知っている人は、「まあ、美しいボタンね。ちょっと見せてちょうだい」と言って、掌(てのひら)の上に乗せては眺めたものです。
しかし、誰もこの青いボタンが石でできているのか、貝でできているのか、見当もつきませんでした。
「この青いボタンを一つ、僕にくれないか」と、正雄はたくさんの人から言われました。
けれど、このボタンをなくしてしまうことは、彼女との思い出からも遠く離れてしまうことだと考えて、彼は誰にも譲りませんでした。
「このボタンをくれた女の子の居場所がわかって、その子から直接許可をもらわない限り、あげることはできないんです。その女の子はお父さんからもらって、ずっと大事にしていたものを僕にくれたのだから……」と、正雄は答えました。
みんなは、「もうこれだけ時間が経っても何の便りもないんだから、その子の居場所なんてわかりっこないよ」と言いました。
しかし、正雄は青々と晴れた大空を見渡して、「この空の下のどこかに、きっと女の子はお母さんと一緒に住んでいるはずだ……」と信じていました。こう考えると、言いようのない悲しさと、懐かしさが胸に込み上げてくるのでした。
ある日のことでした。
近所に住む、背が高くて顔の黒い男がやってきて言いました。
「坊ちゃん、どうか私にこのボタンを一つください。私はこれを時計の鎖にぶら下げておきます。私は汽車に乗ってあちこちを回る仕事をしているので、どこかでそのお嬢さんが私の乗っている汽車に乗ってきて、私の胸にぶら下がっているこの青いボタンを見て、『どうしてあなたがそれを持っているの?』と尋ねてくることがあるかもしれない。私の乗っている汽車は、何百マイルも先まで行って、その間に数え切れないほどの駅を通り過ぎるのですから……」
正雄は、この若い汽車乗りの言葉を聞くと、なるほど、そんな奇跡のようなことがあるかもしれないと思いました。
そこで、もし女の子の居場所がわかったらすぐに知らせてほしいという約束で、正雄はその男に青いボタンを一つ分け与えました。
また、ある日のことでありました。正雄が家の前で遊んでいると、金魚売りが通りかかりました。
金魚売りはみんなの姿を見ると、金魚の入った桶(おけ)を地面に下ろしました。
みんなはその周りに集まって、金魚をのぞき込みました。
尾の長い金魚や、丸い金魚、それに黒と金色のまだら模様の金魚などが泳いでいます。
そのとき、金魚売りは正雄が持っていた青いボタンに気づき、目を丸くしながら「坊ちゃん、いい金魚をあげるから、そのボタンを一つくれないか?」と頼みました。
正雄は金魚売りのおじさんに、この青いボタンのいきさつを話しました。
すると金魚売りは言いました。
「坊ちゃん、私はこうして全国を旅して回っています。
どんな村でも、小さな町でも、春から夏にかけて歩いて回るのです。
この青いボタンを私のかぶっている笠(かさ)のひもに結びつけておけば、いつかそのお嬢さんが金魚を買おうとしたときに目にとめて、『どこでその青いボタンを手に入れたのですか?』と聞いてくれるかもしれません……」
正雄は考えましたが、なるほど、この金魚売りの言うことには一理あると思いました。
そこで、青いボタンを一つ分け与えました。
金魚売りは正雄がいらないと言ったにもかかわらず、金魚を三匹くれました。
正雄が持っていた青いボタンは、残り一つになりました。
彼はこの最後の一つだけは、何があっても絶対に手放すまいと心に決めました。
いつになったら停車場や汽車の中で、あの男は彼女に出会えるのでしょうか。
そして、あの金魚売りはいつになったら、彼女の住む町へたどり着くのでしょうか。
三匹の金魚は、今も元気に水盤の中で泳いでいます。
正雄は、最後の青いボタンを枕元に置いて眠ったある晩、赤い家がたくさん建ち並ぶ港の景色を夢に見ました。
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