だれかが地下室の入り口にがんばって、外からしのびこむものや、中から逃げだすものを、見はっているにちがいない。
それに、きょうはみんなぐっすり寝ていて、うまくいったけれど、どんなことで、ほかの部下のやつらが目をさまさないとはかぎらないし、ここをぬけだすのは、なかなかめんどうだぞ。」
小林君はすわったまま、腕ぐみをして、また考えこみました。
そして、しばらくじっとしていましたが、やがて、何か名案がうかんだものとみえて、思わずひとりごとをいいました。
「うまいっ。
すばらしい思いつきがあるぞ。
少しぼくのほうが背がひくいかもしれないが、なあに、だいじょうぶだ。
きっとうまくいく。
部下のやつらの見ている前で、大手をふって逃げだせるんだ。
それがうまくいったら、あいつら、あとでどんなにおどろくだろう。
ああ、おもしろくなってきたぞ。」
小林君はそんなことをつぶやいて、ひとりにやにや笑っていましたが、やがて、また、ごろっと横になったかと思うと、いつの間にかすやすやと寝いってしまいました。
暗号のありかもわかったし、逃げだすてだてもきまったものですから、すっかり安心したのです。
さて、読者諸君、小林君は、どうして暗号のかくし場所を気づくことができたのでしょう。
いったい、それはどこにかくしてあるのでしょう。
また、見はり番のいる前を、やすやすと逃げだすてだてとは、どんなことでしょう。諸君も小林君の見ただけのものは、ちゃんと見ているのですから、よく考えればおわかりになるはずです。
さきを読みつづけるまえに、ひとつそれをあててごらんになりませんか。
あっぱれ少年探偵
その翌日の夕方までは、なにごともなくすぎさりました。
三度の食事は、きのう小林君を牢に入れた、あのおしゃべりの部下の男が、はこんでくれましたが、そのたびに、じょうだんをいってからかうので、小林君のほうでも、相手になってものをいうようになり、だんだん心やすくなっていくのでした。
夕方、六時ごろになりますと、やっぱり同じ男が、夕ごはんのおぼんを持って、鉄ごうしの外へやってきました。
「さあ、ぼうや、ごちそうだ。
ゆっくりたべるがいい。」
男は持っているかぎで、鉄ごうしの戸を開き、おぼんを中に入れると、またすぐ戸をしめて、かぎをかけてしまいました。
「ははは、へんな顔しているね。
たいくつかい。
童話の本でもあるといいんだが、ここには、あいにく、そんなものがおいてないんでね。
まあ、ごちそうだけで、がまんするんだね。」
男はあいかわらず、おしゃべりです。
小林君は、ゆうべ牢をぬけだしたとも知らないで、いばっている男の顔を見るたびに、おかしくてしかたがありませんでした。
それに、ゆうべ、この男は五人の部下の中で、いちばん大きないびきをかいて正体もなくねむっていたのです。
それを思いだすと、小林君はふきだしそうになるのでした。
でも、賊は小林君が明智探偵の少年助手だなんて、夢にも知らず、宮瀬不二夫君だとばかり思いこんでいるものですから、うっかり笑顔なんかできません。
こわくてしかたがないというようなふうをして、おどおどしていなければならないのです。
「ねえ、おじさん。」
小林君は、おずおずと男に声をかけました。
けさから、きこうきこうと思いながら、あまりなれなれしく見えてもいけないと思って、今までがまんしていたのですが、もうよい時分と、それをいいだすつもりなのです。
「え、なんだい。
何かほしいものでもあるのかい。
それならえんりょなくいうがいいぜ。
おまえは、だいじなお客さまだから、なんでもいうままにしてやれって、首領のいいつけだからね。」
男は、にやにや笑いながら、ひげむじゃの顔を鉄ごうしにくっつけるようにして、いうのです。
「あのね、おじさん、首領って、いったいだれなの? どんな人なの?」
小林君は、なにげなくたずねました。
「こわいおじさんさ。
ははは、じつをいうとね、おれたちも、首領がどんな人だか、よくは知らないのだよ。
一度も顔を見たことがないんだからね。
だが、いい首領だ。
おこるとこわいけれど、仕事をすれば、ちゃんとそれだけのことはしてくださるんだからね。
それでなけりゃ、こんな穴ぐらずまいなんか、一日だってがまんできるもんじゃないよ。」
小林君が、たった一日で見やぶってしまった首領の正体を、この男はまだ知らないようすです。
悪人でも、人の手下になっているようなやつは、力は強くても、頭のはたらきがにぶいのでしょう。
「あのね、おじさん、この地下室の入り口は一つしかないんだろう。」
小林君は、だんだん大胆になって、また別のことをたずねてみました。
「うん、一つしかない。
おまえのつれられてきた入り口一つきりだよ。」
「そこには番人がいるんだろうね。」
「ハハハ、こいつへんなことをききだしたな。
おまえ、牢やぶりをして、逃げだすつもりかい。
ハハハ、だめだめ、むろん番人がいるよ。
地下室の入り口には、昼でも夜でも、こわいおじさんが大きな目をむいてがんばっているんだ。
おまえが逃げだそうとでもしたら、その番人にひどいめにあうぜ。
そんなつまらないことは考えるんじゃない。
だいいち、逃げだそうといったって、その鉄ごうしが、おまえなんかの力でやぶれるものかね。
ハハハ。」
男は何も知らないで、さもおかしそうに笑いました。
小林君は、ゆうべこの鉄ごうしを開いて、ちゃんとぬけだしているのです。
明智先生の発明された万能かぎを持っているので、どんな錠まえだってやすやすと開くことができるのです。
それを知らないで男が安心しきって笑っているのを見ると、こちらこそ、ふきだしたくなるのでした。
「おじさん、首領っていう人、いつでも、ここにいるのかい。
ときどき外へ出かけることもあるの?」
小林君は、こんどは、さもなにげないふうで、いちばんききたいことをたずねました。
「そりゃお出かけになるさ。
首領はここに一日いることなんて、めったにないんだよ。
いろいろな仕事があってね、とてもいそがしいからだなんだ。
今夜もだいじな用件があって、あるところへ出かけるんだよ。」
「やっぱり、あんな覆面のまま出かけるのかい。」」
「ハハハ、おまえは本当にいろんなことを聞いてくるんだねえ。
いくら夜だとしても、覆面をしたまま外を歩いていたら、かえってまわりの人にあやしまれるじゃないか。
もちろん、ふつうの身なりに着がえて出かけるんだよ。」
「じゃあ、そのとき、おじさんたちには首領の顔が見られるんじゃないの?
どうして、首領の顔を知らないなんて言えるの?」
「ところが、それがどうしても見られないんだよ。
首領はまるで魔法使いみたいな人だからね。
おれたちがちっとも気づかないうちにどこかへ出かけたかと思うと、いつの間にか、また何食わぬ顔で帰っているんだ。
首領は変装の名人で、いつもまったくちがう格好をして出かけるらしいんだけど、おれたちはその本当の姿を一度も見たことがないんだよ。」
「変だなあ。
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