「そうじゃないよ。
今ぼくがもぐって、しらべてきたばかりだもの。
まだ水はおそろしいいきおいで流れこんでいるんだよ。
へんだなあ。
いったいどうしたんだろう。」
さすがの小林君も、このきみょうな水の動き方を、どう考えてよいのか、すこしもわかりませんでした。
なんとなく、うすきみが悪いのです。
またしても、何か思いもよらぬおそろしいことが起こるのではないかと、心臓がドキドキするばかりです。
水の動き方はだんだんはげしくなってきました。
たしかに一方にむかって流れているのです。
おそろしいいきおいで流れているのです。
ふたりはまた手を取りあって、流されまいと、ぎゃくに泳いでみましたが、だめでした。
急流のような早い流れにさからうことはできません。
それは流れているというよりも、どこかへすいよせられているような感じでした。
ほら穴の中の水が、四方から、ある一ヵ所にむかって、うずまきのようになって、すいよせられているのです。
いったいこれはどうしたというのでしょう。
何物が、こんなおそろしい力で、水をすいよせているのでしょう。
ふたりの少年は、べらぼうに大きなまっ黒な怪物を想像しないではいられませんでした。
その怪物が大きな口を開いて、ほら穴の中の水を、ひとのみにしようとしている姿を思いうかべて、ほんとうにふるえあがってしまいました。
宝の穴
流れるといっても、わずか五メートル四方ぐらいのほら穴の中ですから、そこを一方にむかって流れていけば、たちまち岩の壁につきあたるはずです。
ところが、ふしぎなことに、ふたりはくらやみの中を、ぐんぐんとおし流されているのに、どうしたわけか、少しも岩にぶつからないのです。
ほら穴がきゅうに広くなるはずはありませんし、じつにみょうなことが起こったものです。
ふたりはむがむちゅうでもがいていましたが、すると、手足が水の中で、何かかたいものにさわっているのに気がつきました。
小林君は、思わず水の中でよつんばいになって、それから、力をこめて立ちあがってみました。
すると、これはどうでしょう。
水の深さは、もものへんまでしかないことがわかりました。
ちゃんと立っていられるのです。
「不二夫君、浅いよ。
浅いよ。
だいじょうぶだから立ってごらん。
立てるんだから。」
その声にはげまされて、不二夫君も立ちあがりました。
水はぐんぐん一方に流れていますけれど、足をさらわれるほどではありません。
立ったひょうしに、思わずそのへんを手さぐりしますと、両がわとも、手のとどくところに、岩の壁があることがわかりました。
「あ、わかった。
これはぬけ穴なんだよ。
こんな高いところに、岩のさけめができていたんだ。
そこへ水が流れこんでいるんだよ。」
小林君がさけびました。
「そうだ。
じゃ、ぼくらはたすかったんだね。」
不二夫君も、うれしそうな声をたてました。
ほら穴の天井に近いところに、思いもよらぬぬけ穴があって、ほら穴にあふれた水が、そこへ流れていたのです。
水は、ふたりの少年をおぼれ死にさせないで、かえって、そのいのちをすくったのです。
しかし、まだ安心はできません。もしこのぬけ穴が、すぐに行きどまりになっていたら、やっぱりそのうち水でいっぱいになってしまうかもしれないからです。
「あ、そうだ! こういうときの用意に、ぼくはマッチをだいじにとっておいたんだ。ねえ、不二夫君、ぼくはマッチをぬらさないように、ドロップのあきかんに入れて、腹巻きの中へしまっておいたんだよ」
小林少年は、じまんそうに言って、ぬれた腹巻きからあきかんを取りだし、ポンと音をさせてそのふたを開けました。
シュッという音といっしょに、たちまち、目の前が昼のように明るくなりました。
暗やみに慣れた目には、一本のマッチの光が、おそろしく明るく感じられたのです。
いそいであたりを見まわすと、そのぬけ穴はむこうのほうほどせまくなってはいますが、行きどまりではないことがわかりました。
「きみ、あっちへ行ってみよう」
小林君は、もえきったマッチをすてて、穴の奥へ進んでいきます。
不二夫君もそのあとにしたがいました。
五メートルも水の中をジャブジャブ進むと、穴はずっとせまくなって、腰をかがめてやっと通れるほどでしたが、そのせまいところを手さぐりでまた二メートルもはいっていくと、とつぜん両がわの岩がなくなって、広い場所に出ました。
小林少年はそこで立ちどまって、もう一度マッチをすってみましたが、さいぜんのほら穴の倍もある、広い洞くつであることがわかりました。
「不二夫君、ぼくらは助かったよ! いくら海水がおしよせたって、この広いほら穴をいっぱいにすることはできないからね」
見れば、水はやっと足首をかくすくらいに浅くなって、流れかたもずっとおそくなっているのです。
「やっぱり、泳いでいてよかったねえ。きみがはげしてくれたからだよ」
不二夫君とうとうしさに、ギュッと小林少年の手をにぎりしめるのでした。
そして、ふたりは広いほら穴の中を見まわしていましたが、小林君のかざしていたマッチがいま消えようとするとき、不二夫君がびっくりするような声でさけびました。
「あ、なんだかあるよ! きみ、あすこにへんなものがあるよ!」
「え、どこに?」
ききかえしたときにはもうマッチが消えてしまったので、小林君はまた一本新しくマッチをすって、不二夫君の指さすほうをてらして見ました。
遠いのでよくわかりませんが、どうも岩ではなさそうです。
なんだか四角いものが、うじゃうじゃとかたまっているのです。
ふたりはいそいでそのみょうなものに近づいていきました。
とちゅうでまたマッチが消えたので、小林君はもう一度それをすわなければなりません。
まぢかに近よって、マッチの光でよく見ると、それはやっぱり岩ではなくて、何十何百ともしれぬ木の箱が、山のようにつみあげてあることがわかりました。
みかん箱を平べったくしたような形の、じょうぶそうな木の箱で、板の合わせめには、黒い鉄板が帯のようにうちつけてあります。
「あ、これ、昔の千両箱じゃない?」
不二夫君にとんきょうな声でさけびました。
「うん、そうだ! 千両箱とそっくりだ。あ、これだよ! これだよ! きみの先祖がかくしておいた金のかたまりっていうのは、これなんだよ!」
小林君も、思いもよらぬ大発見に、われをわすれてさけびました。
ほんとうを言うと、その箱は昔の千両箱よりもずっと大きく作ってあったのですが、ふたりの少年はそこまでは気がつかないのです。
それから、ふたりは何本もマッチをすって、むちゅうになってこのおびただしい箱の山を見まわしていました。
やがて、またしても、不二夫君がとんきょうなさけび声をたてました。
「きみ、見たまえ! ここだよ。ほら、箱がやぶけて、ほら、こんなにぴかぴか光ったものが……」
小林君がマッチを近づけてみると、一方のすみの箱のふたにさけめができて、そのすきまから中のものがきらきらと見えているのでした。
「あ、小判だ! 昔の金貨だよ!」
小林君はそのせまいすきまからやっと指を入れて、四、五枚の小判を取りだしました。
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