初級翻訳・探偵少年 第6話

探偵少年

小林君は、せまいトランクのなかで、からだをまげているので、だんだん、肩や腰がいたくなってきました。
もう東京の町をはなれたらしく、道がわるくなってきたのが、わかります。
そのうちに、のぼり坂になりました。
右に左に、きゅうカーブを切りながらのぼっていきます。
東京を遠くはなれた、山のなかを走っているらしいのです。
自動車がカーブを切るたびに、小林君のからだは、トランクのなかでゴロゴロところがり、どこかをうちつけるので、もうとても、がまんができないと思いましたが、そのうちに、やっと速度がにぶくなり、自動車はピッタリと、とまりました。
腕時計の夜光の針を見ますと、もう七時に近いのでした。
外は、まっ暗な夜になっているのでしょう。
自動車がユラユラとゆれて、だれかがおりていったようです。
小林君は、トランクのふたをそっともちあげて、外をのぞきました。
まっ暗です。
そして、すがすがしい木の葉のにおいが吹きこんできました。
やっぱり山のなかなのでしょう。
敵に見つかっては、たいへんですから、用心に用心をして、ふたを大きくひらき、あたりを見まわしました。
それから、そっとトランクを出て、暗やみをさいわいに、地の上をはうようにして、自動車のよこにまわり、なかをのぞいて見ますと、魔法博士も少年も運転手も、だれもいないことがわかりました。
三人が、どこかへ、黄金のトラをかくしにいったのに、ちがいありません。
そこは、深い山のなかでした。
自動車のヘッドライトが消してあるので、あたりはしんのやみです。
三人が、まだ、そのへんにいるのではないかと、やみをすかして見ましたが、なんのけはいもありません。
ふと気がつくと、むこうのほうに、人だまのような赤い火が、ボーっと見えていました。
気味がわるいけれども、勇気をふるって近づいてみますと、それは小さな山小屋で、石油ランプのあかりが、窓のしょうじに、うつっているのでした。
あかりがついているからには、人間がすんでいるのだろうと、小林君はその小屋の前に立って、板の戸を、コツコツとたたきながら、声をかけました。
「おじさん、ちょっと、ここをあけてください。
」
すると、ゴホンゴホンと、せきの音がして、「だれじゃ。
」といいながら、ひとりのじいさんが、戸を開きました。
それは、もう六十ちかい、ひげむじゃのじいさんでした。
木こりか炭焼きなのでしょう。
「ぼく、友だちと、はぐれてしまって、道がわからなくなったんです。
ここは、いったい、どこですか?」
「ここかね、ここは西多摩郡のはずれの山のなかだよ。
なだかい鍾乳洞の近くだ。
昼間はバスも通るところだよ。
」
その鍾乳洞のことは、小林君もきいていました。
よく学生がおおぜいで、探検にいくところです。
岩山にほら穴があって、そのなかは、八方に枝道が、わかれている、あの地底の迷路なのです。
「さては、魔法博士たちは、その迷路のなかへ、黄金のトラをかくしにいったんだな。
」
小林君は、じいさんに、鍾乳洞への道をきいて、暗やみのなかを、そのほうへ、たどっていきました。
けわしい坂道を三百メートルものぼると、やみの中に、やみよりも黒い大きな岩穴が、ポッカリと、口をひらいていました。
鍾乳洞の入口です。
そっとのぞいて見ると、ずっとおくのほうに、懐中電灯のひかりが、チロチロと動いていました。
「たしかに、そうだ。
しかし、魔法博士たちが帰ってしまっても、ぼくひとりでは、迷路にまよって出られなくなるかもしれない。
そうだ。
つぎの日曜日に、いろいろな道具を用意して、団員たちと、鍾乳洞探検旅行にくることにしよう。
そして、みんなのちからで、黄金のトラのかくし場所を、みつけ出すことにしよう。
」
小林君は、そう心にきめました。
鍾乳洞の怪物

きょうは日曜日です。
いよいよ少年探偵団が、奥多摩の鍾乳洞を探検に出かける日です。
団長の小林君と、ノロちゃんと、井上一郎君のほかに、からだのじょうぶな団員ばかり七人、そうぜい十人の探検隊です。朝はやく新宿駅に集合して、電車にのり、べつの電車にのりかえ、それからバスにゆられて、十時ごろに、鍾乳洞のそばの山小屋につきました。
山小屋の戸が開いていたので、なかをのぞきますと、このあいだのじいさんが、火のないいろりの前に、あぐらをかいて、キセルのタバコを、スパスパすっていました。
「やあ、おめえら、鍾乳洞を見物にきただか。
気いつけるがええだぞ。
あんなかには、枝道があって、まよったら、出られなくなるだからな。
」
「だいじょうぶですよ。
ぼくたち、ちゃんと用意してきたんです。
百メートルもある強いひもの玉を、三つも持ってるんです。
このひもを、入口にくくりつけて、それをつたって、はいりますから、道にまよう心配はないのです。
」
そのほかに、懐中電灯が六個、登山ようのピッケルが三本、そして、みんなが、おべんとうと、水筒と、呼び子の笛を持っているのでした。
「おじいさんは、猟師ですね。
」
小林君が、小屋の壁にかけてある猟銃を見て、いいました。
「うん、猟師が本職だ。
この山にはクマがいるでね。
このあいだも、大きなやつを、一ぴき、しとめたとよ。
ときによると、クマのやつ、鍾乳洞の近くまで、のこのこ出てくるだ。
」
じいさんは、そういって、にやにや笑いました。
少年たちは、びっくりして顔を見あわせました。
「ハハハ……、なあにしんぺえするこたあねえ、めったに出ねえだ。
出ても人の通る道ばたにゃ近づかねえ。
おめえら、そんなにおおぜいだから、クマのほうで逃げっちまうだよ。
……まあ、気いつけていくがええ、クマよりゃ、穴のなかで、まよわねえようにな。
」
そこから鍾乳洞までは、三百メートルほどの、けわしい山道です。
このあいだの晩、小林君は魔法博士を見うしなっては、たいへんだと思って、むちゅうで登りましたが、クマが出るときくと、なんだか、気味がわるくなってきます。
十人の少年たちは、大きな木におおわれたうす暗い山道を、一列になって、少年探偵団の歌をうたいながら登っていきました。
「キャーッ!」
山のぼり用の道のまんなかから、とつぜん、びっくりするような悲鳴が、おこりました。
みんなが、そこへ駆けよってみますと、ノロちゃんが、まっさおになっているのです。
「うすぐろいやつが、そこのササッパのなかから……。
」
といって、道ばたのクマザサを指さしました。
「クマの子どもじゃない?」
「うん、そうかもしれない。
ぼくにとびかかって、サッと、あっちのしげみに、かくれてしまったよ。
」
それをきくと、ノロちゃんのあとにいた井上君が、ワハハハと笑いだしました。
「なんだい、弱虫だなあ。
あれはウサギだよ。
茶色のウサギが、道をよこぎったんだよ。
」
「なあんだ、ウサギかあ!」
「ノロちゃんはクマが出やしないかとビクビクしてるもんだから、クマの子に見えたんだよ。
ねえ、ノロちゃん、ぼくがついてるから、だいじょうぶだよ。
クマが出たら、金太郎みたいに、ぼくがねじふせてやるからね。
」
おとうさんがボクシング選手だけに、井上君は、腕にじしんがあるのでした。
いよいよ鍾乳洞の入口につきました。

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