見つけたら知らせてくれると約束してくれた風は、まだ何も言ってきてくれません。世界中のことがわかるなら、ほかの話は聞きたくありません。私の子供はいま、どこでどうしているのか教えてください」
と、あざらしは月に頼み込みました。
月はこの言葉を聞くと、黙り込んでしまいました。
なんと答えていいのか、分からなかったからです。
世の中にはあざらしばかりでなく、子供を亡くしたり、さらわれたり、殺されたりするような悲しい事件がそこかしこにあって、月自身もいちいちすべてを覚えていられなかったからでした。
「この北の海の上だけでも、何びきもの子供を亡くしたあざらしがいるかもしれない。だけど、おまえは子供にとてもやさしいから、人一倍悲しんでいるんだね。だからこそ、私はおまえをとてもかわいそうに思っているんだ。そのうちに、おまえを楽しませるものを持ってきてあげるからね……」
と、月は言うと、ふたたび雲の後ろに隠れていきました。
月は、あざらしにした約束を決して忘れませんでした。
ある晩方、南の方の野原で、若い男や女たちが、咲き乱れる花の中で笛を吹き、太鼓を鳴らして楽しそうに踊っていました。
月は、この様子を空の上から見ていたのです。
そこにいる男女は、みんな牧人(羊飼いなど)でした。
この地方はもうすっかり暖かくて、みんなは畑や田に出て働かなければなりませんでした。
一日中野原に出て働いたあと、夕暮れになるとみんなは月の下でこうして踊り、その日の疲れを忘れていたのです。
男たちは牛や羊を追って、月の下のかすんだ道を帰っていきました。
女たちは花の中で休んでいました。
そしてそのうちに、花の香りに酔い、やわらかな風に吹かれて、うとうとと眠ってしまう者もいました。
このとき、月は、小さな太鼓が草原の上にポツンと投げ出してあるのを見つけて、「これをあの哀れなあざらしに持っていってやろう」と思ったのです。
月がそっと手を伸ばして太鼓を拾い上げたことに、誰も気づきませんでした。
その夜、月は太鼓をかついで北の方へ旅をしました。
北の海は相変わらず銀色に凍りついていて、冷たい風が吹いていました。
そして、あざらしは氷山の上にうずくまっていました。
「さあ、約束のものを持ってきたよ」
と言って、月は太鼓をあざらしに手渡してやりました。
あざらしはその太鼓がとても気に入ったようでした。
月がしばらく日をたってからまたこのあたりの海上を照らしたときには、氷が解けはじめ、あざらしが楽しそうに鳴らしている太鼓の音が、波の間から聞こえてきたのでした。
――一九二五・三作――
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