初級翻訳・探偵少年 第7話

探偵少年

大きなほら穴が、ガッと、まっ黒な口を開いています。
このなかへはいるのかと思うと、勇敢な少年団員たちも、すこしばかり、こわくなってきました。
「さあ、井上君、きみがいちばん力が強いんだから、このひもの玉を持つんだよ。
まず、ひものはじを、その岩へ……。
」
「よし、ここへ、しっかり結びつけるよ。
」
井上少年は、ひものはじを、岩のでっぱったところへ、くくりつけました。
「さあ、出発だ。
電池がきれるといけないから、懐中電灯は半分ずつ、つけることにしよう。
きみと、きみと、三人だけ。
」
そして、十人の少年は、小林団長をさきにたてて、どうくつへふみこんでいきました。
三つの懐中電灯のまるい光が、ゴツゴツした岩はだを、つぎつぎとてらしていきます。
足の下もでこぼこ岩ですから、よほど気をつけないと、ころびそうです。
井上少年は、ひもの玉を、だいじにかかえて、うしろからついていきます。
くねくねとまがった道を、すこしいきますと、岩穴のてんじょうに、まっ白なものが見えました。
「あっ、鍾乳石だ。
ほら、上から白い鍾乳石が……。
」
どうくつのてんじょうから、きれいなまっ白な石が、ツララのように、いくつもたれさがっていました。
「あっ、下にもあるよ。
でっかいお菓子みたいだ。
」
それは、上からたれた石灰分が、かたまってできた、まっ白な石じゅんでした。
鍾乳石や石じゅんのことは、学校でおそわっていましたが、見るのは、これがはじめてです。
バタ、バタ……と、どこかで、へんな音がしました。「おやっ!」と思って、みんなが立ちどまっていると、どうくつの奥のほうから、サーッとまっ黒なものがとび出してきました。
「ワーッ、怪物だあ……」
例によって、ノロちゃんです。
ノロちゃんは頭を両手でかかえて、そこへうずくまってしまいました。
「ワーッ、怪物だあ……」
「ワーッ、怪物だあ……」
どうくつの奥から、おなじ声がだんだん小さくなりながら、いくつも聞こえてくるのです。
奥のほうにだれか人間がいて、まねをしているのでしょうか。
みんなはゾッとして、おもわず体をくっつけあいました。
すると、小林団長が、
「おどろくことはないよ。
あれは、こだだよ。
ノロちゃんの声が、どうくつに反響したんだ。」

あっ、ひもが切れた

ノロちゃんをおどろかせた怪物は、バタバタとてんじょうを飛びまわってから、サーッとどこかへいってしまいました。
「なあんだ、あれ、コウモリだよ。
怪物じゃないよ。」
井上君はおかしそうに言いました。
「ハハハ……、ノロちゃんの声のほうがよっぽどこわかったよ。
コウモリはなんにもしやしないよ。」
それからまた奥へ奥へと進んでいきますと、岩穴がだんだんせまくなり、いきどまりになってしまいました。
「あらっ、これで終わりかしら。
せまいんだなあ。」
「そうじゃないよ。
ごらん、あそこに岩のわれめの小さい穴があるだろう。
あそこから、はってはいるんだよ。
ぼくのにいさんがそう言ってたよ。
にいさんは前にここへ来たことがあるんだ。」
水野という少年が岩のわれめをゆびさして言うのです。
そこで小林団長がさきにたって、みんなよつんばいになってその小さな穴にはいっていきました。
「ワーッ、なんだかぼくの首へ落ちてきたよ。
ヘビだよ。
はやく、はやくとって……」
さけんだのはやっぱりノロちゃんでした。
うしろにいた少年がいそいでノロちゃんの首をなでてみました。
「なあんだ、水じゃないか。
上から水がしたたり落ちたんだよ。
ノロちゃんの弱虫!」
「そうかあ。
いやにつめたいと思ったよ。」
ノロちゃんはやみの中でペロッと舌を出しました。
よつんばいになって七、八メートルも進むと、パッとあたりが広くなりました。
もう立って歩けるのです。
みんなが広い穴へ出ると、三つの懐中電灯でグルッとてらしてみました。
「あっ、枝道だよ。
ふたつにわかれている。
どっちへいったらいいのだろう。」
「さきに広いほうへいってみよう。」
小林団長が進む道をきめました。
その広いほうの穴をすこしいきますと、どこからかゴーッ、ゴーッというぶきみな音が聞こえてくるではありませんか。
みんな立ちどまって、「なんだろう?」「なんだろう?」とささやきかわしました。
「あっ、わかった。
地底の川だよ。
ほら、そこに大きな岩のさけめがある。
その下のほうに水がながれているんだよ。
その水の音だよ。」
はば一メートル半もある大きな岩のさけめがどうくつをよこぎっていました。
懐中電灯でそのなかをてらしても、あまり深いのでな何も見えませんが、その底に水がながれているらしく、ゴーッ、ゴーッという音が聞こえ、つめたい風が吹きあがってきます。
みんながその深い穴をのぞいていますと、岩のさけめの下のほうから懐中電灯の光の中へ、なにか大きな鳥のようなものがフワフワと浮きあがってきました。
あっとおもうまにそれがどうくつのやみの中へ消えていくと、また底のほうからネズミ色の大きなやつがいくつもいくつも浮きあがってくるのです。
「おどろくことはないよ。
コウモリだよ。」
岩のさけめの中にたくさんのコウモリがすんでいたのです。
それが懐中電灯の光におどろいて飛びだしてきたのです。
「さあ、みんな、こんなものにかまっていないで、もっと奥へ進むんだ。」
小林団長が命令しました。
「だって、この岩のさけめはとてもとびこせないよ。
底が見えないほど深いんだもの。」
「とびこさなくてもいいよ。
よくごらん。
ここに橋がかけてあるじゃないか。」
見ると一まいの長い板が岩のさけめに渡してありました。
少年たちはひとりずつそれを渡って奥へ進みます。
しばらくいくとまた道がふたつにわかれていました。
小林団長は右がわの穴へ進むことにしました。
十人の少年たちは懐中電灯であたりをてらし、どこかに黄金のトラがかくしてないかと二十の目を光らせていましたが、まだなにも発見できません。
それからたびたび枝道にぶつかりました。小林団長は、いつも、右へ右へと進んでいきます。
おそろしい迷路です。
道しるべのひもがなかったら、とても、入口へもどることはできません。
そのとき、うしろのほうで、「あっ。」という声がしたので、みんな、びっくりして、懐中電灯を、そのほうにむけました。
すると、そこに井上一郎君が、たおれていたではありませんか。
「だいじょうぶかい? けがはしなかった?」
「うん、だいじょうぶ。岩につまずいたんだよ。」
感心なことに、井上君はころんでも、あのひもの玉を、しっかりだきしめていました。
しばらく進みますと、また、うしろのほうから、「あっ、しまったっ。」という声が、聞こえました。
やっぱり井上君です。
「どうしたの? また、ころんだのかい?」
「そうじゃないよ。たいへんなことを、しちゃった!」
「えっ、たいへんなことって?」
「さっき、ころんだとき、道しるべのひもが、切れちゃったんだよ。」
「えっ、きみの持ってるひもが?」
「うん、ひっぱると、てごたえがなくて、ズルズルたぐりよせられるんだ。とちゅうで切れたんだよ。ほら、こんなにみじかくなってるよ。

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