」
「王さまだって? いったい、それは、どこにいるんです?」
「ご殿にいるよ。
魔法博士という、えらい人さ。
」
「それは、黄金怪人のことじゃありませんか?」
「うん、よく知っているね。
王さまは黄金のよろいをきているよ。
そして、魔法つかいだからね、黄金怪人にちがいない。
」
目に見えないやつは、そんなことをいいながら、だんだん、向こうのほうへ歩いていきましたが、やがて、カタンと音がして、胃ぶくろの向こうの壁に、四角な穴があきました。
そこにドアがあるらしく、男がそれをひらいたのです。
外から、うすい光が、さしこんできたので、やっと、あいての姿を見ることができました。
そいつは頭から、足のさきまで、まっ黒なやつでした。
つまり、黒いシャツに、黒いズボン、頭には黒い袋のようなものをかぶって、その目と口のところだけが、くりぬいてあるのです。
ひょっとしたら、さっき、巨人の口へ三少年をおしこんだのも、こいつだったかもしれません。
この男の黒い手ぶくろをはめた手が、懐中電灯をうばいとったり、三人をうしろから、おしたりしたのかもしれません。
「さあ、ここからでるんだ。
王さまのお部屋は、すぐそこだからね。
」
黒覆面の男は、さきにたって、胃ぶくろのドアをでました。
そのドアは、床よりも、すこし高いところにひらいているので、そこから水が流れだすようなことはありません。
少年たちは、男のあとについて、ドアをでました。
ドアのすぐ外に、三段ほどの階段があり、それをおりて、うす暗いトンネルのようなところを、すこしいきますと、そこにまたドアがあって、覆面の男が、それをひらきました。
すると、そこから、いきなり、パッと、目もくらむような明るい光が、さしてきました。
そこが、この地底の国の王さま、魔法博士の部屋だったのです。
「さあ、こちらへ、はいりなさい。
」
三人は、男にしたがって、部屋にはいりました。
その広い部屋は、むかしの仏壇の中のように、キラキラと金色に光りかがやいていました。
目がいたくなるほどです。
てんじょうも、壁も、すっかり金色なのです。
そこに金色のまるテーブルと、金色のせなかの高い、りっぱないすがあって、そのいすに、見おぼえのある黄金怪人が、ゆったりと、こしかけていたではありませんか。
魔術の種
そのとき、黄金怪人が、三日月がたの黒い口を、キューッとまげて、きみの悪い声で笑いました。
「ウヘヘヘヘ……、小林団長、とうとう、つかまったね。
わしは、きみのくるのを、いまかいまかと、待ちかまえていたんだよ。
」
小林君たち三少年は、黒覆面の男におしやられて、黄金怪人のこしかけている前の、黄金のテーブルのそばに立たされていました。
三人は、ただ、恐ろしい怪人の顔を、見つめているばかりです。
まだ、ものをいう力もありません。
「フフフフ……、驚いたか。
わしは、かならず、約束をまもる。
いつか、わしは名探偵明智小五郎を盗みだして、わしのすみかに閉じこめてみせると、約束した。
また、そのてはじめに、明智探偵のだいじな助手の小林少年を、とりこにしてみせると約束した。
その約束のはんぶんを、いま実行したのだ。
小林君、きみはもう、わしのとりこになったのだよ。
そして、このつぎは明智先生のばんだ。
ウヘヘヘヘ……。
」
小林君は、まだ、なにもいいません。
ただ、じっと、怪人のぶきみな顔を、にらみつけているばかりです。
「ところで、小林君、きみのポケットにB・Dバッジが、たくさんはいっているはずだね。
それを、ここへだしてくれたまえ……。
おい、この子のポケットを、さがすんだ。
」と、うしろに立っていた黒覆面の部下に、命令しました。小林君は、じぶんで、ポケットから、三十個のB・Dバッジをつかみだして、黄金のテーブルの上に、ザラッと、なげだしました。
いやだといっても、黒覆面に、とられるにきまっているからです。
「うん、よしよし、これがきみたち少年探偵団の目じるしだね。
だれかにつれさられるとき、これを、ひとつひとつ、道に落としておいて、あとから、さがしにくる人の目じるしにしようというわけだね。
フフフ……、どうだ、よく知っているだろう。
じつは、わしも、B・Dバッジを、すこしばかり持っているのだよ。
これを見たまえ。
」
黄金怪人は、そういって、どこからか、ひとにぎりのB・Dバッジをとりだし、それをテーブルの上に、バラバラと、こぼしました。
たしかに、少年探偵団のバッジです。
これは、いったい、どうしたというのでしょう。
怪人がB・Dバッジを、こんなにたくさん持っているなんて、おもいもよらないことです。
「ウフフフフ……、ふしぎそうな顔をしているね。
ほら、みたまえ、にせものじゃないよ。
ちゃんと、裏に団員の名まえが、ほりつけてある。
読んでみるよ。
イ、ノ、ウ、エ、うん、井上だな。
それから、こちらは、ノ、ロ、野呂だよ。
ウフフフ……、どうして、このふたりのバッジが、わしの手に、はいったとおもうね。
」
怪人は、三日月がたの口を、へんなふうにゆがめて、さもたのしそうに笑いました。
「おい、あのふたりを、ここへ、ひっぱってくるんだ。
」
怪人は、黒覆面の部下に命じました。
部下は、うなずいて、部屋の外へ出ていきましたが、まもなく、ふたりの少年をつれて、はいってきました。
それを見ると、小林少年は、おもわず、「あっ。
」と声をたてました。
じつにふしぎなことが、おこったからです。
はいってきた、ふたりの少年も、びっくりして立ちすくんでいます。
みんな、じぶんの目をうたがっているのです。
こんな、ふしぎなことが、あるものでしょうか。
夢を見ているのではないでしょうか。
はいってきた、ふたりの少年というのは、井上君とノロちゃんだったのです。
そして、こちらに小林君とならんでいるのも、井上君とノロちゃんです。
井上君が、ふたりになったのです。
ノロちゃんも、ふたりになったのです。
いま、はいってきたほうの井上君が、おずおずと、もうひとりのじぶんに近づいてきました。
そのあとから、ノロちゃんも、井上君のうしろにかくれるようにして、こちらへ、やってきます。
井上君と井上君が、一メートルの近さで、おたがいに向きあって立ちました。
じっと、顔を見あわせています。
井上君は、いま、じぶんは、大きな鏡の前に、立っているのではないかと思いました。
じぶんの前に立っているやつは、顔も服も、なにからなにまで、じぶんとそっくりなのです。
鏡の前に立ったのと、まったくおなじです。
ノロちゃんも、もうひとりのノロちゃんの前に、立っていました。
「きみ、いったい、だれなの? ぼく、ふたごの兄弟なんて、ないんだがなあ。
きみとぼくと、まるで、ふたごみたいだねえ。
」
はいってきたほうのノロちゃんが、たまげたような顔をして、そんなことを、つぶやきました。
すると、怪人は、また、笑いだして、
「ウフフフ……、びっくりしたかい? こんなに、よくにた子どもを、ふたりも、さがしだすのは、よういなことじゃなかったよ。
どちらかが、にせものなんだ。
え、小林君、きみは、いったい、どちらがほんもので、どちらが、にせものだとおもうね。
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