丈夫な黒い絹糸を何十本も縒り合わせて、四十センチぐらいの間隔で大きな結び目がいくつもついているものなのです。
「ぼくらをここに落とした悪者は、もう出かけたに決まっています。上には誰もいません。ぼくが先に登りますから、広田さんもすぐあとから来てください」
小林君は慣れたもので、まるでサルのように細い縄梯子をスルスルと登っていきました。広田は小林君のようにうまくは登れませんが、それでもやっと上の部屋にたどり着きました。
「あいつは、どこへ出かけたんだろう?」
「決まってますよ。明智先生になりすまして、高橋さんの家へ乗り込んだのです。そして、なんとかうまくごまかして、賢二君を連れ出すつもりです。さあ、行きましょう。グズグズしていると、賢二君がどんな目に遭うかもしれませんよ」
小林君はそう言いながら、もう表の方へ駆け出していました。黒いこびと
さて、小林少年が賢二君を助け出すためにどんな計画を立てたのか、それは少しの間おあずけにして、お話を元に戻しましょう。偽の明智探偵によって連れ去られた、自動車の中での出来事です。
運転席に、人間と同じくらいの大きさの巨大なカブトムシが座っているのを見て、賢二君は、麻酔薬で眠っているお父さんの膝に顔を隠してしまいました。
すると、隣に座っていた偽の明智が、賢二君の肩をトントンと叩いて、こう言いました。
「何を怖がっているんだ。よく見てごらん。ほら、ね、何もいないじゃないか」
そう笑いながら言うのです。
賢二君はその声に思わず顔を上げ、恐る恐る運転席の方を見ましたが、これはどうしたことでしょう。そこには、元の運転手がちゃんと座っているではありませんか。恐ろしいカブトムシは、まるでかき消すように姿を消してしまったのです。
では、賢二君は先ほど幻を見たのでしょうか。いいえ、幻ではありません。確かにそれはカブトムシでした。背中に骸骨の模様がある、恐ろしいカブトムシだったのです。
カブトムシは、またしても魔法を使ったのです。あいつは、虫の国の不思議な魔法の力で、思うがままに姿を現したり消したりすることができるのかもしれません。
その間も自動車はずっと走り続けていましたが、やがて西側が森のようになった、とても寂しい道にさしかかりました。
「よし、ここで止めて……」
偽の明智が運転手に命じました。自動車はブレーキの音を響かせて、急に止まりました。
「手を貸してくれ。このおやじさんを、ちょっとこのお社(やしろ)の中へ寝かせておくんだ。朝になれば自然に目を覚ますだろうからね」
怪人物はそんなことを言いながら、運転手に手伝わせて、眠っている賢二君のお父さんを車の外に出し、二人でエッチラオッチラと、暗い森の中へ運んでいきました。
その間に賢二君が逃げ出す心配はありません。運転席には、まだ一人の助手が残っていたからです。そいつが怖い顔で賢二君を睨みつけています。とても逃げ出せる状況ではありません。
それにしても、ここは一体どこなのでしょう。まだ東京を出たばかりとは思えません。さっき偽の明智が「おやしろ」と言ったことからすると、この森は何かの神社を取り囲んだ森なのでしょう。東京の町の中にも、こうした神社の森はいくらでもあるからです。
賢二君のお父さんは、その社殿の縁側にでも置き去りにされるのでしょう。そんなに寒い季節ではないので風邪をひくようなこともないでしょうが、賢二君は心配でたまりません。
その時です。自動車の後ろの方で、なんだか妙なことが起こりました。真っ暗なのではっきりとは分かりませんが、自動車の後ろにある荷物入れの鉄板の蓋が、そっと開いたようです。
そして、その中から小さな黒い人の姿が現れました。黒い小人です。その小人はまず自動車の後輪のところにうずくまって、しばらく何かをしていたかと思うと、スーッと空気が漏れる音がして、タイヤがペチャンコになってしまいました。
小人は次に、もう一つの後ろの車輪、それから前の両方の車輪と、リスのようにチョコチョコと走り回って、あっという間に四つのタイヤをすべてペチャンコにしてしまいました。
あとで分かったことですが、この小人はよく切れる大きなナイフをタイヤの薄いところへ突き刺して、空気を抜いてしまったのです。空気が抜けるたびに自動車がグンと沈むような感じになるものですから、運転席にいた助手の男は「おやっ、変だぞ」と言いながら、ドアを開けて車を調べるために降りてきました。
助手が右側へ回った隙に、小人は左側の後部窓に近づいて、そのガラスをコツコツと叩きました。中にいた賢二少年がびっくりしてガラスの外を見ますと、そこに一人の少年の顔が笑っていました。そして「大丈夫だよ、安心したまえ」と言うように、コクリとうなずいて見せるのでした。
この少年こそ小林君でした。彼は明智探偵事務所を飛び出すと、高橋さんの家に駆けつけて、その表に待っていた悪人の自動車の後ろの荷物入れに忍び込んでいたのです。そして悪人たちが賢二君のお父さんを神社の森へ運んでいる隙に、タイヤを傷つけて車を動けなくしてしまったのです。
さすがは少年名探偵の小林君でした。小林少年は、窓の外から賢二君に「安心するんだよ」と合図を送ると、そのまま一目散にどこかへ駆け出していきました。
一体どこへ行ったのでしょうか。
そこへ、森の中から偽の明智と運転手が戻ってきました。
「おい、何をウロウロしているんだ。どうかしたのか」
助手の男が自動車のまわりをブツブツ言いながら歩き回っているのを見て、偽の明智が声をかけました。
「どうも、わけがわからないのですよ。タイヤが四つともパンクしちゃったんです」
「なんだって、四つともパンクしただと? そんなバカなことがあるもんか。よく調べてみろ。夢でも見たんじゃないか」
怒鳴りつけながら、偽の明智は懐中電灯を取り出してタイヤを調べましたが、いきなり驚いたように叫びました。
「タイヤにナイフを突き刺しやがった! おい、君、その辺に誰か隠れているんじゃないか。タイヤをダメにして、自動車を動けないようにした奴がいるんだ。君はそれに気づかなかったのか!」
叱られて、助手は首をかしげながら、のろまな声で答えました。
「そういえば、なんだか小人みたいなやつが、あっちへ走っていきました。暗くてよくわかりませんでしたが……」
「なにっ、小人だって? それじゃあ、もしかすると……」
偽の明智は、悪人なだけあって頭の回転も速いのです。彼は、地下室に閉じ込めておいたはずの小林少年のことをチラッと思い出しました。
「仕方がない。このまま運転するんだ。なあに、車が壊れたって構いやしない。グズグズしていると、大変なことになっちまう」
偽の明智は急いで後部に乗り込み、運転手にスタートするように命じました。
「ですが、すぐに潰れてしまいますよ。とても遠くまでは行けません」
「構わん。ともかく出発するんだ!」
自動車はガタンガタンと変な音を立てながら動き出しました。
しかし、百メートルも進まないうちに、偽探偵がまたしても恐ろしい声で怒鳴りました。
「止めろ! 車を止めるんだ! 見ろ、向こうの角に変な奴らがいる。
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