初級翻訳・魔法人形 第23話

江戸川 乱歩

地下ジャングルはもちろん西洋悪魔が作ったニセモノで、その奥に楽屋のような部屋があり、そこで八人の少年たちがサルの毛皮を着てゴリラ大王の部下になりきり、ジャングルへ飛び出していくという計画も、すっかりお見通しだったのでした。
電話を受けた小林団長は、すぐにそれを明智探偵に知らせ、自分は近くにいた少年探偵団員五人とチンピラ隊五人を呼び集めて、車でこの家に駆けつけたのです。
そしてポケット小僧と作戦を打ち合わせ、楽屋へドッと飛び込んで八人の少年たちを縛り上げ、声をを出せないようにさるぐつわまでしっかりかませました。
それから、団員とチンピラ隊の中から八人を選んでサルの毛皮を着せ、ゴリラの部下になりすましてジャングルの中に現れたというわけなのです。
ゴリラが突然の奇襲にびっくり仰天したのも、無理はありませんよね。
ジャングルの大捕り物です!

 八匹のサルたちは、次々と毛皮を脱ぎ捨てて正体をあらわしました。
白シャツと下着姿だけの少年たちや、ボロボロのセーターを着たチンピラたちです。
奥の方からは、サルにならなかった学生服の少年二人も出てきました。
小林少年も毛皮を脱いで、シャツ一枚の姿になり、マユミさんの手を取ってニコニコしながら西洋悪魔の顔を眺めるのでした。
西洋悪魔はくやしそうに少年たちの顔をぐるりと見回していましたが、突然、おかしくてたまらないといったふうに大笑いしはじめました。
「ワハハハハハ……!
小林くん、なかなかつまらないことをしてくれるじゃないか。
ワハハハハ……、だがね、オレが君たちみたいな子どもに負けるとでも思っているのかい?
オレは魔法使いなんだぜ。
この家には、君たちの想像もつかない恐ろしい仕掛けがあるんだ。
いまに泣きべそをかかないように、せいぜい用心するこったな。
ワハハハハハ……!」

 西洋悪魔は笑いながら五、六歩右へよろめいたかと思うと、地面のある場所を足でグッと力いっぱい踏みつけました。
すると、みんなの目の前がパッとまっかっかになり、「バン、バン、バン、バン!」と恐ろしい音が鳴り響きました。
赤い火の棒が天井へと吹き上がり、それが美しい金色の粉になってハラハラと地面に落ちてくるのです。
花火です!
どこかのボタンを足で踏むと、花火が打ち上がるような仕掛けになっていたのでした。
みんながその金色の花火に見とれていると、その花火の音が合図だったのでしょう。
ジャングルの木の幹の向こうから、一人、二人、三人、四人、五人――まっ黒なシャツとズボンを着た、西洋悪魔そっくりの男たちが、まるで魔物のように次々とあらわれてきました。
「ワハハハハ……!
オレの本当の部下たちがやってきたぞ。
さあお前たち、このチンピラどもを片っ端からひっくくってしまえ!
あの娘も逃がすんじゃないぞ!」
西洋悪魔が、勝ち誇ったように怒鳴りつけました。
こちらは子どもが十人、むこうは西洋悪魔を入れて六人です。
これではとてもかないません。
逃げようにも、黒シャツの男たちが四方から現れたので、逃げるすきもありません。
男たちはニヤニヤ笑いながら、両手を大きく広げて近づいてきます。
一人の少年がたちまち捕まり、「ワーッ!」と悲鳴をあげました。
その時、不思議なことが起こったのです。
ジャングルの木の幹のうしろから、またしても黒い影がボーッと現れてきました。
おやっ! 今度は帽子をかぶり、制服を着ています。
おまわりさんの制服です!
一人、二人、三人……七人います!
それが次々と現れて、黒シャツの男たちの後ろへと近づいていくではありませんか。
「あっ! 中村さん!」
小林少年が、思わず叫び声をあげました。それは警視庁の中村警部だったのです。
ほかの六人は、その部下の警官たちです。
「おお、小林君、この子どもの案内でやってきたよ。」
中村警部はそういって、うしろにいた小さい少年を、前におし出しました。
「あっ、ポケット小僧!」
「小林さん、よかったねえ、もうだいじょうぶだよ。明智先生も、いまにここへくるよ。」
ポケット小僧が、おどるようなかっこうをして叫ぶのでした。
警官たちは、いきなり黒シャツの男たちにとびかかっていき、あちこちで、恐ろしいとっ組みあいがはじまりました。
西洋悪魔は、身をかわしながら逃げまわっていましたが、またしても、大声で笑いだしたではありませんか。
「ワハハハハハ……。なに、明智がきたって? そいつはゆかいだ。この家に、どんなしかけがあるかも知らないで……。」
ひとりの警官が、西洋悪魔にとびついていきました。
「おっとどっこい、きさまたちの手にあうおれじゃない。いまに、ほえづらかくなよ。」
パッととびのいて、木のかげに走りこんだかと思うと、カチッと音がして、とつぜん、ジャングルの中がまっ暗になってしまいました。
電灯のスイッチをきったのです。
しかし警官たちは、こういうときの用意に、みんな懐中電灯を持っていました。
あちらでもこちらでも、パッ、パッと懐中電灯が光り、その光線が空間をとびまわるのでした。

「ワハハハハ……。ここまでおいて、ほら、ここだよ。ワハハハハハ……。だが、用心するがいいぜ。この家には、いろんなしかけがあるんだからね。恐ろしい番人がかってあるんだからね。ワハハハ……。ほら、ここだよ、ここだよ。」
西洋悪魔は、じぶんのいるところをおしえるように、パンパンと、手をたたきました。
そして、その音が、だんだんむこうのほうへ遠ざかっていくのです。
あいつはいま、「番人がかってある。」といいました。
「かってある。」というからには、それは人間でなく、なにか恐ろしい動物なのかもしれません。
この地底の暗やみには、ゴリラや大トカゲや大ワシのほかに、まだ動物がかくれているのでしょうか。
警官たちは、てんでに、懐中電灯を照らしながら、手の音のするほうへと、つきすすんでいきました。
ジャングルの大きな木のみきのあいだをとおりすぎると、むこうに、まっ黒なほら穴の入口があります。
そこへ西洋悪魔がかけこんでいくのが、懐中電灯の光で、チラッと見えました。
「あっ、あすこにほら穴がある。いま、あいつが逃げこんだぞ。みんなあの穴へとびこむんだ!」
中村警部が、大きな声で命令しました。
ふたりの勇敢な警官が、その穴へかけこんでいきます。
ふたつ角をまがると、懐中電灯の光のなかに、西洋悪魔がこちらをむいて、たちはだかっているのが見えました。
そして、にやにや笑いながら、手まねきをしているではありませんか。
西洋悪魔の部下たちは、まだジャングルの中で、あとにのこった四人の警官や少年探偵団員たちと、とっ組みあいをしていました。
もう、手錠をはめられてしまったかもしれません。
ですから、ほら穴の中の西洋悪魔は、ひとりぼっちです。
それなのに、どうしてあんなにおちつきはらっているのでしょう。
こちらはふたりの警官と、中村警部と、あとからかけこんできた小林少年とポケット小僧の五人です。
いくらなんでも、ひとりぼっちの西洋悪魔が、かなうはずはありません。
あんまりあいてがおちついているので、うすきみわるくなってきました。
警官たちも、そこに立ちどまったまま進もうとしないのです。
そのときです。

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