました。

しかし明智探偵は、相変わらずニコニコと笑っていました。そして、サッと右手を上げると、ぴんと伸ばした人さし指を、殿村探偵の鼻の先につきつけたのです。

「殿村くん、それとも、蛭田(ひるた)博士と呼んだほうがお気に召すかい? ……きみだ。きみが犯人だ!」

その瞬間、殿村はまるで心臓を銃弾で撃ち抜かれたかのように、グラリとよろめきました。
その顔は、一瞬のうちにサーッと青ざめたかと思うと、次の瞬間には、激しい怒りのあまり紫色へと変わっていったのです。

そして、まるで追いつめられた野生の獣のように、黄色い歯をむき出しにして、明智探偵にものすごい勢いでつかみかかりました。

「ば、ばかな! なにをふざけたことを言うんだ! とんでもない言いがかりだぞ。わしは殿村弘三(とんむらこうぞう)という、れっきとした私立探偵だ! 明智、きさまこそ頭がおかしくなったんだな。中村さん、こいつはぼくとの勝負に負けて、頭がどうかしてしまったんです。すぐに引きずりだしてください! 部屋の外へほうり出してください!」

「殿村くん、いや、蛭田博士。そんな見苦しい悪あがきはやめたまえ。ぼくには何もかもお見通しなのだよ。きみが犯人でないのなら、どうしてあんなに顔色を真っ青に変えたんだい? きみがあまりの驚きに倒れそうになったことは、ここにいるみんながしっかり見ていたんだ。もう観念したまえよ。こんな大事な場面になって、いつまでもジタバタするなんて、きみらしくもないじゃないか」

明智は、いつもと少しも変わらない落ち着いた声で、静かに言い聞かせました。

しかし殿村は、少しもひるむ様子を見せません。

「でたらめだ! 気違いの空想に決まっている! そんなことを言うなら、証拠(しょうこ)でもあるのか?いったい何を証拠にして、そんなとんでもない言いがかりをつけるんだ!」

「証拠がほしいのかい?」

「あるもんか! このわしが犯人だなんて、そんなでたらめな証拠があってたまるものか!」

「証拠か……証拠はこれだ!」

明智がそう叫んだかと思うと、その体がサッと空中に飛び上がり、ものすごい勢いで殿村の体にぶつかっていきました。

殿村は不意を突かれて、明智に組み敷(し)かれてしまいましたが、死にものぐるいでもがきまわって、相手を必死にはねのけようと暴れ出しました。
ふたりの体は、お互いに組みつきながら、床の上を激しくゴロゴロと転げ回ります。

その場にいた人たちは、あまりのことに息をのんだまま、この恐ろしい格闘を見つめるばかりでした。ふたりの気迫がすさまじすぎて、誰もすぐに手出しをすることができなかったのです。

しかし、勝負は一分もしないうちに決まりました。
勝ったのは明智です。あっという間の出来事でした。

激しい取っ組み合いの最中に、明智は殿村の「仮面」をすっかり剥ぎ取ってしまったのです。

まず明智がすっくと起き上がり、うつぶせになったまま顔も上げようとしない殿村の腕をつかんで、無理やり立たせました。

すると――みなさん、これは一体どうしたことでしょう!

殿村の顔の形が、まるで別人のようにすっかり変わってしまっていたではありませんか。
頭の髪の毛こそ、相変わらずボサボサに乱れてはいましたが、あの毛虫のように太かった眉毛(まゆげ)は、すっきりと整った美しい細眉に変わっていました。そして、あのいやらしい出っ歯もどこへやら消えうせ、赤い唇の間からは、真っ白で美しい歯並びがのぞいています。

ほおやあごに生い茂っていた長くて汚い無精ひげも、あとかたもなく消え去り、ツルッとなめらかな肌に変わっているではありませんか。

そして何よりも一番驚いたのは、例の「背中のこぶ」がすっかり取れてしまい、見違えるほどすっきりとした後ろ姿に変わっていたことです。

よく見れば、先ほどの激しい格闘のあいだに、明智によって上着もベストも脱がされ、ワイシャツもズタズタに引き裂かれていたのです。そのシャツの内側に隠してあった「せむしのこぶ」の正体が、このときすっきりと抜き取られていたのでした。

そして、しかたなく立たされたその姿は、さっきまでの醜いせむし男とは似ても似つかない、すらりとした大変な美男子でした。年はいまだ三十前後といったところです。

「みなさん、これが殿村探偵の正体です。こんな見事な変装を、どうして今まで見破れなかったのかと、不思議に思うかもしれませんが、それはみなさんの目が節穴だからではありません。こいつが、犯罪史上にも例がないほど、恐ろしい『変装の天才』だからなのです」

明智がそう説明しても、集まった人々はまだ信じられないといった様子で、半信半疑のままでした。
あんな化け物のような不具の男が、こんな美しい青年だなんて、まるで夢を見ているようで、すぐには信じられなかったのです。

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