初級翻訳・大金塊 第30話

大金塊

そしてまたマッチをすって、ふたりが顔をくっつけるようにしてそれをながめました。
「きれいだね。金だから、ちっともさびないんだね」
「そうだよ。明治維新といえば、今から七十何年も昔のことだろう。こんなにたくさんの金が、七十年のあいだだれにも知られないで、ここにかくしてあったんだね」
「この箱の中に、小判が何枚はいっているんだろう。千両箱だから、千枚かしら」
「もっと多いよ! 見たまえ、こんなにいっぱいつまっているんだもの、二千枚だってはいるよ。それから、小判ばかりじゃなくて、ほかの箱にはきっともっと大きい形のものもはいっているんだよ」金の棒やかたまりもはいっているんだよ。
」
「いったい、この箱いくつあるんだろう。
」
「かぞえてみようか。
」
 ふたりの少年は、もう夢中になって、また何度もマッチをすり、箱の数を数えはじめましたが、めちゃくちゃに積み重なっているものだから、本当の数なんてとてもわかりません。
「やめよう。
こんなことをしていたらマッチがなくなっちゃうよ。
それよりぼくらは、このほら穴から外に出ることを考えなきゃいけないんだ。
いくら金貨を見つけても、外に出られなかったら、なんの意味もないんだからね。
」
 小林君は、ふとそれに気づいて、マッチをすることをやめました。
まったくその通りです。
せっかく宝ものを見つけても、宝ものといっしょにここでうえ死にしてしまったら、なんの役にも立ちません。
「そうだねえ。
お父さんや明智さんは、いまどこにいるんだろう。
」
 不二夫君も、がっかりしたような声で、さびしそうにつぶやきました。
あたりは再び、墨を流したような真っ暗やみにもどりました。
ふたりはその暗やみの中に立ちすくんだまま、もう声を出す元気もなく、だまりこんでしまいました。
「もしこの地の底の迷路から、いつまでも出ることができなかったとしたら……。
」それを考えると、金貨を見つけた喜びも、どこかへどこかへとんでいってしまうのです。
ところが、ふたりがそうして、だまりこんで立ちすくんでいたとき、とつぜんどこからか、チラッとまるで稲妻のような強い光が、むこうの岩壁を照らし出しました。
ふたりはハッとして、思わず体をすりよせ、手をぎゅっと握り合いました。
あまりに突然のことで、声を出すこともできないほどびっくりしたのです。
すると、またしても、チラチラと青白い光が、岩壁をつたって走りました。
「あっ!
わかった。
あれは懐中電灯の光だ!
」
 小林少年が、不二夫君の手をぐっと引きよせて、小声でささやきました。
「あ、本当だ。
懐中電灯だ!
じゃあ、もしかしたら……。
」
 不二夫君も胸をわくわくさせながら、ささやきかえしました。
それはふたりが考えた通り、懐中電灯の光だったのです。
その広いほら穴のむこうがわの入り口から、何者かが懐中電灯をあてながら、近づいてきたのです。
不二夫君はとっさに、その懐中電灯の持ち主は、お父さんの宮瀬さんと明智探偵にちがいないと思いました。
小林少年も同じ気持ちでした。
「ちょうどいいタイミングで、宝ものを見つけたところへ、ふたりのおとながやって来るなんて、なんてしあわせなんだろう。
」と、うれしさに胸をドキドキさせて、そのほうへかけだそうとしました。
覆面の首領

 ところが、今まさにかけだそうと身をかまえたふたりの少年の耳に、奇妙な声が聞こえてきました。
まったく思いもよらない、聞いたことのない声なのです。
「へへへへへへ、うまくいったなあ。
あいつら四人は、今ごろ道に迷って、べそをかいているころだぜ。
」
「そうだなあ。
運の悪い連中だ。
宝ものがこんな手近なところにかくしてあるとは知らずに、別の穴へ迷いこんじゃったんだからな。
さすがの名探偵も、こんどばかりは運のつきだな。
道しるべのひもを切られてしまっては、とてもあの穴から出られっこないからね。
フフフフフフ、ざまあみろってんだ。
」
「いやあ、まさかこんなにうまくいくとは思わなかったぜ。
あいつらのあとをつけて、このほら穴に忍びこんで、ひょいと別の脇道へ入ってみたら、たちまち千両箱の山につきあたったんだからなあ。
神さまが、おれたちの味方をしてくれてるんだぜ。
」
「ハハハハハハハ、神さまじゃなくて、この岩屋島に住んでいる鬼のご利益(ごりやく)かもしれないな。
それにしても首領の運の強さにはおどろくよ。
」
 そんなことをガヤガヤとしゃべりながら近づいてきているのは、ひとりやふたりではなく、どうやら四、五人の荒くれ男のようです。
ふたりの少年はこの会話を聞いて、ハッと体をちぢこませました。
味方だと思いこんでいたのは大まちがいで、恐ろしい敵だとわかったからです。
話のようすでは、大金塊を横取りしようとして四人の探検隊のあとをつけてきたらしく、道しるべのひもを切ったのもこいつらのしわざだったのです。
四人がちがう脇道へ迷いこんでいるあいだに、こいつらは運よく正しい道を見つけだし、とっくに宝ものを見つけていたというわけです。
そして、千両箱を外へ運びだすために、人数をそろえてもどってきたにちがいありません。
なんだって、こいつらに見つかったら一大事です。
明智探偵の仲間だと知れたら、どんなひどい目にあわされるかわかったものではないからです。
小林少年は一言もしゃべらず、不二夫君の手をひっぱって、もとのせまい穴へと急いで逃げこみました。そのせまい穴には海の水が流れこんでいて、奥へ行くほど深くなるのですが、そんなことにかまってはいられません。
ふたりは、またしても、ひざのへんまであるつめたい水の中へ、はいっていかなければなりませんでした。
そして、その穴の奥から、そっとのぞいて見ますと、あらくれ男たちは、もう千両箱の山の前にひとかたまりになっていて、これから、それをはこびだそうとしているところでした。
かぞえてみれば、男たちは五人づれであることがわかりました。
みな、力の強そうなおそろしい顔つきの大男の中に、ひとりだけ少し小がらな、みょうなまっ黒な服装をした人物がまじっていました。
どうやらそれが悪者どもの首領らしいのです。
やがて、ひとりの男が身動きするひょうしに、その男の手にしていた懐中電灯が、首領らしい小男の顔をてらしました。
すると、その光の中へ、人間の顔ではなくて、なんともえたいの知れないみょうなものがあらわれたのです。
まっ黒な化け物です。
目と口のところだけが、三つの穴のように白くなって、そのほかは、耳も鼻もなにもないまっ黒な顔をしているのです。
小林君はそれを見て、ギョッとしましたが、しばらくすると、その小男が、お化けよりも、もっとおそろしいやつであることがわかりました。
そいつは、まっ黒な顔ではなくて、黒布で覆面していたのです。
黒布の目と口のところだけがくりぬいてあったのです。
読者諸君も、もうおわかりでしょう。
それは女だったのです。
このお話のはじめのほうで、小林君を地下室にとじこめた悪者たちの女首領だったのです。
ロシア人の着るルパシカに似た黒服といい、覆面のかっこうといい、あの地下室の女首領とそっくりだったのです。
ああ、なんという執念ぶかい悪者でしょう。

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