きみの力なら、あけられるよ」
そこで、ふたりは、そこへ行って、力を合わせて、鉄のふたを持ち上げ、横へずらせて、中をのぞいてみました。
「だれもいないよ」
「おかしいな。
ここのほかに、かくれるところはないんだがなあ」
「あっ、あれ本だよ。
さっき女の子が読んでいた本にちがいないよ」
マンホールの底に、一さつの少女小説の本が落ちていました。
「あの本が落ちているからには、ここへかくれたにちがいない。
だが、それから、どうしたんだろう。
そとへ出たら、ぼくらにみつかるから、出たはずはない。
きっと、このあなの中に、ひみつの道があるんだよ。
よしっ、さがしてみよう」
井上君は、そう言って、マンホールの中へ、おりようとしました。
「あっ、ちょっとまちな。
こういうときは、BDバッジを、道に、まいておくほうがいいよ。
ぼくらの身に、もしものことがあったときの用意にね」
BDバッジというのは、少年探偵団の銀色のバッジで、団員たちは、いつでも、そのバッジを、二十も三十も、ポケットの中にいれているのです。
それにはバッジのほかに、いろいろの使いみちがあって、いまのように、団員があぶない場所へはいるとき、そのいりくちに、ばらまいておいて、味方に知らせるという、使いかたもあるのです。
ふたりは、それをばらまいてから、マンホールの中へ、おりていきました。
そして、おそろしいひみつを発見するのです。
ああ、そのひみつとは、いったい、どんなことでしょうか?
地獄の入り口
少年探偵団の井上少年とポケット小僧は、野村みち子ちゃんという少女を、うそをついて、どこかへつれていく、あやしい男のあとをつけていきました。
その男は、少女といっしょに、さびしい町のマンホールの中へ、消えてしまったのです。
二少年は、そのマンホールの、重いふたを、わきにずらせて、中へおりてみました。
「あれっ、へんだね。
これは水道や下水やガスのマンホールじゃないよ。
鉄管なんかどこにもないんだもの」
「うん、ひょっとしたら、悪者が、かってに造ったマンホールかもしれないね。
そして、ここを、秘密の出入り口に使っているんだよ」
「それなら、どこかに、奥へ行ける道があるはずだね」
ふたりは、マンホールの底に立って、回りのかべを調べました。
すると、目の前のコンクリートのかべに、スーッと、細いわれ目が、できてきました。
そして、それが、だんだん、太くなっていくではありませんか。
「あっ、かくし戸だっ。
向こうへ、開いていく」
それは四角いコンクリートのドアでした。
なにもしないのに、それが、ひとりでに開いていくのです。
悪者が、わざと、中から開いているのかもしれません。
二少年は、ここで用心しなければならなかったのです。
うっかりすると、敵のわなに落ちるかもしれないからです。
しかし、井上君もポケット小僧も、大たんな少年ですから、にげだすことなど少しも考えません。
かくし戸が開いたのをさいわいに、すぐ、その中へ、もぐりこんでいきました。
まっくらです。
ふたりとも万年筆型の懐中電燈を持っていましたから、それを出して、照らしてみました。
だれもいません。
コンクリートのかくし戸は、電気じかけで、遠くから、あけたり、しめたりできるのかもしれません。
くらいトンネルのような横穴を、しばらく行くと、またドアがあって、それも、ひとりでに、すうっと開きました。
ドアの向こうは、小さいへやのようになっていて、血のように赤い電燈が、ぼんやりついていました。
「うふふふふ……やってきたね。
待っていたよ。
いま、きみたちに、おもしろいものを見せてやるぞ」
しゃがれた、低い声が聞こえてきました。ぎょっとして、へやのすみを見ると、そこのいすに、なんともいえない、きみのわるいやつがこしかけていました。
頭には、もじゃもじゃと、しらががみだれ、白いあごひげが、胸をかくし、せなかは二つに折れたように曲がった、八十ぐらいのじいさんです。
それが、こじきのような、ぼろぼろの服をきて、うずくまっているのです。
「きみはだれですかっ」
井上少年が、少しもおそれないで、たずねました。
「わしは地の底のぬしじゃよ」じいさんのしゃがれ声が、答えます。
「ここへ、人形みたいな顔の男の人が、小さい女の子を連れて、はいってきたでしょう」
「うふふふふ……はいってきたよ。
だが、きみたちは、それをどうしようというのだね。
女の子を助けにきたのかね」
「そうです。
女の子は、かどわかされたのです。
ぼくたちは、それをたしかめて、警察に知らせるのです」
「うふふふふ……なかなか、勇気のある子どもたちじゃ。
そんなら、奥へはいって、調べてみるがいい。
だが、用心しなさいよ。
ここは地獄の入り口だ。
いろいろなおそろしいものがいるぞ。
うふふふふ……おそろしいものがね」じいさんは、それっきり、からだを二つに折るようにして、うつむいたまま、だまりこんでしまいました。
二少年は、少しきみがわるくなってきました。
「ね、もうわかったから、そとへ出て、警察に知らせようよ」
ポケット小僧が、そっとささやきました。
井上君も、その気になって、さっきはいってきたドアのところへ、かけよりましたが、押しても、引いても、ドアが開きません。
がんじょうな、ドアですから、いくら井上君の力でも、どうすることもできません。
「あっ、ぼくらは、とじこめられてしまった」
そうです。
もう、そとへ出られなくなってしまったのです。
「しかたがない。
奥へはいってみよう。
奥には、どっかへぬけられる道があるかもしれない」ふたりは、そのへやの小さい出入り口から、奥へ、ふみこんでいきました。
たるの中
また、トンネルのような穴を、五メートルほどすすむと、小さなドアがあって、べつのへやに出ました。
さっきと同じぐらいの、コンクリートかべの、せまいへやです。
「あっ、いけない。
また、ドアがしまっちゃった」ポケット小僧がさけびました。
いま、はいってきたドアが、いつのまにか、ぴったりしまって、いくら引いても、開かないのです。
「あははは……」どこかから、わらい声が、ひびいてきました。
さっきのじいさんではありません。
もっとしっかりした声です。
「そのドアは、もう開かないよ。
きみたちは、とりこになってしまったのだ。
きみたちに、見せるものがある。
ほら、ここだ。
へやのすみだ。
大きなたるがおいてあるだろう。
見えたかね。
そのたるの中に、なにがはいっていると思うかね。
うふふふふ……」
天井から、小さなはだか電球がさがっていて、へやの中を、ぼんやりと照らしています。
そのへやのすみに、ビールだるのようなものが立ててありました。
ほかには、なんにもなくて、たるだけが、ぽつんと、置いてあるのです。
二少年は、そのみょうなたるを見て、顔を見あわせました。
「なにがはいっているんだろう。
……あっ、ひょっとしたら……」
井上君が、言いかけて、息をのみました。
「うん、そうかもしれない。
さっきの女の子があの中に……」
ポケット小僧も、ちゅうとで、ことばをきりました。
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