初級翻訳・一寸法師 第16話

一寸法師

それからまた細い通りを幾度も曲がって、三町ばかりも歩くと、お揃いの小さな門のついた、官吏の住宅とでもいった感じの借家が、ずっと軒を並べている町へ出ました。不思議な男は、その中の一軒の門をくぐり、入り口ですぐの場所にあったガラス張りの格子戸を開けました。
山野夫人は、もう覚悟を決めたという様子で、顔色は青ざめていましたが、案外落ち着いて男のあとについて入りました。
男は自動車の運転手にさえ自分の隠れ家を知られまいとして、わざと三町も手前で車を降りたのです。
小間使いのお雪が車の番号を覚えていたところで、これほど用心深い相手には何の役にも立ちません。
しかし、幸いなことに、山野夫人の身辺には、明智小五郎やお雪以外にも、もう一人、絶えず付きまとっている人物がいました。
彼は正義感や好奇心などよりも、もっと熱烈なある動機から、一瞬たりとも夫人の監視を怠らなかったのです。
不思議な男と山野夫人が自動車を降りて、暗い町の中に姿を消したころ、運転手の隣の席に座っていた助手は、借り物の派手なオーバーを脱ぎ、一枚の紙幣を運転手に渡しながら言いました。
「やあ、ありがとう。
これはほんの少しですが、お礼の印です。
相方の助手さんにもよろしく伝えてください」
助手に化けて運転席に座っていたのは、他でもない小林紋三でした。
彼は本物の助手から借りたオーバーを脱ぐと、その下には例の一張羅である空色の春外套を着ていました。
彼は自動車を降りると、半町ほど先を歩いていく男女のあとを、用心深く尾行しました。
そして、彼らが小さな門のある家に入るまでを見届けました。
紋三はそれから執念深く、その家の前で見張りを続けました。
たとえ彼に家の中へ踏み込む勇気があったとしても、山野夫人の秘密が何であるのか、また夫人に対してあの妙な男がどのような関係を持っているのか、それらの点が少しも分かっていない以上、無謀な真似はできません。
幸いなことに、家の脇には細い路地があり、それが家の裏口のところで突き当たりになっていたので、その路地の入り口で見張っていれば、たとえ彼らが裏口から逃げ出したとしても見逃すことはありませんでした。
紋三は暗い路地の中に身をひそめ、根気よく立哨を続けました。
こうして自動車の助手に化けたり、闇の中で不思議な人物を見張ったりすることが、彼をいくらか得意な気持ちにさえさせていました。
格子戸を開けて入ると、一坪ほどの土間があり、三畳の玄関、そしてそこからすぐに二階へ続く階段がありました。
男は黙ったまま、その階段を上っていきました。
山野夫人はなぜか足音を忍ばせるようにして、そのあとに続きました。
足の不自由な男は、子供のように両手を使って、階段を一段ずつ、のろのろとはい上がっていきました。
夫人は下で待たされながら、まるで蟹が石垣をはい上がっていくようだと思いました。
二階は六畳と四畳半の二間続きでした。
男はその六畳の座敷に入ると、ふすまをピッタリと閉め切りました。
「立っていても仕方がないでしょう。
そこに座布団があるから、ご自由にお敷きなさい。
だが、百合枝さん、とうとう来ましたね」
男は気味悪く笑いながら言いました。
そして、自分も一枚の座布団を取って、外套を着たままその上に腰を下ろしました。
彼は足を曲げるのが非常に辛そうでしたが、長い時間をかけて、ようやく横座りになりました。
「ひどく堅苦しくしていますね。
もっとくつろいだらどうです」
彼は眼鏡の奥から蛇のような目を光らせて、夫人を見つめました。
「ここには誰もいないのですか」
百合枝は部屋の隅の方に小さく座り、乾いた唇で尋ねました。
「まあ、いないようなものです。
耳の遠い老婆を雇っているのですが、あなたがいやがるだろうと思って、顔を出さないよう言い含めてあります。
耳が聞こえないのも同然の老婆ですから、大丈夫ですよ。
少々大きな声を出したところで、聞かれる心配はありません」
男はその時までかぶっていた大きな鳥打帽を脱ぎました。
その下には、モジャモジャした短い毛が汚らしく生えていました。
不思議なことに、そうして帽子を脱ぐと、彼の顔つきがガラリと違って見えました。
「まあ」
それを見て、百合枝は驚いて息をのみました。
「ハハハハハハハ、これかね」男は頭をかき回すようにして「これはカツラですよ。
顔が違って見えるかね。
これくらいのことで驚いてはいけない。
もっとひどいことがあるんだ。
だが、どんなことがあったって、あなたはもう私のものだ。
逃げようとしても逃げられるものじゃない。
逃げればあなたの身の破滅なんだからね」
男は鼻の上に醜いしわを寄せ、奇怪な笑い方で笑いました。
彼は少しずつ仮面を脱ぎ、残忍な正体を現し始めていたのです。
「ワハハハハハハ」彼は突然歯をむき出しにして、気違いのように笑いました。
「百合枝さん。
ああ、今こうしてようやくあなたに呼びかけることができるんだ。
恋人のように呼びかけることができるんだよ。
十年の間、私は胸の中でこの名を呼び続けていた。
どうしたって叶うはずがないと分かっていても、その望みを捨てることができなかった。
だが、今それがかなったのだ。
まるで夢のような幸せだ。
百合枝さん、私を愛してくれなんて、そんな無理なことは頼まない。
この不幸な生まれつきの男を、どうか憐れんでくれ」「私の悪だくみを憎まないでください。そうまでしなければならなかった、私の切ない心の内を察してください」

男はそれまでの威圧的な態度を一変させ、身をよじりながら哀願しました。いつのまにか、外套姿の長い体は横倒しになり、まるで奇妙な長い虫のように身をくねらせながら、百合枝の方へと近づいてきました。

「あなたは一体だれなのです。私の知っているあなたではないのですか。だれですか、だれなのです!」

百合枝はさらに部屋の隅へと身をすくめながら、上ずった声で叫びました。

「あなたはそれが知りたいのですか。では、今教えてあげましょう」

横たわっていた男が、飛び上がるようにして跳ね起きると、電灯の方へ手を伸ばしたかと思う間もなく、パチッという音がして、突然部屋が真っ暗になりました。二階の雨戸が完全に閉め切られているうえに、外の往来にも薄暗い門灯の光以外には何もありません。そのため、電灯が消えると部屋の中は完全な闇となりました。

百合枝夫人はその闇の中で、ある覚悟を決めたような身構えをして、じっと男のいた方角を見つめていました。彼女は何よりも、今回の事件の真相が暴露されることを恐れていました。その秘密を守るためには、どんな犠牲も払う覚悟でした。まだうら若き娘というわけではない彼女は、軽々しく悲鳴を上げるようなことはしませんでしたが、それでもやはり、言いようのない恐怖に胸のあたりがビクビクと震えるのを抑えることはできませんでした。

今にも飛びかかってくるかと思われましたが、男は不思議と鳴りをひそめていました。しばらくの間、部屋の向こうの隅から、何かカタカタという物音に混じって、彼の荒い息づかいが聞こえてくるばかりでした。

「不意に電気を消したりして、びっくりするじゃありませんか。早くつけてください。

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