目は正面を見つめたまま、まばたきもしません。
その男は、荒いこうしじまの背広をきていましたが、その肩などは、まるでカカシみたいにまっすぐで、機械に服をきせたようです。
それに歩きかたが、じつにへんてこでした。
これも機械じかけらしく足を動かすたびに、ギリギリと、歯車の音が聞こえるように思われました。
二少年は、からだをくっつけあって、おそろしそうに、このふしぎな人間を見つめています。
すると、その男は、機械のような歩きかたで、こちらに近づき、二少年の前に立ちどまると、ロウのような顔の口だけをパクパク動かして、なにか、しゃべりはじめたのです。
その声が、また、歯車のきしるような、じつに、いやあな声なのです。
「魔法博士が、きみたちを呼んでいる。
ぼくが、案内するから、いっしょに来なさい。
」
それをきくと井上少年は、思いきってたずねてみました。
「魔法博士って、何者です? どうしてぼくたちを、こんなうちへつれてきたんです。
」
すると、男はまた、口だけを動かして答えました。
口のほかは、すこしも動かず、目は、まっすぐ前を見つめたまま、一度も、少年たちの方を見ないのです。
「それは、魔法博士にききなさい。
魔法博士にあえば、すっかりわかるのだ。
」
少年探偵団は、いつか、魔法博士というふしぎな人物と、黄金のトラを盗みだす知恵くらべをしたことがあります。
あの魔法博士なら、悪人ではありません。
このうちにいる魔法博士は、あの人と同じなのでしょうか。
いや、どうも、そうではなさそうです。
名まえは同じでも、まったくべつの魔法博士にちがいありません。
ノロちゃんは、ただふるえているばかりですが、井上君はしっかりした少年ですから、その魔法博士にあってみようと思ったのです。いやだといっても、どうせまた、さっきの男たちがとびだしてきて、むりに、つれていくのでしょう。
それよりは、こちらからすすんで、魔法博士にあいにいったほうがよいと考えたのです。
「ノロちゃん、もう、こうなったら逃げることはできないんだから、いってみよう。
そして、魔法博士に、わけをきいてみよう。」
井上君は、そういって、ふるえているノロちゃんの手をひっぱって立ちあがらせ、ロウの顔をもった男のあとについて部屋を出ました。
黄金怪人
青くすきとおったロウのような顔のやつは、けっして人間ではありません。
機械でできている人造人間です。
顔は、ロウ人形の顔なのです。
声も、こいつの声ではなく、からだのなかに拡声器がとりつけてあって、どこか遠くのほうで、だれかが、マイクロフォンの前でしゃべっている声が、こいつのからだの拡声器から出てくるのでしょう。
ロウ人形は、あの機械のような歩きかたで、コツコツと、廊下を進んでいきます。
ひどくうす暗い廊下です。
そこを、右にまがったり、左にまがったりして、奥のほうへはいっていくのです。
そのうちに、廊下がまっ暗になってしまいました。
電灯が、ひとつもついていないのです。
角をまがったので、うしろのほうの電灯の光も、ここまではとどきません。
そのやみの中で、ロウ人形は、ひとつのドアをひらきました。
しかし、その部屋の中もまっ暗です。
黒ビロードのように、まっ暗です。
井上君とノロちゃんは、ドアのところで、立ちどまりました。
あまり暗くて、ロウ人形の姿も、見えなくなってしまったからです。
どうしようかと、考えながら立ちすくんでいますと、暗やみのむこうのほうに、ボーッと、金色に光るものが見えてきました。
見ていると、その金色のものが、だんだんはっきりしてくるのです。
どこからか、そこだけに、光をあてているのでしょう。
黒ビロードのやみの中に、ごこうがさすほど、ピカピカ光る黄金の人の姿があらわれたのです。
京都の三十三間堂には、金色まばゆい仏像が、何百となく並んでいます。
あの仏像のひとつがぬけだしてきて、いま、この暗やみの中に、姿をあらわしたのかと思われるばかりです。
しかし、それは、ほとけさまではなくて、人間の姿をしていました。
からだは、西洋のよろいのように、肩や手足のまがるところが、ちょうつがいになっていました。
顔は黄金仮面です。
ほそい目、三日月がたに、くちびるの両方のすみが、キューッと上にあがった、黒い口。
つまり、笑っているのです。
どんなに、おこったときでも、口だけは三日月がたに、笑っているのです。
髪の毛も金色でした。
それが大仏の頭のように、たくさんの玉になって、ちぢれているのです。
その黄金怪人は、やっぱり機械のような歩きかたで、ジリジリと、こちらへ近づいてきました。
まっ暗な中に黄金の姿だけが、キラキラとかがやいているのです。
そして、三日月がたの口の中から、やっぱり、歯車のきしるような、あのぶきみな声が聞こえてきました。
「井上と野呂だね。
よくきた。
わしは魔法博士だ。
やみの国の王さまだ。」
三日月の口が、うすきみ悪く笑っていました。
井上君とノロちゃんは、あまりの恐ろしさに、口をきく力もありません。
ふたりはだきあって、立ちすくんだまま、石にでもなったように、身うごきもできないのです。
魔法博士の黄金怪人は、さらに、ぐっとふたりの前に近づいてきました。
そのぶきみな黄金の顔が、目の前いっぱいの大うつしになって、ほそいまぶたのおくから、恐ろしい目がのぞいているのです。
「わしは大どろぼうじゃ。
魔法つかいの大どろぼうじゃ。
だが、お金や宝石を盗むのではない。
そんなありふれたどろぼうではない。
わしは人間を盗むのじゃ。
ウフフフ……、それもただの人間ではない。
日本じゅうのどろぼうが、ひじょうに恐れている、えらい人間を盗むのじゃ。
わかるかね。
名探偵明智小五郎を、盗みだすのじゃ。」
黄金怪人は、そこで、ことばをきって、ヘラヘラと笑いました。
やっぱり歯車のきしむような、いやらしい笑い声です。
ふたりの少年は、それをきくと、心のそこからびっくりしてしまいました。
明智先生を盗みだすなんて、じつに、とほうもない話ではありませんか。
「明智探偵ばかりじゃない。
まず、手はじめに、少年助手の小林というやつを、盗んでやる。
小林は、きみたち少年探偵団の団長だね。
だから、最初にきみたちをここへつれてきたのだ。
べつに、人じちというわけじゃない。
わしの魔法の種につかうためだ。
どんな魔法だか、それはいえない。
わしのだいじな秘密だからな。
まあ、このうちで遊んでいるがいい。
このうちには、きみたちがびっくりするようなものが、山ほどある。」人造人間の部屋なんて、ほんの、そのひとつにすぎない。
もっともっと恐ろしい部屋が、いくつとなくできているんだ。
わしは魔法の国の王さまだからな。
」
そういったかとおもうと、黄金怪人は、スーッとあとずさりをして、向こうのほうへ遠ざかり、だんだん小さくなって、やがて、かき消すように見えなくなってしまいました。
あとは、まっ暗なビロードのやみです。
二少年は、おたがいの顔も見ることのできない、真のやみの中にとりのこされました。
井戸の中から
井上君とノロちゃんは、それから、どうなったのでしょう。
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