」
ひもは、その切れたところまで、すっかり、たぐりよせられていました。
みんなは、おどろいて、井上君のまわりに集まりました。
「それじゃ、道しるべが、なくなってしまったんだね。」
「ぼくらは、もう帰れなくなったんだね。」
ノロちゃんは、ベソをかいています。
ノロちゃんばかりではありません。
みんな心配で、胸がドキドキしてきました。
飛びかかるトラ
「ぼくがわるいんだよ。ぼくがころんだのが、いけないんだよ。みんな、ぼくを、うんと、なぐっておくれ。」
さすが、力じまんの井上君も、泣き声になっています。
小林団長は、ひもの切り口を、懐中電灯でしらべていましたが、はっとしたように、顔をあげてさけびました。
「そうじゃないよ。きみがころんだから、切れたんじゃないよ。ほら、この切り口をごらん。だれかが、ナイフかハサミで、わざと切ったんだよ。岩かどですり切れたんじゃないよ。」
いかにも、それは、なにかするどいはもので切ったような、切り口でした。
「だれだろう。いったい、だれが、こんないたずらをしたんだろう?」
なんだか、気味がわるくなってきました。
「あっ、わかった。魔法博士だよ、きっと。」
「魔法博士が、どっかに、かくれていて、ぼくらを、このどうくつから、出られなくしたんだよ。」
みんなは、ゾーッとおそろしくなって、だまりこんでしまいました。
もう、生きたここちもないのです。
「あっ、いいことがある。みんな、心配しないでもいいよ。ぼくらは、ここを出られるよ。」
小林団長が、明るい声でさけびました。
「ぼくらは、枝道に出くわすたびに、右へ右へと進んできたね。だから、ほら、考えてごらん。帰りにはぎゃくに、左の手で、左がわの岩にさわって、歩いていけば、しぜんに、もとへもどれるんだよ。ね、そうだろう。」
いかにも、よく考えてみると、そのとおりでした。
もうだいじょうぶです。
「ばんざーい、やっぱり、団長はえらいなあ!」
ノロちゃんが、いせいのいい声をだしました。
ノロちゃんは、ベソをかくのもはやいかわりに、よろこぶのも、まっさきです。
みんな、いきかえったような気持になって、左手で左の岩にさわりながら、あとへ、ひきかえしました。
いくつかの枝道を、ぶじに通りすぎて、あの深い岩のさけめのところまで、たどりつきました。
「あっ、ここだ。ここからコウモリが、たくさん飛びだしたんだ。やっぱり、もとにもどれたねえ。」
みんな、大よろこびです。
ところが、懐中電灯で、岩のさけめをてらしていた、ひとりの少年が、
「あっ、たいへんだっ。橋がなくなっている。」
さっき、みんなが渡った板の橋が、消えてなくなっていたのです。
はば一メートル半もある深い岩のさけめですから、橋がなくては、とても渡ることはできません。
「やっぱり、そうだよ。魔法博士が、かくれているんだ。そして、板をどっかへ持っていって、ぼくらを、ここから出られなくしたんだよ。きっと、そうだよ。」
ああ、もうだめです。
さすがの小林団長も、こうなっては、うまい知恵も浮かびません。
三本のピッケルを、ひもでつないで、橋のかわりにしても、とても人間をささえる力はないのです。
このまま、どうくつを出られないとすると、少年たちは、うえ死にしなければなりません。
それを思うとおそろしさに、からだがあたがた、ふるえてくるのでした。
十人の団員が、おそれおののいているのを見て、小林団長は、ここで、みんなを元気づけなければいけないと思いました。「なあに、そのうち、きっと良いアイデアが思い浮かぶさ。
それよりも、もうお昼どきじゃないか。
おなかがぺこぺこでは、良い知恵だって浮かんでこないよ。
この奥の広い場所で、のんびりとお弁当を広げようじゃないか。」
少年たちは、洞窟の奥にある広々とした場所へ戻り、懐中電灯を真ん中に置いて、その周りに輪になって腰を下ろしました。リュックの中からお弁当を取り出し、水筒の水を飲みながら食べ始めました。
みんな、これからどうなってしまうのだろうと不安でいっぱいで、ごはんもなかなか喉を通りません。
それでも、弱虫だと思われたくなくて、みんな必死に強がりながら、まるでとても美味しいかのようにパクパクと食べています。
するとその時、どこか遠くの方から、「ウォーッ、ウォーッ」という恐ろしいうなり声が聞こえてきました。
「おやっ、あれはいったい何だろう?」
「人間の声じゃないよね。」
「水の流れる音でもなさそうだよ。」
「ずっと奥の方から聞こえるぞ。ぼく、行って見てくるよ!」
お弁当を食べ終えた井上一郎君がそう言って立ち上がり、懐中電灯を手に持って、洞窟のさらに奥へと入っていきました。
枝道のあたりまで進んで耳をすませていると、左側の穴から、また「ウォーッ、ウォーッ」というものすごい声が響いてきました。
井上君が懐中電灯で穴の奥を照らしてみると、真っ暗な闇の中に、キラキラと金色に光る小さな何かが見えました。
「あっ、黄金のトラだっ!」
それは確かに、トラの形をした金色の物体でした。
しかし、不思議なことに、そのトラは動いているのです。
ノソノソと、こちらに向かって近づいてくるではありませんか。
黄金でできたトラが勝手に動くはずなんてありません。
これは一体、どういうことなのでしょう。
トラの姿が、だんだんと大きくなってきました。
最初は十センチくらいの小さなトラだったのに、近づいてくるにつれて、みるみるうちに大きくなっていくのです。
二十センチ、三十センチ、五十センチ……。
生きているのです。
本物の、生きた大きなトラなのです。
でも、なんて不思議なトラなのでしょう。
全身の毛がまるで金の糸でできているかのように、キラキラと美しく輝いています。
二つの大きな目は、まるでダイヤモンドのような強い光を放って光り輝いているのです。
そして、恐ろしい牙の生えた真っ赤な口をガッと大きく開いたかと思うと、
「グルルルル……、ウォーッ!」
「ワーッ、トラだあ! 本物のトラが出たあ!」
いくら勇敢な井上君でも、本物のトラにはかないません。
彼は悲鳴をあげて、その場から逃げ出しました。
すると、その叫び声が洞窟の壁にこだまして、
「トラだあ……、トラだあ……、トラだあ……」
と、いつまでも不気味に響き渡るのでした。
手前にいた少年たちはびっくりして、一斉に立ち上がりました。
「井上君、どうかしたのかい? 日本の山のなかに、トラなんているわけないじゃないか!」
小林団長が、しかるように言いました。
「本当なんだよっ! おばけのトラだあ! 金色のトラだあ! ほら、あそこから……!」
少年たちは、持っている懐中電灯をありったけ点灯させ、井上君が指さすほら穴のほうを照らし出しました。
さあ、ご覧なさい。
その六つの丸い光の輪が重なり合った明るい場所へ、恐ろしいものがヌーッと姿を現したではありませんか。
大きなトラです。
全身が金色の、恐ろしいほど大きなトラです。
そいつが真っ赤な口を大きく開き、鋭い白い牙をむき出しにして、十メートルほど向こうからノソノソとこちらに向かって歩いてくるのです。
ああ、もう七メートルに縮まりました。
五メートルになりました。
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