初級翻訳・雨を降らす話 第1話

中谷 宇吉郎

昔から、世界中のどの国でも「人間の力で雨を降らせたい」という願いを持っていました。雨乞いのお祈りや、雨を呼ぶための歌などは、まさにその気持ちの表れです。

そうしたお話はさておき、科学の力で雨を降らせようという計画も、ずいぶん昔からいろいろな方法で試みられてきました。そして最近、ついにその実験が成功したというニュースがアメリカから届きました。有名な雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』などでも紹介され、日本でも大きな話題になっています。

ただし、この方法は「いつでも好きな時に雨を降らせる」という魔法のようなものではありません。空の中に水分がたっぷりあるのに、なぜか雨が降らないという時に、人工的に雨を降らせるというものなのです。

「それじゃあ、あまり面白くないな」と思うかもしれませんが、実はこれがすごいことなのです。なぜなら、空の上にはたいていの場合、たくさんの水分が含まれているからです。晴れた日であっても、空に雲が全くないという日は、日本だと一年に数えるほどしかありません。誰だって、空には雲があるのが当たり前だと思っていますよね。雲というのは、もちろん小さな小さな水滴の集まりですから、空にはいつでも水分がいっぱいあるというわけです。

ところで、雲も雨も同じ水滴なのに、どうして雨は降るのに雲は降ってこないのでしょうか? その理由はとても簡単です。実は雲も降ってはいるのですが、落ちるスピードがものすごく遅いので、空に浮かんでいるように見えるだけなのです。もし、ものすごく長い時間をかければ、雲もやがて地面に届くはずですが、実際には途中で蒸発してしまうので、水として地面に届くことはありません。

雲の粒は、直径が100分の1ミリという、目に見えないほど小さなものです。こうした小さな水滴が、何らかの理由で大きくなり、直径が0.5ミリや1ミリ、あるいは2ミリくらいになれば、雨となって地上に降ってくるのです。つまり、人工的に雨を降らせるための技術とは、結局のところ「どうやって雲の粒を大きく成長させるか」という点に尽きるのです。

それなら、自然の中で雨の粒ができる仕組みを調べて、そのプロセスを人工的に早めてあげればいい、ということになりますよね。ところが、この「自然の中で雨の粒ができる仕組み」というのが、まだよく分かっていないのです。

これだけ科学が発達した現代でも、「どうして雨が降るの?」という小学生の質問に、世界中の気象学者や物理学者たちが総出でかかっても答えられないというのは、とても不思議な話です。でも、本当にまだ解明されていないのですから、仕方がありません。

よく教科書には、「地面から水蒸気が蒸発して空にのぼり、上空はいつでも寒いから、その水蒸気が何か芯になるものにくっついて雨になる」と書かれています。しかし、これは実は間違いなのです。この仕組みでできるのは「雨」ではなく「雲」です。つまり、直径100分の1ミリの小さな水滴ができるだけなのです。

では、この小さな水滴が、さらにどうやって成長して雨の粒になるのか。それはまだ分かっていません。小さな水滴がそのまま少しずつ成長して大きな粒になれば話は一番簡単なのですが、物理学の計算では、そんなことは起こり得ないということが分かっています。

今、一番有力だとされている説は、こうした小さな水滴(雲の粒)同士がぶつかり合って、くっついて大きくなるという考え方です。これは主にドイツの気象学者たちが唱え始めた説で、この説を裏付けるような観察データもたくさん出ています。しかし、ドイツ以外の国で研究してみると、必ずしもこの説が正しいとは言えない結果になることも多いのです。日本などで調べた結果も、どちらかといえば否定的な意見が強いようです。

それでも、この説のように雨が降る可能性は十分あるので、空気に刺激を与えて雲の粒をくっつけようという実験は、これまでに少なくとも数回は試みられてきました。

この考えを後押しするものとして、「大きな戦いのあとには大雨が降る」という昔からの言い伝えがあります。有名なウォータールーの戦いのあとにも雨が降ったといわれています。この言い伝えを確かめるための、もっとも大規模な実験が、50年も前にアメリカで行われました。雲の粒がくっつくという理論ができるよりも、ずっと昔のことです。

テキサスの砂漠地帯で、一日かけて空の雲を大砲で撃ちまくったのです。無数の大砲の弾に加え、475発の爆弾を爆発させ、爆発するガスを詰めた気球を68個飛ばすという、合計650トンもの火薬を使った大実験でした。結局、一日中雲を撃ち続けて、夕方になってようやく2、3滴の雨が降った、という話です。

日本でも明治時代の中頃、九州で大干ばつがあった時に、軍の師団にお願いして実弾演習をしてもらったことがあります。しかしその時も、雨は一滴も降らなかったという記録が、古い『気象集誌』という本に残っています。

結局のところ、空気にただ機械的な刺激を与えるだけで雨を降らせようという試みは、まだ成功した例がないようです。空気をかき混ぜる以外にも、電気を帯びた砂を雲の中にまいて、それで雲の粒をくっつけようという実験もあちこちで行われました。プラスの電気を帯びた粒と、マイナスの電気を帯びた粒がうまくできれば、お互いに引き合ってくっつくはずだという考え方です。あるいは、電気を帯びるという作用によって水滴の蒸気の圧力が変化し、そのために水滴が大きくなるという現象が起きているのかもしれません。

1926年にロサンゼルスで、二人の技師が高い塔を建て、そこから放電を起こすことで雨を降らせたという話がありました。またドイツでも、霧を晴らすために飛行機から電気を帯びた砂をまいたところ、雨が降ったという実験があったそうです。しかし、これらの実験はどれも断片的なもので、組織的な研究とは言えません。

ソ連では、この分野の研究にかなり力を入れているようです。ソ連に関してはイリーンという人の通俗科学書から得た知識しかありませんが、それによると、レニングラードの実験気象研究所では、人工降雨の科学的な研究が組織的に進められているそうです。その他にも、トルクメニアの砂漠の中に「降雨研究所」というものができているとのことです。

その研究所長は物理学者のフェドセーエフという人物で、1931年に煙幕弾を使って2000立方メートルもの帯電した煙を空へ放ち、8分間降り続く雨を降らせたという話です。トルクメニア降雨研究所ではその後もこの研究を続け、フェドセーエフと研究所員たちは、化学的な方法でも一応の成功を収めたといいます。

10年ほど前の報道では、「飛行機が雲の上から、研究所が独自に発明した化学物質をまき散らす」という実験が行われました。その物質は、一部が非常に細かい粉末状で、一部は溶液を霧状にしたものでした。この実験を開始してから約7分経つと、灰色の密雲の中に明るい筋ができて、それが雲全体へと広がっていきました。やがて雲が一面乳白色になり、雲が明るくなると同時に、小さな粒の雨が降り出しました。それが次第に激しく、また大粒になっていき、最後には自然の雨と同じような雨が降ったということです。

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