お父さんと一郎君、それに二人の青年を合わせた四人で、応接間の中をくまなく調べましたが、どこにも怪しいところは見つかりません。
抜け穴はもちろん、人間が隠れられるような場所もありませんし、黄金のトラも見つかりませんでした。
一郎君は急いで小林団長に電話をかけましたが、どこかへ出かけているようで留守でした。
小林少年は、一体どこに行ってしまったのでしょうか。
家の中は大騒ぎになりましたが、相手は普通の泥棒ではないので、警察に届けるわけにもいきません。
みんなただ、「不思議だ、不思議だ」と言い合うばかりでした。
すっかり時間が経ち、午後六時ごろのことでした。
みんなが応接間に集まっているところへ、なんと、一郎君が学校のカバンを肩に下げて入ってきたのです。
そして、とても奇妙なことを言い出しました。
「お父さん、白い犬のぬいぐるみは?」
お父さんはびっくりして、一郎君の顔をまじまじと見つめました。
「おまえ、何を言っているんだ。白い犬は、さっきバラバラに壊してしまったじゃないか」
「えっ、壊しちゃったの? それじゃあ、もしかして、あれを盗まれてしまったんじゃないですか?」
いよいよ、おかしなことになってきました。
一郎君は、頭がおかしくなってしまったのでしょうか。
「おまえ、学校のカバンなんか下げて、一体今までどこに行っていたんだ?」
「ぼく、学校から帰る途中で、無理やり自動車に乗せられて、猿ぐつわをはめられて、変な家へ連れていかれたんです。そして今、自動車でうちの近くまで送られて目隠しを外されたんだけど、そのときにはもう、自動車はどこかへ走り去ってしまって、影も見えなかったんです」」
それから、午後四時には、一郎君とそっくりの少年が、白犬をだきしめて、応接間にいたのだと聞かされて、一郎君はびっくりしてしまいました。
「そいつは、ぼくのにせものです。
魔法博士が、ぼくをへんなうちへ、とじこめておいて、そのまに、ぼくとよくにた子どもに、変装をさせて、ここへよこしたのです。
ぼくにばけた子どもが、白犬をだきしめているあいだに、ぬいめをといて、黄金のトラを盗んだのです。
おとうさん、そのぼくとそっくりの子どもを、応接間に、ひとりぼっちにしておいたことはありませんか。
」
「そういえば、わしが手洗いへいくあいだ、ひとりぼっちになっていた。
さては、あのときに、盗みだしたんだな。
」
おとうさんも、やっと、そこへ気がつきました。
それなら、一郎のからだをしらべればよかったと思っても、もうあとのまつりでした。
そのとき、またチリリリ……と、電話がかかってきました。
おとうさんが受話器をとると、さっきと同じしわがれ声で、
「どうです、魔法博士の手なみは? あんなによくにた子どもが、ほかにいるとは思わなかったでしょう……。
」
魔法博士の電話の声が、つづきます。
「わしのおおぜいの少年の弟子のなかから、あんたのむすこさんと、よくにた子どもをさがしだし、その少年の顔を、わしのとくいの変装術で、一郎君とそっくりにばけさせた。
それから、きょう、一郎君をわしのうちへつれてきて、一郎君の口のききかたや、みぶりを、その少年におぼえさせたのです。
ハハハ……、どうです。
わしの魔法の力が、わかりましたか。
さあ、こんどは少年探偵団が、黄金のトラを取りかえすのだ。
一郎君に、そうおつたえください。
」
そして、プッツリ電話がきれました。
さて、お話は、すこしまえにもどります。
その日の、午後三時すぎから、井上さんのうちのまわりに、ふしぎなことが、おこっていました。
井上さんの門の前には、こじきのようなきたない少年が、へいにもたれていねむりをしていました。
その横のポストのうしろには、酒屋の店員のような子どもが、身をひそめていました。
裏門のそばの電柱のかげや、そのむこうのゴミ箱のかげにも、新聞配達とか、牛乳配達のような少年が、かくれていました。
それらはみんな、少年探偵団員の変装なのです。
鍾乳洞
八人の少年が、いろいろの変装をして、井上さんのうちのまわりを、見はっていたのです。
また、そこから百メートルほどの町かどに、一台の自動車がとまっていましたが、そのうしろの、荷物をいれるトランクのなかには、団長の小林少年が、やっぱり店員にばけて、身をひそめていたのです。
運転手のゆだんを見すまして、そっとしのびこんだのでしょう。
自動車のとまっている近くに、公衆電話のボックスがありました。
三十五―六に見える会社員らしい男が、ボックスのなかにはいって、電話をかけています。
その電話ボックスの外に、ひとりの少年が、小さくなってかくれていました。
店員らしいふりをしていますが、顔は野呂一平君とそっくりです。
あいきょうもののノロちゃんにちがいありません。
男は電話をかけおわると、ボックスを出て小林少年のかくれている自動車にのりこみました。
すると、うしろのトランクのふたが、五センチほど、そっと開いて、なかから、小林君の目がのぞきました。
ボックスのかげにいるノロちゃんらしい少年が、それにむかって、しきりに手まねをして見せています。
あやしい男が、自動車にのったことを、知らせているのでしょう。
そのあいずを見ると、トランクのふたは、そっとしまりました。
しかし、自動車はまだ出発しません。
だれかを待っているようです。
しばらくすると、井上さんのうちのほうから、一郎君とそっくりの少年が、いそぎ足にやってきて、キョロキョロと、あたりを見まわしながら、怪自動車に近づきました。
すると、さっき電話をかけた男が、自動車のドアを開き、ニューッと手をのばして、一郎君とそっくりの少年を、なかへ引っぱりこんでしまいました。
ふたたび、トランクのふたが、そっと開いて、小林君の目がのぞきました。
ノロちゃんもまた、ボックスのかげから、手まねをして見せました。
少年がのりこんだことを知らせているのです。
自動車は出発しました。
それが、むこうの町かどに消えると、ノロちゃんは、電話ボックスのかげからとびだしてきました。
そこへ、どこからともなく、いろいろの変装をした少年たちが集まってきて、口ぐちに、ささやきあうのでした。
「いまごろ、一郎君が自動車にのって、どっかへいくなんて、なんだか、おかしいね。
」
「うん、あいつ、一郎君のにせものかもしれないぜ。
」
電話をかけた男は、魔法博士が変装していたのです。あとから自動車にのりこんだのは、一郎君にばけた博士の弟子の少年でした。
ですから、少年の服のどこかに、あの黄金のトラがかくされていたはずです。
博士と少年とは、宝物を取りかえして、秘密の場所へかくそうとしているのです。
いったい、この自動車は、どこへいくのでしょうか。
小林君は、はやくも、それをさっして、トランクのなかへ、かくれたのですが、ノロちゃんの手まね信号で、いっそうはっきりしました。
さすがの魔法博士も、じぶんの自動車に、敵の団長がしのびこんでいようとは、夢にもしりません。
小林君は、どこまでもあとをつけて、黄金のトラのかくし場所を、たしかめてやろうと決心しているのです。
自動車は一時間走っても、まだとまりません。
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