いくらなんでも、あれほどたいせつな書類が、紙くずどうぜんに、くずかごの中へほうりこんであろうなどと、だれが考えるじゃろう。
しかも、クシャクシャにまるめてほうりこんであるのじゃ。
さがすほうでは、かぎのかかったひきだしとか、秘密の戸だなとか、そういうむずかしい場所にばかり気をつける。
くずかごなんか、てんでふりむきもしませんのじゃ。
ところが、かしこい泥棒は、そのだれもふりむかんようなところへ、もっともたいせつなものをかくしておく。
これは紙くずですよ、つまらないものですよといわぬばかりに、いつでも人の目につく場所へ、ほうりだしておく。
これが手じゃ。
手品師の種じゃ。
おわかりかな。
せむし探偵は、ここでまた、いちだんと男をあげました。
専門家の中村捜査係長でさえも、このむぞうさな書類の発見には、ため息をついて感心したほどですから、新聞記者たちが目をまるくしたのも、むりではありません。
殿村探偵はとくい満面でした。
まがった背中をむりにのばして、ごうぜんとそっくりかえり、右手には例のまがりくねったステッキをつき、左手のおや指を、チョッキのわきの下にかけて、残った四本の指で自分の胸をハタハタと、拍子をとるようにたたきながら、演説でもするようにしゃべりはじめました。
「さて、新聞記者諸君、四人の少年と機密文書とが、どんなに思いもよらぬ場所にかくしてあったか、また、それをわしが、どんなに手ぎわよく発見したか、それは諸君が今ごらんになったとおりじゃ。
それだけでも、あすの朝刊に、三段や五段の記事にはことかかぬじゃろう。
だが、それにつけくわえて、わしはもう一つ重大なことを報告したいのじゃ。
というのは、ほかでもない。
この事件には、名探偵といわれる明智小五郎が、わしよりも早くから手をつけていたことじゃよ。
よいかな。
諸君がいつも、日本一の名探偵と書きたてている、あの明智だよ。
つまり、こんどの事件では、わしと明智とが一騎うちの勝負をあらそったわけだが、その結果はごらんのとおりじゃ。
名もない一私立探偵の殿村弘三が、みごとに明智の鼻をあかしたのじゃ。
諸君、このことを一つ、はっきりと世間に伝えてもらいたい。
こんにちただ今から、明智はもう日本一の名探偵ではない、殿村という新しい探偵があらわれたのじゃ。
そして明智先生のじまんの鼻をへし折ったのじゃ。
フフン、名探偵が聞いてあきれるわ。
あの先生、今ごろどこをうろつきまわっていることか、あす、この事件が新聞にでるのを見て、やっこさん、さだめしきもをつぶすことであろう。
ハハハ……、わしはとうとう、あいつをやっつけたぞ。
こきみよくやっつけたぞ。
諸君、このことをひとつデカデカと書きたててくれたまえ。
よいかな、名探偵明智小五郎みごとにしょい投げを食うとな。
ワハハハ……。
ああ、明智先生の顔が見たいものじゃ。
あの先生、このわしに向かって、かならず三日のあいだに事件を解決してみせると、えらそうに広言しよったが、その三日が二時間あまりで切れるという今ごろになっても、この賊のかくれがさえ、さがしだすことができないのじゃ。
ワハハハ……おい、おい、明智先生、きみはいったい、どこを、うろうろしてござるのじゃ。」
殿村がとくい満面、黄色い歯をむきだし、つばをとばしながら、そこまでしゃべったときでした。
とつじょとして、部屋の中にみょうな笑い声がおこりました。
「ワハハハ……。」
殿村の笑い声にもおとらぬ高笑いです。
それが、さもおかしくてたまらないというようにいつまでもつづいているのです。
せむし探偵はびっくりしたように話をやめて、声のするほうをにらみつけました。
「だれじゃ。
そこで笑っているのはだれじゃ。
わしが真剣に話をしているのに、笑うとはけしからん。
やめんか。
こら、やめんかというに。」
するとそれに答えるように、新聞記者の一団のあいだから、ひとりの男が前に進みでてきました。
服装を見れば、やっぱり新聞記者のひとりらしいのですが、その男はまだ笑いのとまらぬにこにこ顔で、殿村探偵の目の前に立ちはだかりました。
「殿村君、明智はここにいるよ。
きみはいま明智はどこにいる、明智の顔が見たいとどなっていたが、それほど見たければ、ひとつこの顔をよく見てくれたまえ。」
それを聞きますと、殿村はギョッとしたように、顔色をかえて、二、三歩あとじさりしました。見れば、新聞記者の格好はしていますけれど、まぎれもなく明智探偵に違いありません。
「ハハハ……なんだかすごくびっくりしているようじゃないか。さっきから新聞記者のみんなの後ろにかくれて、君の大演説をじっくり聴かせてもらったよ。なかなかの名演技だったねえ。おかげで、ぼくは笑いすぎてお腹の皮がよじれちゃったぜ」
明智探偵は、歯切れのいい口調で殿村をからかうと、またしても、おもしろくてたまらないといった様子で笑い出しました。
きみが犯人だ
その場にいた人たちは、明智探偵の突然の登場にびっくり仰天してしまいましたが、なかでもせむし探偵の殿村の驚きは大変なものでした。
まさか、この部屋に明智が現れるだなんて、夢にも思っていなかったからです。
しかし、さすがはベテランの殿村探偵です。すぐに驚いた顔を隠して、大声で笑い出しました。
「ワハハハ……おそかったな、明智探偵! 君はいまごろになって、のこのこ何をしにやって来たんだ。もう捜査はすっかり終わっちまったんだよ。誘拐された四人の子どもたちは、ごらんのとおり無事に助け出した。世間を大さわわせにした機密文書も、ちゃんと相川さんのポケットにおさまっている。もちろん、これらはすべてこのわしが発見したのさ。残念だったな、明智探偵が見つけ出したわけじゃないんだ。明智君、君はいったい何をしに、ここへ来たんだい? 恥をかきにきたのか、それとも、わしの腕前にまいって弟子入りでもしにきたのかね?」
しかし、われらの明智探偵は、少しも慌てません。
相変わらずニコニコとほほえみながら、落ち着き払って言い返しました。
「いかにも、君の腕前を見物に来たのさ。君の推理はすばらしいねえ。だが、弟子入りしようなどとは思わないな。なぜって、ぼくも君の知っていることは、ちゃんとすべて知っているからさ。ただ、君がどんなにお芝居っぽく、それを探し出してみせるのか、わざと姿をかくして見物させてもらったのさ。君のお芝居は最高だったぜ!」
「フフン、負け惜しみもいい加減にするがいい! あとからのこのこやってきて、そんな大きな口をたたいたって、だれが信じるもんか。わしの知っていたことは、君もすっかり知り尽くしていたんだって? フフフ……虫のいい言い草もあったもんだな!」
「ところが、ぼくはそれ以上のことを知っているのさ。もしよかったら、その証拠を見せてあげてもいいんだが……」
「いよいよ負けおしみが強いお方だな。おもしろい。それではひとつ、その証拠とやらを見せてもらおうかな!」
「見たいというんだね?」
明智はなぜか皮肉な笑みを浮かべ、じっと殿村の不気味な顔を見つめました。
しかし殿村は、まったくひるむ様子もありません。
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