初級翻訳・怪人二十面相 第34話

怪人二十面相

」

刑事部長は、びっくりしたように明智を見ました。

「どんな関係があるか、すぐに分かりますよ……。どなたか、お手数ですが中にいる中村警部に、今日昼ごろ裏門の番をしていた警官を連れて、急いでここへ来てくれるようにお伝え願えませんか。」

明智の指示に、館員のひとりが何のことやら分からぬまま大急ぎで階下へ降りましたが、まもなく中村捜査係長とひとりの警官を伴って戻ってきました。

「君が、昼ごろ裏門のところにいた方ですか。」

明智がさっそく尋ねると、警官は総監の前ということもあってひどく改まり、直立不動の姿勢で「そうです」と答えました。

「では、今日の正午から一時ごろまでの間に、トラックが一台、裏門を出ていくのを見たでしょう。」

「はい、お尋ねになっているのは、あの取り壊し家屋の古材木を積んだトラックのことではありませんか。」

「そうです。」

「それならば、確かに通りました。」

警官は、あの古材木がどうしたんです、と言わんばかりの顔つきです。

「皆さん、お分かりになりましたか。これが賊の魔法の種です。うわべは古材木ばかりのように見えていて、その実、あのトラックには盗んだ美術品が全部積み込まれていたのですよ。」

明智は一同を見回して、驚くべき種明かしをしました。

「すると、取り壊しの人夫の中に、賊の手下が混じっていたというのですか。」

中村係長は、目をパチパチさせて聞き返しました。

「そうです。混じっていたのではなく、人夫全員が賊の手下だったのかもしれません。二十面相は早くから万端の準備を整えて、この絶好の機会を待っていたのです。家屋の取り壊しは、確か十二月五日から始まったのでしたね。その着手期日は、三月も四月も前から関係者には分かっていたはずです。そうすれば、十日ごろはちょうど古材木運び出しの日にあたることになります。予告の十二月十日という日付は、こうしたところから割り出されたのですよ。また午後四時というのは、本物の美術品がちゃんと賊の巣窟に運び込まれてしまって、もう偽物だとバレても差し支えないという時間を意味したのです。」

ああ、なんという用意周到な計画だったでしょう。二十面相の魔術には、いつの時も一般人の思いも及ばない仕掛けがちゃんと用意されているのです。

「しかし明智君、たとえそんな方法で運び出すことはできたとしても、まだ賊がどうして陳列室へ入ったか、いつの間に本物と偽物を置き換えたかという謎は解けませんね。」

刑事部長が、明智の言葉を信じかねるように言います。

「置き換えは、昨夜の夜更けにやりました。」

明智は、何もかも知り抜いているような口調で語り続けます。

「賊の部下が化けた人夫たちは、毎日ここへ仕事に来る際に、偽物の美術品を少しずつ運び入れていたのです。」絵は細く巻いて、仏像はバラバラに分解して手、足、首、胴と別々にむしろの包みにし、大工道具と一緒に持ち込めば、疑われる心配はありません。
皆、盗み出されることばかりを警戒していて、持ち込むものには注意を払わないからです。
そうして偽物の美術品はすべて、古材木の山の中に隠され、昨夜の夜更けを待っていたのです。
」
「だが、それを誰が陳列室へ置き換えたのです。
人夫たちは皆、夕方には帰ってしまうではありませんか。
たとえそのうち何人かがこっそり構内に残っていたとしても、どうして陳列室へ入ることができるのでしょう。
夜はすっかり出入り口が閉ざされてしまうのです。
館内には館長さんと三人の宿直員が、一睡もせずに見張っていました。
その人たちに知れぬように、あのたくさんの品物を置き換えるなんて、まったく不可能ではありませんか。」
 館員のひとりが、じつにもっともな質問をしました。
「それにはまた、じつに大胆不敵な手段が用意してあったのです。
昨夜の三人の宿直員というのは、今朝それぞれ自宅へ帰ったのでしょう。
ひとつその三人の自宅へ電話をかけて、本人が帰ったかどうか、確かめてみてください。」
 明智がまたしても妙なことを言い出しました。
三人の宿直員は誰一人として電話を持っていませんでしたが、それぞれ付近の商店に呼び出し電話が通じますので、館員のひとりがさっそく電話をかけてみると、三人が三人とも、昨夜以来まだ自宅へ帰っていないことが分かったのです。
宿直員たちの家族は、こんな事件の最中ですから、今日もそのまま残されているのだろうと、安心していたというのです。
「三人が博物館を出てからもう八、九時間もたつのに、揃いも揃ってまだ帰宅していないというのは、少しおかしいではありませんか。
昨夜徹夜をして疲れた体で、まさか遊びまわっているわけではありますまい。
なぜ三人が帰らなかったのか、この意味がお分かりですか。」
 明智はまた一同の顔をグルッと見回しておいて、言葉を続けました。
「ほかでもありません。
三人は、二十面相一味のために誘拐されたのです。」
「え、誘拐された? それはいつのことです。」
 館員が叫びました。
「昨日の夕方、三人がそれぞれ夜勤を務めるために自宅を出たところをです。」
「え、え、昨日の夕方ですって? じゃあ、昨夜ここにいた三人は……。」
「二十面相の部下でした。
本当の宿直員は賊の巣窟へ押し込めておいて、その代わりに賊の部下が博物館の宿直を務めたのです。
なんてわけのない話でしょう。
賊が見張り番を務めたのですから、偽物の美術品の置き換えなんて、じつに造作もないことだったのです。
皆さん、これが二十面相のやり口ですよ。
人間わざではできそうもないことを、ちょっとした頭の働きで、やすやすとやってのけるのです。」
 明智探偵は、二十面相の頭の良さを褒め上げるように言って、ずっと手をつないでいた館長・北小路老博士の手首を痛いほど、ギュッと握りしめました。
「ウーン、あれが賊の手下だったのか。
うかつじゃった。
わしがうかつじゃった。」
 老博士は白い髭を震わせて、さも悔しそうにうめきました。
両眼がつり上がって、顔が真っ青になって、見るも恐ろしい憤怒の形相です。
しかし、老博士は、三人の偽者をどうして見破ることができなかったのでしょう。
二十面相なら知らぬこと、手下の三人が、館長にも分からないほど上手に変装していたなんて、考えられないことです。
北小路博士ともあろう人が、そんなにやすやすと騙されるなんて、少しおかしくはないでしょうか。

怪盗捕縛

「だが、明智君。」
 警視総監は、説明が終わるのを待ち構えていたように、明智探偵に尋ねました。
「君はまるで、君自身が二十面相ででもあるように、美術品盗奪の順序を詳しく説明したが、それはみんな君の想像なのかね。
それとも、何か確かな根拠でもあるのかね。」
「もちろん、想像ではありません。
ぼくはこの耳で、二十面相の部下から、いっさいの秘密を聞き知ったのです。
今、聞いてきたばかりなのです。」
「え、え、なんだって? 君は二十面相の部下に会ったのか。
いったい、どこで? どうして?」
 さすがの警視総監も、この不意打ちには度肝を抜かれてしまいました。
「二十面相の隠れ家で会いました。

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