」
「それはすごくあぶないねえ。
だっていま夜来ている十人のお客さまのなかに、巨人の手下の誰かが変装して、こっそりまじっているかもしれないからね。
」
「ぼくも、おとうさんにそう言ったんだよ。
でもおとうさんは、『お客さまはみんなよく知っている人ばかりだから、だまされる心配なんてない、だいじょうぶだ』って言うんだ。
おとうさんはちっとも怖がっていなくて、
ぼくのことを『臆病者だなあ』ってしかるんだよ。
」
「わかったぞ。
きみがぼくに相談しにきたわけが、これでよくわかったよ。
要するに、少年探偵団のみんなを集めればいいんだろう?
そして、きみのおうちのまわりをしっかり守ればいいんだろう?」
「うん、そうなんだよ!
ぼくがただの臆病者なのかもしれないけれど、やっぱりすごく心配なんだよ。
」
「よし、それじゃあ、なるべく大きくて強そうな団員を六、七人ほど集めよう!」
小林君は、応接間で別の事件の客と話をしている明智探偵のところへいって、部屋の外へそっとよび出し、このことを告げました。すると明智探偵は、
「きみがついているなら、きっとだいじょうぶだと思うけれど、団員の子どもたちに怪我なんかさせないように気をつけるんだよ。
もし何か変わったことがあったら、すぐにぼくに電話をするんだぞ」
と、念を押してから、団員を集めることを許してくれました。
それから、すぐに電話で連絡がいき、六人の団員が駆けつけることになりました。小林団長と園井君をあわせて、合計八人の少年探偵団員が、園井君のおうちのまわりをぐるりと見まわることになったのです。
にじの宝冠
そのばん、園井君の家によばれたお客さまとたちは、おいしいごちそうをたっぷりごちそうになったあとで、いよいよおまちかねの「宝冠」を見せてもらうために、応接間に集まっていました。
お客さまはご夫婦づれの方が多く、男の人が六人に、女の人が四人でした。
みなさん、とても立派な身なりをした人ばかりです。
そこへ、園井君のおとうさんとおかあさんも加わって、あわせて十二人が、大きくて立派な丸テーブルをぐるっと囲んで椅子にかけていました。
主人の園井さんのまえには、銀色に美しく光るひとつの箱が置いてあります。
園井さんは、その箱のふたにそっと手をかけました。
「これが『にじの宝冠』です。
箱のまま、みんなで順番に回しますから、どうぞじっくりとご覧になってください。
」
カチリとふたがひらきました。
中にはまっかなビロードの台座があり、その上に金色にまばゆく輝く宝冠がのせられています。
宝冠にぎっしりとちりばめられた数え切れないほどの宝石が、室内の電灯の光をうけて、赤に、青に、紫にと、キラキラ、チカチカとまぶしく輝きました。
それはもう、目がくらむほどの圧倒的な美しさです。
お客さまとたちはそれを見ると、あまりの見事さに、思わず「わあ……」と感動のためいきをもらしました。
「さあ、どうぞ順番に回してご覧になってください。
宝石の数をただ数えるだけでも、ひと苦労ですよ」
「まあ、なんてすばらしいんでしょう!
ほんとうに本物のにじみたいだわ。
にじのように、五色の光できらきら輝いているわねえ」
園井さんのとなりに座っていた美しい女の人が、すっかりうっとりした様子で小声でつぶやきました。
それから、宝冠の入った銀の箱は、テーブルの上を順々にまわっていきました。
そして、ちょうど五人めの人までまわり終えた、そのときでした——。いきなり、パッと電灯が消えて、部屋のなかが、まっ暗になってしまいました。
停電でしょうか? いや、どうもそうではなさそうです。
だれかがスイッチをきったのです。
園井さんは、はっとして、大いそぎでスイッチのほうへいこうとしました。
「キャーッ……。」
女のお客さまのだれかが、ひめいをあげました。
「どうしたんです。いま、さけんだのはだれです。」
男の声が、どなりました。
「子どもがいます。小さな子どもが、あたしの手を……。」
「子ども? 子どもなんかいるはずがない。どこです、どこです。」
暗やみのなかで、みんないすから立って、うろうろしていました。
ぶっつかりあうものもあります。
「あっ、いたぞっ。子どもだ。小さな子どもだ。」
また、だれかが、さけびました。
「みなさん、しずかにしてください。宝冠はだいじょうぶですか。どなたが、お持ちですか。」
だれもこたえません。
みながいすを立ったので、宝冠の箱が、どのへんにあったか、けんとうもつかないのです。
そのとき、園井さんが、やっとスイッチをさぐりあてて、パチンと、電灯をつけました。
部屋のなかが、まぶしいほど明るになりました。
みんなの目が、テーブルの上を見ました。
宝冠の箱は、かげもかたちもありません。
二―三人のひとが、テーブルやいすの下をのぞきました。
なにもありません。
にじの宝冠は、魔法のように消えうせてしまったのです。
「さっき、子どもがいると、おっしゃったかたがありましたが、ほんとうに、そんなものが、いたのですか。」
園井さんが、みんなの顔を見まわして、たずねました。
「たしかにいました。わたしの腰くらいしかない、小さな子どもでした。」
「あたしも、その子どもにさわられましたわ。どうしたんでしょうね。どこへいったんでしょうね。」
それをきくと、みんな、きみがわるくなって、キョロキョロとあたりを見まわすのでした。
園井さんは、ふしぎそうな顔をして、いいました。
「そんな小さな子どもがいるはずはありません。わたしの子どもの正一は中学生です。そのほかに、うちには子どもはいないのです。いや、たとえ子どもがいたとしても、この部屋へは、はいれません。わたしは、用心のために、宝冠をお見せするまえに、ドアにカギをかけておきました。窓もちゃんと、しまりができております。どこにも出はいりするすきまはないのです。」
「それはたしかですか。では、宝冠はどこへいったのです。だれかが、持っていたとしか考えられないじゃありませんか。」
園井さんも、お客さまの男の人たちも、部屋じゅうを、ぐるぐるまわって、さがしました。
ドアや窓の戸を、ガチガチやって、ためしました。
ぜんぶ、中からしまりができています。
そのほか、てんじょうにも、かべにも、ゆかいたにも、あやしいところは、少しもないことがわかりました。
ふしぎです。あの美しい宝冠は、銀の箱もろとも、おばけのように消えてなくなったのです。
みんなは、うすきみわるくなって、ただ、おたがいに、おびえた目を見かわすばかりでした。
怪物のゆくえ
ちょうどそのとき、園井さんの広いおうちのへいの外では、またべつの、おそろしいできごとがおこっていました。
小林団長のひきいる八人の少年探偵団は、四人ずつ、ふたくみにわかれて、園井家のへいのまわりを巡回していました。
もう夜の八時ごろでした。
空がくもって星も見えない、まっ暗なばんでした。
そのへんは、さびしいやしきまちで、高いへいばかりがつづいています。
人どおりも、まったくありません。
町のところどころに立っている街灯の光が、あたりをぼんやりと、てらしているばかりです。
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