マンホールから
お話かわって、こちらは、へいの外のマンホールのそばです。
そこには、ふたりのおまわりさんが、しゃがんで、見はりばんをしていました。
もし、怪人がここからにげようとしたら、つかまえるためです。
「おい、マンホールのふたが動いたようだぜ」
ひとりのおまわりさんが、ささやくようにいいました。
「あっ、そうだ。
動いている。
あいつは、ここからにげるつもりだなっ」
ふたりのおまわりさんは、マンホールのふたが開いて、怪人が頭を出したら、すぐに、とっつかまえてやろうと、身がまえをしました。
鉄のふたは、ジリッ、ジリッと動いて、すきまがだんだん大きくなっていきます。
そのすきまから、声がきこえてきました。
「だれかいませんか。
てつだってください、ひとりでは重いですよ」
なんだかへんです。
怪人ならば、おまわりさんに、てつだってくれなんて、いうはずはありません。
ふたりは、鉄のふたに手をかけて、横にずらしました。
そして、中をのぞくようにして、どなりました。
「だれだっ、そこにいるのは」すると、中から、
「ぼくだよ。ぼくだよといって、ぬっと、顔を出したのを見ると、その頭には、おまわりさんのぼうしをかぶっていました。
怪人ではなくて、なかまのおまわりさんだったのです。
やがて、ふたをぜんぶ開いて、おまわりさんが、はいだしてきました。
「怪人は、いま、このむこうの地下道で、つかまりました。
もう、だいじょうぶです。
ぼくは中村警部さんの用事で、ちょっと、そこまで出かけます」
そういって、いきなり、かけだしていきました。
「つかまったら、もう見はりにもおよばないな」
「いや、いちど、つかまっても、またにげだすことだってある。
やっぱり、ゆだんをしないで、見はっていよう」
ふたりのおまわりさんは、もとのように、そこに、しゃがんで見はりをつづけるのでした。
お面をとれば
ここでまた、地下道にもどります。
手足をしばられて、ころがされた怪人は、へんなことを、どなりつづけています。
「ばかやろう。
さっきから、あんなにいっているのが、きこえないのかっ。
このお面をとってくれ。
そうすれば、すっかりわかるんだ。
はやく、とってくれ」
怪人は、ぴったりと、顔にくっついた、ビニールのお面をかぶっていたのです。
怪人の顔が、いつも、人形のように見えたのは、そのためでした。
お面とわかれば、とれといわれなくても、とって、すがおを見なければなりません。
中村警部は、ころがっている怪人の上に、かがみこんで、ビニールのお面を、かわをむくように、とりさりました。
「あっ、きみは……」
警部が、びっくりして、さけんだのです。
お面の下から、あらわれたのは、警部がつれてきた、部下のおまわりさんの顔だったからです。
「わたしです。
まんまとしてやられました。
さっきから、あれほど、どなっているのに、だれもきいてくれないものだから……」お面をはがれたおまわりさんが、ざんねんそうにいうのです。
中村警部には、すぐに、事のしだいが、わかりました。
怪人はこの警官を、地下道の小べやに、ひっぱりこんで、じぶんの服を着せ、お面をかぶせ、じぶんは警官の服を着て、とっくみあいながら、「怪人をつかまえた」といって、みんなを、よんだのです。
そしてみんなが、怪人の服とお面をつけた警官に、とびかかっているすきに、その場をにげだしてしまったのです。
「そうだっ。
マンホールから、にげたかもしれないぞっ」
警部は、そこへ気がつきました。
そばにいたおまわりさんを、ふたりつれて、すぐに、マンホールへ、いってみました。
マンホールの鉄のふたは、開いたままです。
中村警部は、そこから、はい上がって、見はりのおまわりさんに、声をかけました。
「いま、ここから、警官がひとり、出ていかなかったかね」
「出ていきました。
中村警部さんのいいつけだといっていました」
「きみたちの知らない顔だったね」
「はい、わたしたちはパトロール・カーのものですが、出ていったのは警部さんといっしょにきた人で、顔見知りではありません」
そこから、まちがいがおこったのです。
もし、同じ部の警官ばかりが、きていたら、怪人のばけたおまわりさんは、すぐに見やぶられたにちがいありません。
「その警官が、宝石どろぼうの怪人だったのさ」
中村警部が、がっかりしたように、つぶやきました。
「えっ、あれが怪人ですって。
じゃあ、どうして警官の服を着ていたのです」
「それはね、こういうわけなんだ。
うまい手だよ」
警部は、事のしだいを話してきかせました。
それを聞くと、見はりのおまわりさんは、じだんだふんで、くやしがりましたが、もうあとのまつりです。
葬儀自動車
人形怪人は、おまわりさんにばけて、マンホールから、にげだしてしまいましたが、それより、すこしまえのことです。
中村警部が、怪人をさがすために、おおぜいの警官をつれて、地下道へはいっていったとき、あとにのこった明智探偵と小林少年は、へやのすみへいって、なにかひそひそと、そうだんをしていました。
「ぼくは、野村さんのうちへ、みち子ちゃんを送っていく。
そして、そこに、しばらくいるつもりだ。
もしも、ということがあるからね。
車は中村君のをかりることにするから、きみはアケチ一号を使うがいい。
ぬかりなくやるんだよ」
「ええ、わかりました。
もし、あいつが、いつもの魔法をつかって、逃げだしでもしたら、けっして見のがしません」
そして、ふたりは右ひだりにわかれて、それぞれの自動車へ急いだのですが、このふしぎな会話は、いったい、なにを意味していたのでしょう。
それは、まもなく、わかるときがくるのです。
さて、お話はもとにもどって、マンホールから、逃げだした人形怪人です。警官の服をきて、みんなをごまかしたことは、じきわかるのですから、いつまでも警官服を着たままで、歩いているわけにはいきません。
非常線でもはられたら、いっぺんに、つかまってしまいます。
警官服の怪人は、さびしいやしき町を、いそぎあしで歩いていきます。
角をまがりました。
すこし広い町です。
むこうに、一台の葬儀自動車がとまっています。
怪人は、そのりっぱな葬儀車のほうへ、ちかづいていくのです。
怪人の百メートルほどうしろから、一台の自家用車が、ノロノロと、あとをつけるように進んでいました。
その車は、色もかたちも、アケチ一号にそっくりでした。
怪人は、あやしい自動車に尾行されているなどとは、すこしも知らず、葬儀自動車のそばによると、いきなり、そのうしろのとびらをひらいて、中へとびこみ、また、ピッシャリと戸をしめてしまいました。
葬儀車の中には、あかあかと電燈がついていました。
まんなかに、大きな箱が置いてありましたが、棺桶ではありません。
怪人はそのふたを開きました。
中には、いろいろな服や、着物や、かつらや、つけひげや、化粧道具などが、いっぱいはいっています。
怪人の変装箱なのです。
ああ、なんという、きばつなおもいつきなのでしょう。
これは怪人の変装用自動車だったのです。
そとから見れば、ふつうの葬儀車ですから、だれもうたがいません。
コメント