招待状が届いた!
春田博士の家では、朝食の時間が賑やかに過ぎていました。
「龍介もこれまで色々な事件を解決してきたが、一番面白かったのは何だい?」
博士は笑いながら、長男の龍介少年を見つめました。龍介君は府立第×中学の二年生で、とても頭の切れる少年です。
「そうですね、面白いというより一番苦労したのは、やっぱりあの『黄色いダイヤモンドの首飾り事件』ですね」
龍介はコーヒーをすすりながら答えました。この事件は、わが雑誌「譚海」の八月号に載っていたので、覚えている方もいるでしょう。あの怪しい外国人、額にあざのあるヤンセンを相手に、一騎打ちをした事件です。
「なるほど」博士は頷いて言いました。「あの時は相手が、龍介に復讐するために仕掛けたことだったからな。ところでヤンセンはあれから牢屋に入れられたが、当時一緒にいた混血の少年がその後どうなったか、知らないかね?」
「分かりません。ですが、いずれ必ず現れますよ。あいつはヤンセンの仇を討つために、どこかで僕を狙っているはずですからね」
話をしていると、書生が入ってきて「龍介様にお手紙です」と手紙を差し出しました。
「誰からだろう?」
呟きながら龍介が封を切ると、それは立派な金枠入りの招待状でした。
「あなたが少年の身でありながら、今日まで数々の困難な探偵活動を成功させたことをお祝いします。私は世界の探偵術を研究するためにアメリカから来た者ですが、あなたのために祝宴を開きたいと思います。今晩六時、日本ホテルまでお越しください。米国犯罪学者 メトラス博士」
「おや、メトラス博士か」春田博士が横から口を挟みました。「博士は世界中で有名な学者だよ。あの方に招待されるのは大変な名誉だぞ」
「でもお父さん」龍介は顔を上げて答えました。「明日は横須賀で、お父さんが発明したC・C・D潜水艦の試運転があるでしょう? だから今夜は早く寝ておきたいんですが」
「何を言う、招待されたんだから顔を出して、早く帰ってくればいいさ。ぜひ行ってきなさい」
博士はとても乗り気で、龍介に強く勧めるのでした。ついに龍介は、メトラス博士の招待を受ける決心をしました。二人は見張りに……。
その日の夕方。龍介は仲良しの拳骨壮太と、妹の文子を連れて、自動車で日本ホテルへ向かいました。ホテルの角まで来ると、龍介は車を停めて、壮太と文子を下ろしました。
「じゃあ、頼んだよ」龍介は低い声で囁きました。「今夜の招待会は、ことによると面白いことになるかもしれないんだ。いいかい、メトラス博士の部屋は二階の五号室、ほら、あの左から三番目の明るい窓がそうだ。よく見張っていてくれ」
「まかせてくださいよ、春田さん!」拳骨壮太は胸を叩いて答えました。「見張り役は引き受けた。しばらく拳骨を使っていないから、腕が鳴って仕方がないんですよ。どうか喧嘩でもできるようにしておいてくださいよ」
「わざと喧嘩を売る奴もいないだろうが、ことによると君の拳骨を頼むかもしれないよ」龍介は笑って、妹の方へ振り向きました。「じゃあ文ちゃんも、見張りのお手伝いを頼むよ」
「うん、大丈夫。行ってらっしゃい!」
文子は微笑みながら兄の手を握りました。龍介は大股でホテルへと急ぎます。二人は並木のかげに身を寄せて、じっとメトラス博士の窓を見守るのでした。
轟然、二発のピストル
龍介がホテルに着くと、礼服を着た立派な三人の外国人が出迎えて、丁寧な様子でメトラス博士の部屋へ案内しました。部屋にはすでに食卓の準備が整っており、三人の紳士はすぐに龍介を席へと導きました。
「少々お待ちください。博士はすぐ戻りますから」
一人があまり上手ではない日本語で言いました。龍介は頷き、静かに室内を見回しました。それから五分も経ったでしょうか、隣の扉が開いて、白髪の老紳士が姿を現しました。
「メトラス博士です」先の外国人が龍介にそう告げました。
龍介は椅子から立って挨拶をしました。メトラス博士は、らんらんと輝く鋭い瞳で、じっと龍介を見つめました。龍介は博士の目を見て、思わずゾッとして身震いしました。それはまるで人殺しをしてきた人間のような、恐ろしい目つきだったのです。
「あなたが、春田さん、ですね?」博士は急に顔色を和らげ、椅子に腰かけながら猫なで声で言いました。
「僕が、春田龍介です」
龍介ははっきりと答えました。
「私、貴方を、大変、偉いと思います。どうぞ、この先も、探偵をたくさんしてください。私、それ、お頼みします。よろしいですね?」
博士はお世辞のようにそんなことを言いました。龍介はむっつりしたままで頷きました。
「大したものはありませんが、どうぞ召し上がってください」
博士はそう言って食事を勧めました。龍介は勧められるままに、博士たちと共にナイフを手に取りました。食事の間、皆は黙り込んでいました。やがて食事が終わると、挨拶をして博士は立ち上がりました。そして傍らにいた男に何かを命じると、博士は静かに元の扉から隣の部屋へと去っていきました。
「春田さん、どうぞこちらへ」
博士に指示された男が、丁寧な口調で言いました。
「メトラス博士が、あなたにどうしても引き合わせたい方がいるそうですから」
龍介は頷いて立ち上がりました。
そしてその男に案内されながら、もしもの時のためにと、ズボンのポケットに入れておいた拳銃にそっと手を触れました。
男は仕切り扉を開けると、礼儀正しくお辞儀をして、
「どうぞ」と言って道を譲りました。
龍介は隣の部屋へ一歩足を踏み入れました。
メトラス博士は正面の大きなテーブルに向かって座っていました。
「お入りなさい!」博士が声をかけました。
龍介がもう一歩踏み込んだ、その瞬間でした。激しい音を立てて扉が閉まりました。
「はっ!」と思って振り返ったとき、さっきの三人の紳士が拳を突き出し、バラバラと龍介を取り囲みました。
「畜生、やったな!」
龍介は叫んで一歩下がりました。
その時です。
「動くな小僧、今度は俺の勝ちだ」と言いながら、ひょっこりと一人の少年が部屋の中に現れました。
龍介は一目見るなり、
「あっ! 貴様は……」と叫んで、思わず後ろへ下がりました。
見よ、そこに現れたのは、ヤンセン牧師と共に悪事を働き、あわや捕まりそうになったとき、横浜の倉庫から姿をくらませた、あの混血の少年チャアリイではないですか。
「もう駄目だ、春田君。いくら君が強くたって、子供一人と俺たち五人じゃ喧嘩にならないよ。あはははは、降参したかい?」
チャアリイが笑ったその瞬間、隙をうかがっていた龍介は、飛ぶ鳥のように身を躍らせてチャアリイに飛びかかりました。
その直後、部屋の電灯が消えました。
真っ暗闇の中で、二発のピストルが爆音を響かせました。
「あっ!」という悲鳴が上がり、ドサリと人が倒れる気配がして、続いて、
「うーむ、うーむ」という呻き声が聞こえます。
撃ったのは誰か、撃たれたのは誰か。すべては闇の中で分かりません。
龍介は勝つのか。
チャアリイが勝つのか。
そもそも、メトラス博士とは一体何者なのか!
壮太の離れ業
こちらは並木の陰で龍介の身を案じ、見張りをしていた文子と拳骨壮太の二人です。
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